さうぽんの拳闘見物日記

ボクシング生観戦、テレビ観戦、ビデオ鑑賞
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拳闘見聞の日々。

強打者故の陥穽そのものを見た、と思ったが 中嶋一輝、苦い優勝

2020-01-29 22:39:57 | 関東ボクシング



ということで昨日は所用のため上京。当初、日帰りの予定だったのですが、月末にホールに寄って見られる試合はないかな、と探してみたらこの興行があり、予定を変えて一泊、観戦してから帰って来ました。

BoxingRaiseでもライブ配信された(はずの)一戦、メインの感想、簡単に。


初回、強打のサウスポー、中嶋一輝がリング中央にどっしりと布陣。
パンフによるとオーソドックス(右構え)とある堤聖也も、サウスポースタンス。回って動く。

中嶋、ジャブ一つとっても音が違う。早々に堤、圧され気味、と見える。
中嶋はじりじり出る。右フックヒットも単発。捉えれば倒す自信あり、という風情。
これが単に狙いすぎで終わらねば良いが、と懸念も。堤が右から入って軽いが速い連打。やや堤。

2回、堤が左回りし、中嶋が左で追うが届かず、堤がジャブ返す。これがヒット。中嶋、スリーパンチも堤きわどく外す。
軽いがヒットのある堤に振らざるを得ない、という内容。

3回、中嶋左から右フック返し。これは浅いがヒット。堤が右右左右、と速い連打。中嶋スリーパンチも堤ガード。
中嶋ジャブ一発ヒット、重い。堤警戒して下がる。やや堤?迷う回。

4回、両者、右を伸ばして探り合い。堤が左右連打で入って、右軽いがヒット。右から左も当てる。
堤による連打の「仕掛け」はこの回、4度あり、ヒット数を稼ぐ。中嶋は鋭いパンチを繰り出すもヒットが少ない。クリアに堤の回。

5回、堤がボディを打つ。すると中嶋、この試合初めて?の左ボディアッパー。続いてボディから上、という攻撃が出て、堤少し後退。
しかし堤も捨てパンチで入って左ヒット。この回中嶋。しかし、ボディ打って展開が好転したのに、狙いすぎ状態にすぐ戻ってしまった。

6回、中嶋、さすがに手が出始める。右フック、続いて三連打。左ボディを続けてヒット。堤は最後に右フック返す。
中嶋、パンチによるカット。左瞼。この回も中嶋。

7回、堤が上手く身体を寄せ、ボディを打つ。中嶋も出て、左ボディ、連打のあと右ボディ。堤反撃、左フック二発。
中嶋のスリーパンチを右回りで外した堤、逆襲して左フック当てる。中嶋、左ボディも堤右リターン、相殺。
堤、悪い流れをひとまず切って得点。

8回、堤が身体寄せて連打。しかし中嶋右をボディへ。左ボディアッパーが続けて入る。堤も懸命に返すが、中嶋が打ち勝つ。
やはりパンチの威力が違う。堤効いているように見えるが、一時右にスイッチして足使うなど、なんとかしのぐ。ポイントは中嶋。


公式採点は77-75中嶋、76-76(優勢点、堤)、76-76(優勢点、中嶋)で、引き分けながら中嶋が勝者扱い。
ゴッドレフトトーナメント優勝、となりました。
私の採点は5対3、堤。仮に3回を逆にして、ドローとしても、優勢点をつけろと言われたら、迷わず堤です。



中嶋はまず手数が少ない。強打に自信があるのはいいが、崩しのジャブがない。
リング中央に布陣し、相手が回るのは、力関係の現れであり、実際、試合が始まってすぐ、堤を見下ろすような風でした。

しかし、動く相手をロープに詰めるプレスやフットワークがあるでなく、ジャブも動かれてなかなか当たらず。当然後続の左から右フック返しも、際どく外されることが多い。
どちらかというと、崩して攻め込むより、左ないしワンツーで釣って右フックを決める、という、相手が出たところに合わすパンチ狙いが目に付いた印象。

少なくとも、強打勝負になった南出仁との試合とは違い、堤がそれを警戒して動いているのだから、違う攻め口が必要なのは明白でした。
しかし、やはり連続初回KO勝ちで勝ち上がってきた自信故に、その先、それ以外の用意が出来ていなかったのでしょう。

中嶋が、直近の試合ぶりを相手に見られ、警戒された場合の展開、それを想定した練習をしてきたのかどうか、少なくとも実際の試合の中で、その片鱗を見ることは、ほぼなかったように思います。
そして、それをもって中嶋のような若いボクサーを責めるのも、指導陣を責めるのも、酷かもしれない、とも。
それほどまでに、このトーナメントにおける中嶋の勝ちっぷりは目覚ましいものであり、それ故になかなか「先」への悪い想定など、出来るものでもないでしょう。


かつてジョー・ルイスが言った、強打者の誇りを語る名言について、少し前の記事、コメント欄で紹介されたことがあります。
「判定勝ちには一万発のパンチが要るが、KOなら一発で済む」
これは同時に、強打者であるが故の陥穽をも、同時に言い当てている、皮肉な名言だと思います。

一発で済まなかった試合もまた、ボクシングには数多あり、この日の中嶋一輝の闘いぶりは、その陥穽そのものだった。そういう試合でした。
そして、その教訓を心に刻むには、敗北、ないしは優勝を逃す、という結果こそが、何よりも一番の薬になるだろう、と思っていたのですが、判定は逆に出ました。

中嶋の強打、それ自体の威力、或いはそこから生まれる威圧を最大限に評価した採点、という理解をするべきなのでしょうが...。
正直、採点の是非もそうですが、これでは誰より何より中嶋の「ため」にならん、というのが、率直な感想でした。

もっとも試合後の様子を見ると、とてもじゃないが勝った選手の顔ではなく、そうとう堪え、落ち込んでいる風でした。
ある意味、あの様子を見て、少し安心した部分もあります。誰より本人が一番よく分かっている、というのも事実でしょう。


引き分け敗者扱いとなった堤聖也ですが、その闘いぶりは立派でした。
彼我の力関係を正確に把握し、もっとも適切な闘い方を貫き、終盤、強打される場面もしっかりしのいだ。健闘だったと思います。
決勝戦に相応しい、見どころある試合を見せてくれました。

あと、関係ないですが入場曲のチョイスにも拍手したいところです。



普通なら、多分ホールで直に見ることはなかった興行でしたが、期待以上に見どころの多い試合を見ることが出来ました。
少々苦い思いも残りますが、試合内容自体は素晴らしかったです。
昨年のことを思えば、なかなかの好スタートを切れた、という意味では、良い気分であります(^^)



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ということで、堤聖也が入場曲に使ったのはこれ。
Steppenwolf “Born To Be Wild” です。







コメント (2)
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