大晦日、大田区のセミ、田口良一vsカルロス・カニサレスはドローで田口の防衛でした。
3回の途中くらいまでは、カニサレスが出て先制、田口は若干劣勢という流れ。
しかし田口が右のボディだったか、カニサレスの連打に返したヒットあたりから、
カニサレスが目に見えて足を使う型に変わったように見えました。
田口は前に出て圧力をかけ、カニサレスは徐々に圧されて苦しくなってくる。
しかし田口はジャブやアッパー気味の左、ボディ攻撃などはあるが散発的で、
完全に捉えるには至らず、ガードの隙間をヒットされる。
8、9回あたりは捉えるかと思ったが、10回はカニサレスも踏ん張って右当てる。
最後は、メインのコラレスと同様、ホールドの注意が出るが、減点はなしで終了。
会場で見ていると、ラウンドごとに採点を迷う回がけっこうありました。
田口の前進とヒットか、カニサレスが捌いて当てているか。
全体を見るか、好打を取るか。
正解の無い採点だろうなあ、と思って自分の採点を見ると、6対6になっていました。
公式は三者三様のドローでした。8対4で二人が割れ、あと一人がドロー。
8対4でどっちか、という試合だったようには思いませんでしたが...。
カルロス・カニサレスは、田口良一が世界戦で迎えた相手の中では、一番手強い選手だったかもしれません。
スピードもパワーもなかなかあり、田口がいつもどおりに打たれながらも執拗に出て、
捉えて攻め落とす、という展開は、この相手には難しかろう、と、試合序盤の段階で思いました。
反面、まだ不備が多い、青い段階の選手だな、という印象ではあります。
前に出る、足を使う、とふたつの闘い方を見せたものの、
総じて何をやるか、やりたいか、が見え見えで、わかりやすい選手でした。
打つパンチも同じ距離、タイミング、組み合わせが多く、ジャブで崩して攻めるより、
左右フックの組み合わせがいくつか、という印象。
もちろんそれで田口を充分苦しめましたが、競った回をもう少し取るには、不足があったというところでしょう。
今回の挑戦者選びについては、田口が本人の希望で強敵を選んだ、という報じられ方でしたが、
見ていて、それはあながちウソでもないのかな、という印象を受けました。
カニサレスが真に世界一流のボクサーだとは思いませんが、実際やってみて、
田口の被弾前提の前進と、執拗な攻撃での攻め落としがかなわなかったわけですし、
何よりもキャリアの下降期ではなく、上昇期の選手であったことも含めて、
過去の誰よりも手強く、敗北の危険性が高かった、と思います。
それにしても、いつものことですが、田口良一の闘いぶりには、鬼気迫るものを感じます。
白面の美男、不器用ながら良く鍛えられた頑健さをもって敵に肉薄し、
ある程度の被弾を前提にせざるを得ない、厳しい展開を、果敢だ懸命だ、という表現では
物足りないような姿勢で闘い抜く。
「評」の言葉を抜きにして言えば、畏るべき、としか言いようのない選手です。
しかし、世界王者としてどうか、といえば、このくらいの選手相手に、
壮絶な闘いをせねばならない、という時点で、やはり如何なものか、と思います。
もし彼が日本チャンピオンで、この選手と闘って勝ったなら、それは殊勲でしょうが...という。
何よりも、いくらタフだからといって、このような被弾前提の試合ぶりでは、
真に世界一流の、力の出しどころを弁えた、世界上位にふさわしい練度のあるボクサーと対したら、
厳しい結果が待っていると思います。
彼の防衛回数は5を数えましたが、宮崎亮戦が指名試合ということになっているものの、
直近の彼のキャリア、そして現状にそんな内実がなかったことは、誰もが承知の事実です。
一度も、本当に世界王者としての抜きん出た技量を示さないまま、こういう数字に到達したことも含め、
世界王者としての田口には、残念ながら不足を感じます。
そして、このような闘いぶりが、果たしていつまで続くものなのか、ということも、不安です。
その闘志には感嘆させられてばかりですが、そうはいっても...という気持ちですね。
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この日はセミセミにOPBFとWBOアジアパシフィックの「統一戦」がありました。
Sフェザー級、伊藤雅雪と渡邊卓也の一戦です。
初見(だと思う)の渡邊は、リーチもあって良い体格に見えましたが、
立ち上がりから伊藤に気圧されたか、ロープ際に下がってしまう。
伊藤は低い姿勢から、じっくり見てフェイントをかけるが、ジャブは省略、攻撃は散発的。
渡邊は試合が進むにつれ、時折鋭いワンツーが見られるが、全体的に手数が出ない。
伊藤もまた、カウンター狙いが度を超している印象。
両者、ことに伊藤の悪いときはこうですが、試合運びや組み立てが見えず、
その場その場の反応、対応だけにしか意図が見えない試合ぶり。
終盤は渡邊が疲れたか、少々フォームが乱れ出すが、伊藤は相変わらず、
カウンターの「合わせ」狙い優先で、攻め崩そうという型が作れない。
後楽園ホールのような、狭い空間で双方の応援団が多数を占めるロケーションなら、
多少違ったかもしれませんが、場内の「その他」の観客にとっては、見ていて
「終わるまで、大したことは起こらないだろうなあ」と確信が持ててしまう、退屈な試合でした。
判定は前に出ていて、手数、ヒットとも上の伊藤が、当然支持されました。
伊藤は渡邊が出てきた時の隙に、何らかの「合わせ」技を決めたかったのでしょうが、
渡邊は総じて消極的で、その狙いにも当然乗らない。
では、伊藤がその先、何か違うことをするかというと、何もなかったように見えました。
伊藤は合わせ技の巧さ、目の良さ、俊敏さなどに秀でて、センスのある選手だと思いますが、
ことこういう展開での「試合運び」に関しては、非常に凡庸、或いは歪な選手です。
きっと頭の中では、物凄い勝ち方、倒し方が理想像としてあるのでしょう。
しかし現実の試合展開において、それを実現するには、あまりにやること、やれることの幅が狭すぎ、
あまりに偏り、選り好みが過ぎます。この上を狙うには、不足が多すぎると改めて思わされました。
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この日はワタナベジムの若手選手も多数出場しました。
京口紘人、谷口将隆はそれぞれ勝利。谷口は少し拳を傷めたか、判定。
この両者はライバルであり友人でもあるそうですが、現時点では京口が一歩リードかという印象。
その前には、中山佳祐というサウスポーが出ました。
あれ、この選手見たことあるな、と思ったら、以前、大阪で久高寛之と対し、
二度ダウンして判定で敗れたものの、それ以外は健闘して、良い試合をしていた選手でした。
ワタナベジムに移籍しての初戦だったそうです。
タイの選手にKO勝ちでしたが、試合数がたくさん見込めるジムへの移籍を、
今後の成長に繋げられるかどうか、ですね。