英国太平記 小林正典(著)2009年5月発行
今回は、この本の題名に惹かれて読んでみることにしたのですが、予想以上に
楽しめました。
中世のイギリスなんて、野蛮もいいところ・・・
石造りの暗く堅牢な城とは名ばかりの砦や、鈍い輝きを放ち重くいかにも動き
にくそうな甲冑や剣や槍、城の壁にずらりと並ぶ偉そうな肖像画、、、
そんな私の学生時代の旅の印象があったので、期待はせずに読み始めたの
だけれど、、、これが意外、、、どんどん引き込まれてしまった。
この本を読んでから、スコットランドを旅すれば、楽しさ倍増だったのに残念。
「あ~、あの時の銅像がロバート・ブルースだったのかあ」
「あのエディンバラ城でそんなことがあったのか」
「セント・アンドリューズ(今ではゴルフの聖地)はスコットランド教会の
要だったのね~」
若い頃の旅の思い出と重なり、覚えのある土地の名前が出てくる度に地図と
見比べで懐かしさに浸ってしまった。
ロッホ・ローモンド、ロッホ・ネス(ネス湖)やグラスゴー、インバネス、
アバディーンなどは、友人達と一緒にエディンバラから週末のドライブ旅行
(1泊2日の)で巡った場所なので、より身近に感じた。
さて、肝心の本の内容だが、本の紹介文を借りることにする。
━七百年前、日本が『太平記』の語る南北朝の動乱期を迎えた頃、英国でも
30年にわたる苛烈な戦いの日々がつづいていた。国力に勝る南のイングランド
が、当時別国だった北のスコットランドの併合を企てたが、スコットランドが
激しく抵抗したためである。
野心家で政策と計略に長けたイングランドの王、エドワード1世は、大ブリテン
島の統一、さらにはフランス征服を虎視眈々と狙っていた。
一方、時代の流れに押し流されながらも、幾多の悲運を乗り越えて人間的に成長
を遂げ、ついにはスコットランドの王として祖国を独立に導くことになる
ロバート・ブルース。
本書は、対照的な二人の王の生涯を縦糸に据え、横糸に両国間の戦場での数々
の死闘、フランス等を巻き込んだ国際政治の権謀術数、過酷な時代を生き抜いた
人々などを克明に描いた歴史小説である。略 ━
イメージしにくい時は、映画の『ブレイブ・ハート』を思い浮かべてみると
いいかもしれない。あのような戦いを繰り返していたのだ。
映画の主役は、「ウィリアム・ウォレス」で、ブルースがスコットランドの王
となる前に、イングランドにゲリラ戦を挑み、スコットランド人を奮起させた
人物である。(エドワードに処刑されるが)
この太平記、読んでいると、各国の王や貴族や法王までみんなの政略や
だましや裏切りや日和見などの繰り返しに、戦いで勝利し侵略したほうが、
その土地での略奪、強姦、重税を課す、、、などの応酬ばかりがつづき、
「うんざり」してくるかもしれない。
しかし、それが事実だったのだから仕様がない。
これが、イギリスの歴史なのだから・・・。そして、日本も同じ。
この「うんざり」の中で、ブルースの高潔さには救われるし、
当時としては珍しい夫婦愛にも好感をもてた。
ブルースを取り巻く人物も魅力ある者たちが集まり、だからこそスコットランド
の独立が叶ったのだろう。
この小説は、戦闘、謀略などのみを描いているわけではなく、
ブルースを助ける勇猛な武将で、その容貌から「ブラック・ダグラス」と呼ば
れた「ダグラス」は、後に人気の名前となる話(ダグラス・マッカーサーなど)
や、あのマクドナルド一族が西海岸(スコットランドの)の覇者として君臨する
に至る経緯など、興味深い豆知識も盛り込まれているので飽きずに楽しめる。
また、私の印象に残った場面で、
ブルースの隊が戦いに敗れ、彼一人、森の中を逃げ惑い、洞窟の中での一夜、
自分の身内や友人、自分に付き合って死んだ人々に対して、罪の意識と絶望に
沈むシーンがある。
しかし、絶望するブルースの目に、蜘蛛が粘り強く巣を張る姿が写る。
それを見た彼は、
「あんな小さなものでも、あんなに粘り強いのだ。ロバート、おまえはここで
挫けて、恥ずかしくないのか」と、彼は再起を決意、立ち上がって荒野を歩き
始める。
さまざまな悲運を乗り越えていくロバートの不屈の精神と、人間として成長して
いく姿には感動した。
凄惨な戦闘シーンや拷問、節操のない裏切り、駆け引きなど歴史の事実が
たっぷりと描かれているのだが、不思議なことに爽やかな読後感の小説だった。
それは作者が、元自動車メーカーの英国駐在員で、歴史が大好きで、実際に
イングランド、スコットランドの地をめぐり、その気質の違いを身近に知って
描いたとことが、大きく影響しているかもしれない。
中世は暗黒時代、というイメージを覆し、中世人の知性、志の高さを評価し、
紹介しようとした作者の情熱が伝わってくる本です。
わがまま母
今回は、この本の題名に惹かれて読んでみることにしたのですが、予想以上に
楽しめました。
中世のイギリスなんて、野蛮もいいところ・・・
石造りの暗く堅牢な城とは名ばかりの砦や、鈍い輝きを放ち重くいかにも動き
にくそうな甲冑や剣や槍、城の壁にずらりと並ぶ偉そうな肖像画、、、
そんな私の学生時代の旅の印象があったので、期待はせずに読み始めたの
だけれど、、、これが意外、、、どんどん引き込まれてしまった。
この本を読んでから、スコットランドを旅すれば、楽しさ倍増だったのに残念。
「あ~、あの時の銅像がロバート・ブルースだったのかあ」
「あのエディンバラ城でそんなことがあったのか」
「セント・アンドリューズ(今ではゴルフの聖地)はスコットランド教会の
要だったのね~」
若い頃の旅の思い出と重なり、覚えのある土地の名前が出てくる度に地図と
見比べで懐かしさに浸ってしまった。
ロッホ・ローモンド、ロッホ・ネス(ネス湖)やグラスゴー、インバネス、
アバディーンなどは、友人達と一緒にエディンバラから週末のドライブ旅行
(1泊2日の)で巡った場所なので、より身近に感じた。
さて、肝心の本の内容だが、本の紹介文を借りることにする。
━七百年前、日本が『太平記』の語る南北朝の動乱期を迎えた頃、英国でも
30年にわたる苛烈な戦いの日々がつづいていた。国力に勝る南のイングランド
が、当時別国だった北のスコットランドの併合を企てたが、スコットランドが
激しく抵抗したためである。
野心家で政策と計略に長けたイングランドの王、エドワード1世は、大ブリテン
島の統一、さらにはフランス征服を虎視眈々と狙っていた。
一方、時代の流れに押し流されながらも、幾多の悲運を乗り越えて人間的に成長
を遂げ、ついにはスコットランドの王として祖国を独立に導くことになる
ロバート・ブルース。
本書は、対照的な二人の王の生涯を縦糸に据え、横糸に両国間の戦場での数々
の死闘、フランス等を巻き込んだ国際政治の権謀術数、過酷な時代を生き抜いた
人々などを克明に描いた歴史小説である。略 ━
イメージしにくい時は、映画の『ブレイブ・ハート』を思い浮かべてみると
いいかもしれない。あのような戦いを繰り返していたのだ。
映画の主役は、「ウィリアム・ウォレス」で、ブルースがスコットランドの王
となる前に、イングランドにゲリラ戦を挑み、スコットランド人を奮起させた
人物である。(エドワードに処刑されるが)
この太平記、読んでいると、各国の王や貴族や法王までみんなの政略や
だましや裏切りや日和見などの繰り返しに、戦いで勝利し侵略したほうが、
その土地での略奪、強姦、重税を課す、、、などの応酬ばかりがつづき、
「うんざり」してくるかもしれない。
しかし、それが事実だったのだから仕様がない。
これが、イギリスの歴史なのだから・・・。そして、日本も同じ。
この「うんざり」の中で、ブルースの高潔さには救われるし、
当時としては珍しい夫婦愛にも好感をもてた。
ブルースを取り巻く人物も魅力ある者たちが集まり、だからこそスコットランド
の独立が叶ったのだろう。
この小説は、戦闘、謀略などのみを描いているわけではなく、
ブルースを助ける勇猛な武将で、その容貌から「ブラック・ダグラス」と呼ば
れた「ダグラス」は、後に人気の名前となる話(ダグラス・マッカーサーなど)
や、あのマクドナルド一族が西海岸(スコットランドの)の覇者として君臨する
に至る経緯など、興味深い豆知識も盛り込まれているので飽きずに楽しめる。
また、私の印象に残った場面で、
ブルースの隊が戦いに敗れ、彼一人、森の中を逃げ惑い、洞窟の中での一夜、
自分の身内や友人、自分に付き合って死んだ人々に対して、罪の意識と絶望に
沈むシーンがある。
しかし、絶望するブルースの目に、蜘蛛が粘り強く巣を張る姿が写る。
それを見た彼は、
「あんな小さなものでも、あんなに粘り強いのだ。ロバート、おまえはここで
挫けて、恥ずかしくないのか」と、彼は再起を決意、立ち上がって荒野を歩き
始める。
さまざまな悲運を乗り越えていくロバートの不屈の精神と、人間として成長して
いく姿には感動した。
凄惨な戦闘シーンや拷問、節操のない裏切り、駆け引きなど歴史の事実が
たっぷりと描かれているのだが、不思議なことに爽やかな読後感の小説だった。
それは作者が、元自動車メーカーの英国駐在員で、歴史が大好きで、実際に
イングランド、スコットランドの地をめぐり、その気質の違いを身近に知って
描いたとことが、大きく影響しているかもしれない。
中世は暗黒時代、というイメージを覆し、中世人の知性、志の高さを評価し、
紹介しようとした作者の情熱が伝わってくる本です。
わがまま母