遊び人親子の日記

親子で綴る気まぐれ日記です。

契り橋 あきない世傳金と銀 特別巻上

2024年07月15日 10時44分00秒 | 読書

          契り橋   あきない世傳 金と銀 特別巻 上

                         高田郁(著)2023年8月発行

  『あきない世傳 金と銀』シリーズが数年前に完結し、ガッカリしていたところ、

  昨年『特別編』が出版されていたと気づいたのが、迂闊にもつい最近のこと、、、。

  もちろん、喜んで一気読み。で、読み終えたら、もうすでに下巻も出ているでは

  ないですか〜、、、。すっかり油断していた自分を悔やむも、致し方なし。

  遅まきながら、これから下巻を読みます。

  特別編 上巻では、シリーズの主人公ではなく、脇を固めた登場人物たちの心模様

  が、細やかに描かれていました。

  シリーズで、例えば、五十鈴屋の惣次(「幸」の二番目の旦那さん)が、何故、

  どういう経緯で江戸の両替商「井筒屋 三代目 保晴」として登場することに

  なったのか・・・。個人的には疑問に思っていた件でしたが、これが第一話と

  して描かれていました。

  特別編も、相変わらず期待に違わぬ、人間の矜持、情、優しさが描かれており

  楽しく読みました。

     わがまま母

 — 角川 本書内容紹介文 — 

 シリーズを彩ったさまざまな登場人物たちのうち、四人を各編の主役に据えた短編集。

 五鈴屋を出奔した惣次が、如何にして井筒屋三代目保晴となったのかを描いた「風を抱く」。

 生真面目な佐助の、恋の今昔に纏わる「はた結び」。

 老いを自覚し、どう生きるか悩むお竹の「百代の過客」。

 あのひとに対する、賢輔の長きに亘る秘めた想いの行方を描く「契り橋」。

 商い一筋、ひたむきに懸命に生きてきたひとびとの、切なくとも幸せに至る物語の開幕。

 まずは上巻の登場です!

  

  

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襷がけの二人

2024年07月01日 13時58分32秒 | 読書

           襷がけの二人     島津 輝(著)2023年9月発行

   大正末から昭和〜終戦直後の時代を背景としているせいか、どこか懐かしい雰囲気が

   漂っていて、不思議な安心感を覚えつつ、面白く一気に読んだ。

   最近は、こんな風な小説読んでいなかったから懐かしさを感じたのかも。

   バブル前のテレビ番組に、こんな設定のドラマがあったような記憶が、、、。

   登場人物は、主人公の「千代」と、嫁ぎ先で一緒に暮らすことになる

   粋で、チョイと訳ありげな「お初さん」こと「初衣」、若い女中「お芳」と、

   ほぼこの女性三人が中心。

   とかく難しいといわれる「女三人」も、尊敬できて、互いを思いやれれば、

   こんないい関係を築きながら絆を深め、成長していけるのですよねえ。

   また、三人が協力し合う台所で作られる料理、家庭料理ながらも、気持ちが

   こもって、手間暇かけられている様子が素晴らしく、たまらなく美味しそう。

   特に印象的なのが、昭和初期に手間暇かけて作る牛タンシチューのインパクト!

   登場人物も話も地味、でも、書き手の上手さのおかげか、充分堪能させて

   もらいました。

      わがまま母

— 以下 好書好日 より転記 —

  評者: 山内マリコ / 朝⽇新聞掲載:2024年01月06日

  「襷がけの二人」 [著]嶋津輝

 正月に向田邦子の新春ドラマスペシャルが放送されなくなって随分経つ。きっと条件反射なのだろう、この時期になると昭和初期の物語を欲してしまう。
 戦後四年目、独り身の中年が女中の仕事を求めて目見得(めみえ)に訪ねるところから物語ははじまる。千代というのが主人公だが、およそ主人公らしくない。近所の人にも顔を覚えてもらえないほど、見た目の凡庸さが繰り返し綴(つづ)られる。
 一方、千代が住み込みで働きはじめた家の主、初衣(はつえ)の描写は念入りだ。長身ですっきりした佇(たたず)まい、ただ者でないと思わせる粋な所作を伝える一文一文には魂がこもる。千代の目に映った初衣の美しさ、女が女を憧憬(しょうけい)するまなざしだ。
 空襲のときに火の粉で視力を失い、今は三味線の師匠として生計を立てている初衣に、千代は素性を隠して仕える。敗戦によって日本の天地がひっくり返ったように、この二人もかつては正反対の立場にあった。戦前は千代が奥様で、初衣が女中だったのだ。
 前述の向田ドラマが家族を描いてきたのとは対照的に、千代は家族と縁がうすい。母とは折り合い悪く、愛情を感じたことがない。身に余る嫁ぎ先で奥様の座に納まったものの、夫とは心身ともに交わることがついぞない。イエはあるが、家族からははぐれている。
 代わりに千代が築いたのは女中たちとの絆である。家事を執り行う連携によって、信頼は磨き上げられる。とりわけ女中頭の「お初さん」こと初衣は、メンターのように頼れる存在だ。賑々(にぎにぎ)と日々の食事の支度に精を出しているうち、いつの間にか戦争がはじまっている。「新しい戦前」と言われる今、この呑気(のんき)さは非常にリアルである。
 三界に家無し。そんな世界の片隅に、やがて女だけで暮らすことになる千代と初衣。家父長制の色濃い時代を背景に、血縁や男女の婚姻関係で作られる家族の形に異を唱えた、静かなる反逆の物語でもある

   

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そして私たちの物語は世界の物語の一部となる

2024年06月30日 15時55分18秒 | 読書

             そして私たちの物語は世界の一部となる

                  (インド北東部女性作家アンソロジー)

                       ウルワジ・ブタリア(編)2023年5月発行

  なかなか触れる機会のないインド北東辺境地域の女性作家達による短編集を読んでみた。

  以前、インド人作家の本は数冊読んだことはあるが、皆、比較的都市で生活している

  男性の作家だったし、現代的な生活の中で描かれたものでも、何も自分の理解の範疇

  を超えていて、正直なところ、どうも苦手・・・だった。

  が、本書の舞台は、インドでも開発が遅れ、あまり知られる事のない南アジアと

  東南アジアが交差し、タイ、ミャンマー、ベトナムなどの山岳民族と似た文化を持つ

  山岳地と、ベンガル州と繋がりのある平野部のアッサム人が交流し独自の文化を育んできた地。

  更に、先住民族やネパール人、ベンガルから多くのムスリム開拓民が移住し、多様な民族が

  共存する地域に生きる女性達による貴重な本ということで、興味を持ち読み始めた。

  しかし、現在も続く過度な男装女卑社会、貧困、不平等から逃れられない女性達の嘆きが

  聞こえてくるようで、ああ、、、やはり予想通りだったか、、、という想いに。

  近年、インドは中国を抜き人口世界一となり、経済成長も著しく、活気に溢れ、希望に満ち、

  先進国に追いつけ追い越せの勢い、との報道が多いが、まだまだ知られない影の部分に

  不安を覚え、未だ犠牲となっている女性達に1日も早く明るい未来がくること願うばかり。

  いずれにしろ、本書は時間をかけ、様々な困難を乗り越え編纂させた貴重な一冊。

  機会があれば手に取ってみては如何でしょうか。

     わがまま母

 —   内容紹介 —

バングラデシュ、ブータン、中国、ミャンマーに囲まれ、
さまざまな文化や慣習が隣り合うヒマラヤの辺境。
きわ立ってユニークなインド北東部から届いた、
むかし霊たちが存在した頃のように語られる現代の寓話。女性たちが、物語の力をとり戻し、
自分たちの物語を語りはじめる。本邦初のインド北東部女性作家アンソロジー。

一九四四年四月、日本軍がやってきた。軍靴で砂埃を立てながら、行進してきた。先頭の男は村人たちに呼びかけ、こう言った。「食料と寝起きする場所を提供してくれれば、あなたがたに害は及ばない。我々はあなたがたの友人だ。我々はあなたがたを解放するために来た。あなたがたを傷つけることはない」(「四月の桜」)

「これにはどんな富よりも値打ちのある宝物が入っている。死ぬ前におまえに渡したい。昔、語り部から手渡されたものを、おまえに手渡すよ」ウツラはその壺をわたしの頭の中に入れた。……何週間か経ってウツラは死んだ。……お話を語るときわたしは別の人間になった。生き生きした。それからずっと語り続けている。(「語り部」)

わたしたちは首狩り族の末裔だったが、いまはインド政府が提供してくれる資金に頼っていた。わたしたちは平地人とは違っていた。彼らは……反政府分子がいないか見張ってもいた。現代生活が、伝統的な慣習や行動とぎこちなく共存していた。(「いけない本」)

黒柳徹子さん推薦!



面白かった。私はインドには、ユニセフの親善大使として、一度、行ったことがある。非常に日本と似ている所、非常に違う所があると思った。インド北東部の女性作家たちの作品はデリケートに心の動きが書いてあり、生き生きと、また沈鬱に訴えかける。物語の結末は、思い切りがよく、また、まとまっていないようで、長いこと心の中にしまってあったものが、ひょいと出て来た、という風であった。

 

  

  

  

  

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知られざるイタリアへ

2024年06月17日 16時35分32秒 | 読書

           

          知られざるイタリアへ  

                    終わりなき旅路 イタリア編  

                         ロバート・ハリス(著)2008年7月発行

   図書館の本棚を物色していて発見した一冊。

   15年以上前のイタリア・ドライブ旅の紀行文。

   著者が車を運転し、カメラ担当の友人との男二人旅。

   イタリアといっても、シチリアの小さな村を巡ったあと、フェリーで南イタリアへ

   渡り、長靴のつま先〜かかと付近を通り、北上しながらトスカーナへ向かう半月位の

   中旅行で、かつての友人知人を訪ねたり、地元の人達と触れ合い、現地在住の日本人と

   語らったり、もちろん、ワインや地元メシも味わいながらの旅路。

   すごく充実した旅の記録に、羨ましくなるばかり。

   やはり、こんな風にイタリアの地方を巡るには車が必要だよね〜、そして語学も。

   今の母に運転は無理、語学もダメだし、、、せめて、本で旅する気分に。

   あっという間、半日で一気読みでした。

       わがまま母

                   

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のち 更に咲く

2024年06月17日 15時45分40秒 | 読書

                       

            のち 更に咲く     澤田瞳子(著)2024年2月発行

  現在進行中の大河ドラマに重なる平安時代の設定、道長、倫子の土御門第を舞台に、

  道長邸で女房勤めをしている「小紅」(29歳で未だ独身)が主人公として登場。

  「小紅」は、佐渡に流刑となった父や、闇討ちを企て失敗した兄、盗賊となり都を

  荒らし回り捕縛され死んだ兄、、、と家族の暗い影を背負いつつ、息を潜めるように

  生きていた。

  そんな中、突然、京都中を騒がせる盗賊集団「袴垂」が跋扈し、死んだはずの兄が

  実は生きて盗賊を率いているのではないか、、、と噂になる。

  そして、小紅が、盗賊「袴垂」の首謀者「空蝉」たちと会うことをきっかけに、

  物語の展開がスピードアップ、兄の死の謎をめぐり、平安時代の推理小説へと。

  中盤から後半へは、想像力が掻き立てられ、一段とスリルも増して面白くなります。

  登場する人間模様もなかなか複雑で興味深く、物語の展開もテンポよく、面白かったです。

  (詳しい内容や、興味をそそる解説があったので、以下に転記)

      わがまま母

  — 新潮社 本の紹介文 —

 「源氏物語」に隠された、或る夜の出来事。歴史揺さぶる王朝ミステリ誕生!

藤原道長の栄華を転覆させようと都を暗躍する盗賊たち。道長邸で働く女房・小紅は、盗賊の首魁が死んだはずの兄との噂を知り探索を始める。その過程で権力を巡る暗闘とそれに翻弄される者たちの恨みを知った小紅は、やがて王朝を脅かす秘密へと辿り着き――紫式部、和泉式部も巻き込んで咲き誇る平安ロマン、艶やかに開幕。

—「身近な死」と自分にとっての「物語」—

 本作は、平安中期(寛弘5年/西暦1008年頃)、京の街を荒らし回っていた伝説的な盗賊団「袴垂」一党と、絶対安定政権に手をかける藤原道長と正妻・倫子、まさにいま『紫式部日記』を描かんとする紫式部(藤式部)とその舞台である土御門第、天才歌人・和泉式部と最後の夫・藤原保昌といった豪華なキャスト勢に、「ある貴人の出生の秘密」がからむという盛りだくさんな筋立てを、背骨の通った歴史知識と硬質で美麗な修飾が持ち味の澤田瞳子氏が鮮やかな手さばきで一冊にまとめた傑作でした。
「袴垂」と聞いて「おっ!」と反応するのは『宇治拾遺物語』まで細かくチェックする濃い目の古典文学ファンか、曲亭馬琴『四天王剿盗異録』好きか、でしょう。
 後者は、蘆屋道満(道魔法師)から妖術を伝授された袴垂(藤原)保輔と源頼光四天王が対決するという痛快劇で、日本文学史において「悪役としての袴垂」がどういう位置づけなのかがよくわかる作品です。
 この「悪役」やその一党を、単なる敵役、いわゆるモブキャラとして描かないところが、澤田氏の腕の見せ所。氏のこれまでの著作、直木賞を獲った『星落ちて、なお』や、本作と近い時代、近い環境を描いた『月ぞ流るる』のように、激しい光を放つ人物や出来事、歴史的事実を丁寧に表現しつつ、そのそばに確かに存在していた「誰かの人生」を細やかに、絶妙に記しております。
 本作の主人公である「小紅」もそのひとり。父や兄の罪を背負いつつ、下臈女房として最上級貴族に仕える29歳・未婚の小紅は、倫子でもない、中宮・彰子でもない、紫式部でも和泉式部でもない、「自分の人生」を抱えて自らの宿命と対峙します。
 作中何度か差し挟まれる美しい情景描写、たとえば「足音を殺して妻戸を開ければ、中空には刀で断ち切られたような半月が高く昇っている。微かにたなびく雲が夜空の高さを一層際立たせ、冴えた月光が広縁に長く勾欄の影を落としていた」(本書・第五章「残り香」より)は、そんな(誰でもない)小紅が見た、かけがえのない世界の一瞬を切り取った描写なのです。
 ここまで書いて、ああそうか、たとえば『紫式部日記』冒頭の、あの美しく奏でられたクラシック音楽のような秋の土御門第の描写も、たしかに「紫式部から見えた世界の一描写」なのだなあと、今さらながら実感しました。
 ちなみに2024年のNHK大河ドラマ『光る君へ』の序盤、主人公まひろ(紫式部)と三郎(藤原道長)の逢瀬を演出し絆を深めるにあたり、重要な役割を担う散楽一座(実は盗賊一味)の座頭の役名は「輔保」でした。これは明らかに「藤原保輔」を意識した名づけであり、分かる人だけ分かる演出でにやりとします。

 一点、重要なお願いがあります。本書を読み終えた方は、ぜひもう一度、冒頭部分を読み返していただきたい。本書のタイトル『のち更に咲く』は、冒頭に掲げられた(『和漢朗詠集』にも採られた)「菊花」(元シン)という漢詩からとられています。

「これ花の中に偏に菊を愛するにはあらず
 この花開けてのち更に花のなければなり」
(私訳/わたしは、あらゆる花の中で特にこの菊を頑なに愛している、というわけではないのです。ただ、数ある花の中で、菊が咲くと、もうその後には咲く花がないから〔大切に思うもの〕なのです)

 広く知られるとおり、菊は秋に咲きます。一年のうち春、夏、秋と、貴族たちの庭を華やかに彩った花々の中で、菊はその年の最後に咲いて、その後に寒くて長い冬を迎えることになります。

この漢詩は『源氏物語』「宿木」の帖にも引かれていて、宇治十帖での貴公子のひとり匂宮が、中の君へ呟くかたちで登場します。
 美しく艶やかに咲く菊を特に愛でるのは、その咲きぶりに「一年の終わり≒人生の最期と一瞬のかけがえのなさ」を感じさせるからではないか、とこの詩は説いているように思えます。
 個人的には、重要な登場人物のひとりが「空蝉」という名であることも印象深かったです。これは『源氏物語』の、夜着を残して部屋を抜け出したあの有名な女人というよりも、樋口一葉の、
「とにかくに 越えてを見まし 空蝉の
  世渡る橋や 夢の浮橋」
を踏まえているのかなと思いました。現世の儚さとそれでも生きてゆく道行きへの覚悟を示した歌ですね。
 本書には「ある身近な人の死とその人生の意味」が底流します。人生を一輪の「花」に喩えるならば、身近な人の「死」に物語を見出し、自分の人生にその意味を捉え直すことは、「のち更に咲く」と言えるのですね。人生の節目で読み返したい一冊です。

(たられば 編集者)

波 2024年3月号より

  

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恋の幽霊

2024年06月02日 15時51分31秒 | 読書

            恋の幽霊     町屋良平(著)2023年7月発行

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ぼんぼん彩句

2024年05月15日 11時33分33秒 | 読書

          ぼんぼん彩句     宮部みゆき(著)2023年4月発行

  長年に渡り常に人気の作家さん、いつも人気すぎて図書館では借りにくいのです。

  が、今回、10年ぶりくらいかな〜、チョッと趣向が変わってそう、と興味が湧き、

  読んでみることに。やはり間違いない!ですね、とても面白かったです。

  俳句を始めた著者が、句会のメンバー達の句をもとに想像を巡らし短編を紡いでいく

  ・・・12篇の短編集。

  そのアイデアもユニークだし、それぞれの短編がまた個性的で、、、さすが。

  それにしても、この句から、そんなストーリーに展開するのか〜、、、と

  不思議で、感心してしまうことしきりでした。

  推理小説っぽいもの、ゾゾっとするもの、ほっこりするもの、、、多彩なラインナップ。

  いずれも予期せぬ話に膨らんでいくし、短編だし、移動の時のお供にピッタリじゃないかな。

  チョッと俳句を嗜んでみようかなあ、なんて気が起きたり、面白かったです。

      わがまま母

 以下、母の健忘症対策として「カドブン」より転記させてもらいます。

著者コメント

まったく触れたことがなかった17 音の俳句の世界に、私は魅せられてしまいました。
「凡凡」な眼差しと、身近な暮らしのなかに彩りを見出す俳諧の心を大切に、 創作を続けていきたいと思っております。

   宮部みゆき

内容紹介


1.枯れ向日葵呼んで振り向く奴がいる
寿退社後に、婚約者に裏切られ婚約を破棄されたアツコは、ある時、乗ったことのない路線バスで初めて終点まで乗車してみた。その終点には小さな丘と公園が広がっていたのだが。孤独な女性のやり場のない想いを綴った物語 。

2.鋏利し庭の鶏頭刎ね尽くす
16歳で亡くなった女友達のことをいまだに忘れられない夫と夫の実家の人々。いつまでも、なくなった友達に固執する家族から逃げるように離婚を決意した知花は、最後に仕返しをしようとある行動に出た。奇妙な家族の執拗な想いと行動を描いたホラー的な物語。

3.プレゼントコートマフラームートンブーツ
ぬいぐるみ作りが大好きなアタル君は、その日、学級閉鎖でひとりでマンションに帰ってきていた。そこに見たこともない女性が突然現れて、アタル君に詰めよってきたのだが。子供の視点で綴られたかわいらしいお話。

4.散ることは実るためなり桃の花
昭子が都心のデパートに出かけたのは、好きな海外絵本作家の原画展を見に行くためだった。そのデパートで偶然、娘婿が全く知らない女性と仲睦まじくデートしているところを見かけてしまい。夫のことを気遣って、少しずつおかしくなってゆく娘を描いた物語。

5.異国より訪れし婿墓洗う
娘が国際結婚をして、外国人の婿の父親となった克典は、娘夫婦との今後のことも考えて、 開発されたばかりの万能薬・ミラクルシードの使用をあきらめ、鬼籍に入ってしまったのだった 。 本作唯一の近未来 SF 。

6.月隠るついさっきまで人だった
美人の姉についに恋人ができたようだ。はじめは楽しそうにしていた姉も、しばらくするとなぜか暗い表情を見せるようになっていった。あるとき、姉と彼氏に偶然街中で出会い、そこで初めて彼氏を紹介されたのだが。付き合ったとたんにストーカーと化した男を描いたサスペンス。

7.窓際のゴーヤカーテン実は二つ
強い西日を遮光するために植えたゴーヤが、真冬になっても枯れなかった。しかも実まで着けたまま。原因はわからなかったが、ある時、夫の哲司がついにその実をもいで。仲睦まじい夫婦が体験する不思議なお話。

8.山降りる旅駅ごとに花ひらき
一族の中では特に目立つところもなく地味に暮らしていた春恵は、派手な性格で派手な顔立ちの母や妹からいつもいじめに近い扱いを受けていた。祖父が亡くなり、その形見分けの会に出席するため、思い出の旅館に向かうと。遺産を巡る家族の中での諍いを描いた物語。

9.薄闇や苔むす墓石に蜥蜴の子
夏休みのある日、初めて入った裏山で出会った小さな蜥蜴。その蜥蜴に導かれるようにして、ケンイチは土の中から虫メガネを発見した。名前が書いてあったその虫メガネを交番に届けたことから、事件は始まった。男子小学生の小さな冒険を描いたサスペンス。

10.薔薇落つる丑三つの刻誰ぞいぬ
ケイタという悪と付き合ってしまったミエコは、ケイタと別れようと連絡を絶っていたが、 ある時、ケイタらに待ち伏せされ、拉致られて廃病院で一晩過ごすことになってしまい。 優しいエネルギーの集合体に心癒されるホラー小説。

11.冬晴れの遠出の先の野辺送り
兄を自殺同然の事故で無くした私は、昔ながらの徒歩での野辺送りの途中で見知らぬ中学生と出会った。その中学生は、なぜか兄の野毛送りに同行してくれたのだが。日本の原風景を描いた里山の物語。

12.同じ飯同じ菜を食ふ春日和
一人娘の知花が一歳半の時に初めて見つけた、美しい菜の花畑が見渡せる展望台。数年に一度は必ず訪れるその場所は、僕ら家族のひそやかな楽しみであり、故郷のような存在でもあった。しかし、その展望台も年月と共に劣化が進み、ついに。秘密の展望台とともに歩む家族の歴史を描いた物語。

 

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水車小屋のネネ

2024年05月06日 15時57分57秒 | 読書

             水車小屋のネネ     津村記久子(著)2023年3月発行

   2020年5月〜2021年6月に書かれた長編、毎日新聞に連載されていたものに、

   エピローグを2022年4月に書き足しているとのこと。

   コロナウイルス禍で社会が混迷していた時期に書かれた小説だったんですねえ。

   毎朝、新聞でこの小説を読めたのは暗闇の中で小さな灯火を見るような気持ちに

   なっていたのではないか、、、と想像します。

   主人公の姉妹、姉の「理佐」妹「律」の二人は、かなりシビアな境遇にありながらも、

   淡々と一日一日を精一杯大切に暮らしていく・・・その姉妹の姿がとても尊く、

   そんな彼女達をさりげなく支えていく大人達(蕎麦屋の守さん浪子さん夫婦や

   画家の杉子さんなど)や、ヨウムのネネとの交流がなんとも愛おしいのです。

   こんな世の中でも、まだまだ捨てたもんじゃない!って思わせてくれる

   心にポッと灯火が灯り温かくなった気分になりましたし、あちらこちらに、

   人との接し方のヒントになるような場面や会話が登場し、人間関係が難しく、

   会話での言葉の使い方をつい間違えてしまいがちな自分には、なるほど、、、と

   参考になることが多かったです。

   本書はどなたにでもお薦めできそうな一冊。

       わがまま母

 

—  以下、好書好日 より転記 —

津村記久子さん「水車小屋のネネ」 家を飛び出した姉妹、ちょっとずつの親切がつなぐ人生

困った時に力を蓄える場所 姉妹の40年の物語

 色とりどりのあたたかさに包まれた風景と登場人物の絵、優しい手触り。この表紙そのままの世界が物語には広がる。主人公の人生に40年の歳月が流れる、津村さんが手がけた最も長い小説だ。

 18歳の理佐、8歳の律の姉妹は身勝手な親のもとを飛び出し、2人で生きることに決めた。出会う大人たちに助けられ、自立していく。彼女たちの真ん中にあるのがそば屋の水車小屋であり、そこにいるネネ。しゃべる鳥ヨウムだった。

 理佐が働くそば屋の店主夫婦、近所の画家、律の担任の先生。みんな姉妹の事情にずかずか踏み込まず、そっと支える。

 「ある人に出会って救われたといった丸抱えする人間関係には疎外感を感じるんです。複数の普通の大人がいて、みんなができる範囲で、無理せず、ちょっとずつ親切にする。『気ぃつけて暮らしや』と2人を適度にほったらかし、適度に親切にする感じです」。津村さんはそう語る。距離を保った優しさがじんわり。考えれば、ささやかな親切をいくつも受け取って、人は生きているのだろう。

 姉妹は母親から十分な愛情を与えられない。「親の愛情がなくて、その人の人生は損なわれるかもしれないけれど、それがすべてではないと言いたかった」。厳しい状況で暮らし始めた律だったが、まわりの大人からの親切を受けとめ、この人生でよかったと肯定していく。それが物語の主旋律となる。

 その舞台がそば粉をひく水車小屋。臼の番をしているネネの性格がふるっている。クイズを出すのが好きで、ラジオもビートルズも聞くし、いつもマイペースだ。理佐は水車小屋で得意の裁縫をし、律は友だちを連れてくる。ひとり親家庭で事情を抱える14歳の研司もやってくる。「自宅でも学校でも職場でもないサードプレース、逃げ場ですね

物語は1981年に始まり、エピローグの2021年まで、章が変わるごとに10年ずつ過ぎる。50年生きるともいわれるヨウムの寿命に合わせ、長い時間を包み込んだ小説になった。

 東日本大震災の起きた11年、成長した研司は被災地へ向かう。律たちに支えられて高校に進学し、就職した会社で復興事業にかかわるのだ。研司は水車小屋から旅立つ。「水車小屋は困った時に来て、行きたいところに行く力を蓄える場所であればいいなと思った」

 さまざまな人に助けられた律は「私はもらった良心でできている」と言えるようになった。そして、他者を助ける立場になった。人生は生きるに値するんだよ。そんな信頼に満ちた思いを、次の世代に届けられるようになっていた。

 この小説自体が読み手にとっての逃げ場所であり、力をもらって歩き出す源のように見える。初出は1年間の新聞連載。津村さん自身、書いている間も、本ができあがってからも大勢の人に助けられたという。「生きていくことを捨てるもんじゃない。小説を通じて伝わっていたらと思います」=朝日新聞2023年6月7日掲載

 

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滅びの前のシャングリラ

2024年04月24日 16時24分35秒 | 読書

        滅びの前のシャングリラ     凪良ゆう(著)2020年10月発行

   家族間や親子関係の問題、学校でのいじめ、、、今の社会が抱える問題の幾つかを

   網羅しつつ、なのに、間も無く地球が滅亡するというSF的な設定なのだが、

   最後には何か希望も感じられる小説。

   それぞれの問題に苦しみもがきながら生きる高校生たち主人公の姿と、

   偶然にも、地球消滅まで1ヶ月という時に、彼らと親たちが力を合わせ

   最後の瞬間まで生き抜こうと逞しく行動し深く考える物語。

   悩み多き思春期の高校生は、確かにこんな子達いそうだなあ、、と思うが、

   親である大人がなかなかに剛気で、今時とんとお目にかかれないほど

   一本スジが通ってて、かつ破天荒。

   小説の設定としては、苦しく重たいテーマだが、不思議とクスッと笑えたり、

   暗くなることなく読め、面白かった。

     わがまま母

【「本屋大賞2021」候補作紹介】『滅びの前のシャングリラ』――1カ月後に滅ぶ世界で「本当の楽園」を見つけた4人の物語

BOOKSTANDがお届けする「本屋大賞2021」ノミネート全10作の紹介。今回取り上げるのは、凪良ゆう著『滅びの前のシャングリラ』です。
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 「もうすぐ地球が滅亡する」というのは、昔からよく小説や映画などに用いられてきた設定。映画『アルマゲドン』や『デイ・アフター・トゥモロー』を観たことがある人は多いでしょうし、日本ではかつて「ノストラダムスの大予言」がブームになったこともありました。

 そんなよくあるテーマながら、著者にしか描き出せない世界観で読者の心をとらえて離さないのが『滅びの前のシャングリラ』です。

 ある日突然、「1カ月後に小惑星が衝突し、地球は滅びる」とニュースが流れた世界。限りある時間をどのように過ごすのか、章ごとに四人の登場人物たちの視点で物語は進んでいきます。

 最初に登場するのは、学校でいじめを受けている17歳の江那友樹。彼がずっと片思いしている同級生の藤森さんが、地球滅亡前に東京へ行こうとしていることを知り、彼女を守るためにそっとついていこうと決めます。その途中、クラスメイトの井上が藤森さんを襲おうとしているのを見て、友樹が井上を包丁で刺すものの逆襲され......。

 次の章の語り手は、親の愛情に飢えて育った40歳のヤクザ、目力信士。彼は別の組の若頭を殺したあとに地球滅亡を知り、20年前に逃げられたまま忘れられずにいる元恋人の静香に会いに行きます。

 その静香は、息子が好きな女の子を東京に送って行った途中でトラブルを起こしたと知り、ちょうど目の前に現れた信士とともに救出に向かいます。

 そして最終章の主人公となるのが、藤森さんが憧れる歌姫・Locoです。Locoは自分のプロデューサーであり愛人でもあったイズミに裏切られ、とっさに殺してしまいます。その後、故郷である大阪に帰り、人類最後の日に元バンドメンバーたちとラストライブをおこなうことを決意するのです。

 友樹、信士、静香、Locoの4人は皆、うまく生きられず、どこか絶望しながら日々を過ごしている者ばかり。そんな彼らがあと1カ月の命となって初めて自分が本当に欲しかったものを知るという、なんとも皮肉な話です。しかし多くの人の人生も同じで、失うと知って初めて気づくこと、失って初めてわかることがあるのではないでしょうか。

 「シャングリラ」とは、イギリスの作家ジェームズ・ヒルトンの小説『失われた地平線』に登場する地上の楽園、理想郷のことだそうです。地球が滅亡し、人類が滅んでも、その前に一瞬でも本当の楽園を手に入れられたのなら、それは彼らにとって幸福であったに違いありません。

 2020年の「本屋大賞」を受賞した著者・凪良さんの新たな代表作として、多くの人に読んでいただきたい1冊です。

[文・鷺ノ宮やよい]

   

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テスカトリポカ

2024年04月19日 13時16分24秒 | 読書

           テスカトリポカ     佐藤究(著)2012年2月発行

  驚愕、というのか、、、予想以上の衝撃を喰らい、眩暈が。

  世界史や海外旅行が好物の身ながら、中南米(マチュピチュを除く)の文明は肌に合わず、

  避けていたはず。なのに、『幽玄F』を読み、迂闊にも著者の小説をもっと読んでみたい、

  などと思い、つい本書を手に取ってしまった。

  結果、かなり具合が悪くなるようなシーンも多く、途中で止めようと何度か思ったが、

  なんとか読了。

  臓器売買ビジネスなどは知っておいた方がいいのだろうな、、、と、非情さ残酷さに

  耐え、勉強と思い我慢し読み進むも、元々苦手だったアステカの神々信仰の行事、風習の

  かなりリアルな表現には、やはり吐き気が。

  現代社会の闇の興味深い世界が、もの凄い調査力により残酷なまで克明に描かれており、

  暗黒ながらも小説として鋭く面白く素晴らしいのは間違いないのだが、

  覚悟を持って読まないと気持ちが悪くなる可能性もあり、万人向きとは言いずらいかも。

  いや〜、圧倒的に迫ってくるこの小説を書くため、どれだけの準備と体力を要したのだろう・・・

  と想像し、感服するのみ。

     わがまま母

 

— カドブンより —

メキシコで麻薬密売組織の抗争があり、組織を牛耳るカサソラ四兄弟のうち三人は殺された。生き残った三男のバルミロは、追手から逃れて海を渡りインドネシアのジャカルタに潜伏、その地の裏社会で麻薬により身を持ち崩した日本人医師・末永と出会う。バルミロと末永は日本に渡り、川崎でならず者たちを集めて「心臓密売」ビジネスを立ち上げる。一方、麻薬組織から逃れて日本にやってきたメキシコ人の母と日本人の父の間に生まれた少年コシモは公的な教育をほとんど受けないまま育ち、重大事件を起こして少年院へと送られる。やがて、アステカの神々に導かれるように、バルミロとコシモは邂逅する。

  

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