異常 アノマリー エルヴェ・ル・テリエ(著)2022年2月発行
ユニークで面白く恐怖も覚えるほどの衝撃を受け、引き込まれるように読みました。
フランスで110万部超えのベストスリラーとのこと。ふむ、確かにフランス人好みかも。
またまた時間が足りないので、本書の紹介文や書評を転載しておきます。
わがまま母
— 本書案内文 —
もし別の道を選んでいたら・・・・
良心の呵責に悩みながら、きな臭い製薬会社の顧問弁護士をつとめる
アフリカ系アメリカ人のジョアンナ。
穏やかな家庭人にして、無数の偽国籍をもつ殺し屋ブレイク。
鳴かず飛ばずの15年を経て、突如、私生活まで注目されるときの人となった
フランスの作家ミゼル・・・・・。
彼らが乗り合わせたのは、偶然か、誰かの選択か。
エールフランス006便がニューヨークに向けて降下を始はじめたとき、
異常な乱気流に巻きこまれる。
約3カ月後、ニューヨーク行きのエールフランス006便。そこには彼らがいた。
誰一人欠けることなく、自らの行き先を知ることなく。
— 以下、好書好日より転記 —
「異常」書評 想定外に遭遇 私ならどうする
まったく想定外の事象に出くわした時、人は何を考え、どう行動するのか。
本書はそんな思考実験の物語であり、人生の意味を考える哲学書であり、
そして何よりとてもエキサイティングなSF小説だ。
第一部には多くの人物が登場する。殺し屋、作家、癌(がん)患者、歌手、弁護士、映像編集者、
建築家、7歳の少女……視点が次々と変わり、ある章はノワール小説風に、
次の章は恋愛小説風にと、手を替え品を替えそれぞれの生活の様子が紡がれる。
無関係のエピソードに見えるが、読者はまもなく共通点に気づくだろう。
彼らは約3カ月前に同じ飛行機に乗っていたのだ。
実は、この飛行機には驚くべき〈異常〉が起きていた。
第一部の終わりでそれが明らかになったときの驚きたるや!そこからはもう一気呵成(かせい)だ。
第二部では〈異常〉に対応するアメリカ政府の狂騒が、
そして第三部では〈異常〉を知らされた第一部の登場人物たちがある決断を迫られる様子が描かれる。
前例のない〈異常〉に右往左往する政府関係者や勝手に盛り上がる野次(やじ)馬を
風刺たっぷりに活写する一方で、本書の最大の読みどころは〈異常〉に巻き込まれた
一人一人の選択だ。
第一部に環境も年齢も異なる多くの登場人物を配し、その生活や思いを丁寧に綴(つづ)った理由は
そこにある。彼らの決断に読者は時には驚き、時には快哉(かいさい)を叫び、時にはやるせなく思う
だろう。そして自分ならどうするかを考えずにはいられない。
それは自分の生き方を振り返る行為に等しい。
それほどのテーマを、本書は突きつけてくるのである。
論理的な美しさを感じさせる構成、手紙や新聞記事を使った文章技巧に加え、ラストも鮮やか。
もしかしたら今も〈異常〉の中にいるのかもしれないという不穏さと、
それでも人は折り合いをつけて生きていくのだろうという楽観が見事に融合して物語は終わる。
小説好き必読の一冊だ。
◇
Hervé Le Tellier 1957年、パリ生まれ。小説家。本作でフランス最高峰の文学賞、
ゴンクール賞を受賞。