この試合が決まったとき、少しだけ記事も書きましたが、相性自体は悪くはないと思っていました。
ジョナタン・グスマンは和氣慎吾戦で強烈な印象を残しはしたものの、反則込みの勝利でもあり、
突出した強打はあるが、全体的に完成度が高いボクサーというと、まだそうとも言えない。
長身、リーチにまさる小國以載が、距離の差を生かして闘えば、
その上で過去の試合で見せた、序盤からダウンシーンを何度も生んだ長い右で先制し、
遠くからでも打てるボディブローを決められれば勝機はある...と書きかけて、
いくらなんでもこれだけ連ねると、予想じゃなくて願望だなぁ、と思い直したようなことです。
実際の試合が、こんな、何もかも良いように回るわけがない、やはりパワーの差が大きいし、と。
大晦日、大田区総合体育館で、同道した方のスマホにより結果を知りました。
TBSが当日、どういう番組を放送したのか、全てをチェックはしていませんが、
いわゆる例年通りの「スポーツバラエティ」を延々と流したあと、
9時過ぎから井岡一翔の試合を生中継し、その後にこの試合を録画で放送したようです。
えらく遅い時間の放送で、それは如何なものかと思ったものの、そのおかげもあって、
私は会場から戻ったホテルの部屋で、それを見ることが出来ました。
思った以上にクリアな勝ちでした。
もう少しグスマンの追い上げがあったのかと思っていましたが、採点以上の差が見えた試合でした。
序盤から、好調時の足の動きがあり、なおかつほどよく重心が降りた構え。
相手の身体の軸、正中線をインサイドから打てる長いジャブ、右ストレート。
ボディ攻撃は右ストレート、左アッパーを内外に打ち分け、またこれを、遠近両方で打てる。
好機の詰めがやや甘く、派手な連続攻撃はないが、打つべき手は打ち、下がるときは躊躇なく下がれる。
長身、リーチを利して懐深く、防御動作に無駄がない。
序盤に好打で先制、ないしはダウンを奪うなどでリードした試合展開の場合、
その優勢な状況を生かして、その後の試合を巧く運ぶ勝ちパターンを持っている。
総じて機を見るに敏、冷静。
これら、過去の試合で小國以載が見せてきた特徴が、最初から最後まで十全に出た試合でした。
見ていて、この大舞台で、これだけほぼ完全に自分の良さを出し切れるものか、と驚嘆しました。
試合運びは徹底的に冷静で、その闘いぶりは、見た目からは窺い知れない、
彼の「胆力」といったものに支えられているのでしょう。
しかし、思い返せば彼がOPBF王座を獲った時も、大橋弘政を攻略したロリ・ガスカ相手に、
当時ランク15位だった小國が勝つとは、少なくとも私は思っていませんでした。
彼はその時の驚きを、今度はIBFのタイトルマッチで再現してみせたわけです。
序盤から長い距離を構築し、望外のノックダウンを奪い、そのリードを次の展開に生かす。
グスマンの反撃を、ダウン奪取時にダメージを与えたボディ打ちで食い止め、断ち切る。
距離の違いを最大限に生かし、ジャブだけでは止まらなさそうなグスマンを、
時に右ストレートで狙い打ち、突き放し、リードを守って試合終了。
大まかな流れは、こうして振り返ると、丸ごとガスカ戦のそれを踏襲していました。
ガスカ戦との違いは終盤です。かつては終盤、失速する傾向もありました。
ところが今回は、終盤にもしっかりヒットを重ね、打ち込み、その追撃の流れで
またも強烈なボディ打ちを決め、グスマンを再度ダウンさせました。
レフェリーが不自然なほど酷い誤審をしましたが、あれは実質、KO勝ちだったと思います。
このあたりは明確に、成長した部分だと言えるでしょう。
ここに至るともう、改めて脱帽というか、お見それしました、という感じで、
見ていてとても嬉しい気持ちにさせてもらいました。
出来れば実際に、会場で彼の戴冠を見たかったという思いもありますが、
初防衛戦はどうあっても、そうさせていただくことにします。
その初防衛戦は、岩佐亮佑で決まりのはずなので、ちょっと複雑ですが楽しみですね。
小國の唯一の敗戦の相手、和氣慎吾と同じくサウスポーなのが、ちょっと気がかりですが、
自分の良さを確実に伸ばして、予想不利の試合を覆してきた小國ならば、
また我々を、大いに驚かせてくれるのかもしれません。
翌日会見はこんな感じだったそうです。
さっそく飛ばしてますね(笑)
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井岡一翔は、暫定王者スタンプ・キャットニワット18歳を7回TKO。
2回に、ヒットを取ったあとの「移動」を怠るポジショニングミスをしたところを打たれ、
ダウンしたのにはちょっと驚きでしたが、4回くらいから左で立て直し、断続的に連打で攻め、
7回にボディ攻撃でフィニッシュしました。
ついに実現、夢の対決、統一戦...というような試合では全然なかったですが、
それでも闘志に溢れる若い挑戦者を、ダウン以外は問題なく退けた井岡一翔の実力は、
一流王者や上位が次々と転級し、大げさに言えば過疎状態にあるフライ級においては
高く評価されるべきものだと、改めて示した一戦でした。
しかし、まあ「いつもの感じ」ではありましたね、良くも悪くも。
距離が長いとか、抜群に速いとか巧いとかでもない、
井岡一翔のコントロール出来る範囲内に収まる相手を、今回も慎重に選んだのだなぁ、と。
もちろん、その目論見通りに勝つ技量は、一定の水準において、大したものではあるんですけど。
名のある王者がいなくなって、翌日会見では毎度の通り、あれこれ言ってはりますが、
記者の皆さんもええ加減飽きてはるんやないですかね、と思ったりもします。
こういう緩い状況になるまで、耐えて忍んで艱難辛苦...ってな現象は、
何も井岡一翔の周りに限った話でもないですが。
とりあえずはドニー・ニエテスの奮戦によって、伝統階級たるフライ級が、
少しでも従来のレベルに近づくことを、ボクシングファンとしては願うしかないですね。