さうぽんの拳闘見物日記

ボクシング生観戦、テレビ観戦、ビデオ鑑賞
その他つれづれなる(そんなたいそうなもんかえ)
拳闘見聞の日々。

とりとめもなく感動の名古屋より

2010-11-27 00:42:57 | 長谷川穂積
今日は本当に慌しい一日となりました。
なんとか用事を済ませて、名古屋の日本ガイシホールにかけつけて、席に着くとほぼ同時に、
セミファイナルの世界戦セレモニーが始まりました。
ご心配いただいたNBさんに感謝です。何とか間に合いました(^^)

しかし、無理して駆けつけた甲斐のある、見ごたえ十分な二試合でした。
まずは全力を尽くして闘った4人のボクサーに感謝、そして拍手です。


まずビタリ・タイベルトですが、とにかく出てきて最初に思ったのが「うわ、小さい」。
しかしその分、がっちりとしてて、揺ぎ無い感じ。ウラディミール・シドレンコの印象に似てました。
対する粟生隆寛はというと、噂通りに上半身が大きくなっていて、さらにパワーアップした感じでした。

この両者、立ち上がりほんの少し探りあいをやっただけで、早速互いの力と技を出し合います。
リードで探りあって、ワンツーの応酬、タイベルト右、粟生のボディ、カウンター合戦。
そして3回にタイベルトが頻発した左フックより先に、粟生の左カウンターが見事に決まり、タイベルトがダウンしました。

この一発、見るからに効いていて、まずよくぞ立ったなと場内は驚愕していました。
その後、ダメージが尾を引いたタイベルトを、粟生がフィニッシュするかと思いきや、中盤は攻めあぐみ。
6回、7回などはタイベルトが必死の巻き返しで、粟生が失点したと見えました。

この辺が今後の課題となるのでしょうが、粟生は単発のカウンター、守から攻への緩急は鋭いのですが、
攻勢時の詰めに、まったく緩急がありません。従ってこの日のタイベルトがそうだったように、粘られて反撃を許してしまいます。

それでも要所でボディを打っていた効果で、タイベルトの生き返りを封じた粟生、
終盤は左カウンターを毎回決めて、勝利を決定つけました。
さうぽん採点はやや甘いかもですが116-111、明白に粟生の勝利でした。


強豪と目された元五輪メダリストの世界王者に明白に勝ち、二階級制覇しながら、まだ見る者に不足を感じさせる。
粟生隆寛は、我々が思う以上に、ものすごい逸材なのかも知れません。
一撃で試合の趨勢を決めた3回のカウンターなどは、まさにワールドクラスの証明でした。

だからこそ、敢えて言えばその後の「不手際」が、余計に気になってしまうのかもしれません。
クラスを挙げた効果か、体力面で自信を持ったようで、手を出し惜しむようなことはなかったのですが、
やはり追撃が単調で、相手に耐える余地を与えてしまう甘さを改善できれば、粟生は一流の王者となるでしょう。
今後のさらなる成長を楽しみに見ていきたいですね。

あと、まあ、人によっては「かわいい」的な評価もあろう、試合後の号泣ですが(^^)
勝って泣くな、とは、やはり思うところですね。今日は泣き出した瞬間に、タイベルトが苦笑いしてるのが見えました。
こっちが泣きたいわい、と思っていたわけでもないでしょうが(^^;)
なんで勝った方が泣いて、負けた方が笑ってんだろうか、と...粟生のこういうキャラ、私は実のところ嫌いではないんですけど(^^)


さて、長谷川穂積ですが、入場してきた時点で、ちょっと冷静に見ることが出来ない気持ちでした。

4月の敗戦、初のノックアウト負け、しかもあごの骨折から7ヶ月で、再起緒戦が二階級上の世界1位との対戦。
いくらなんでも過酷な条件である上に、ひと月前のご母堂の逝去。
ボクサーとして、人間として、普通なら背負いきれない試練のはずでした。
いつもなら聞き流せる悲しげな入場曲も、今日ばかりは何か、違った重さをもって響いていました。

対する若き世界1位ファン・カルロス・ブルゴスは、思ったより線が細く見え、ぱっと見はちょっと安心しました。
これなら、長谷川が良いパンチ決めれば、倒しきれずともダウンのひとつくらいありそうやな、なんて。


甘かったです。


ひとことで言って、今日の試合は長谷川にとり「フェザー級」を身をもって知る、そのための試練でした。
まず今までと距離が違う。普段の感覚で打つワンツーが届かない。相手が踏み込まないで打つストレートが外せない。
それを修正して踏み込み、ワンツーを決めても、相手が倒れない、止まらない。

それでも左を捨てて相手を誘い、距離を近くして、返しの右フックを再三決め、左アッパーでボディを打つ。
直後に組み合わせを変えたコンビネーションで左ストレートを決めるなど、その都度、修正を加えて、
体格、リーチの差を埋めて闘う序盤の長谷川には、改めてさすがとうならされました。

しかし中盤から、長谷川はロープ際に下がらされて、ブルゴスの連打を受ける場面が増え始めました。
長谷川は、ロープを背負ったときに、普通のサウスポーみたいに右フック引っ掛けて回ることをしない選手です。
左を決めて脱出しますが、長谷川の数少ない欠点というか「足りない部品」があるところが露呈しました。
この辺から、足を止めて打ち合いに応じ、時には敢えて相打ち覚悟という場面も増え始めます。
7回のロングの左アッパーを食った場面のように、ブルゴスのリーチと圧力はかなりのもので、
足を使ってさばけるほど甘くはなかったでしょうが、見ていてハラハラしました。

懸命に攻め、目で外し打ち込みたい長谷川。ボディを攻め、打ち下ろしの右を狙うブルゴス。終盤はまさに死闘でした。
ときに好打を許しながら、それ以上の反撃を重ねて、ポイントをリードした長谷川は、普段はほとんどしない
自分からのクリンチ(本意ではないのでしょうか、かなり控えめであっさりしたクリンチでしたが)を見せる場面もありました。
見ていて思わず「それでええ、もっとおおっぴらにやってもええで」と声に出してしまいましたが(^^;)

さうぽん採点はかなり甘くて118-109で長谷川でした。
冷静に見ることが出来ず、自分の心中で「心配」が完全勝利を収めた状態での観戦であることは明らかであります(^^;)


しかし、とにかく勝ちました。
距離が違い、パワーが違い、耐久力が違う、今までの相手とは何もかもが違う、バンタム級時代なら3、4回分の防衛に
匹敵しそうな数のクリーンヒットを重ねながら、それでも倒れてくれない相手と、上記したような試練を背負って闘い、勝ちました。

ボクサーの人生について、あまり安易にあれこれは書けないですけど、長谷川はリングの内外で
一挙に降りかかってきた試練と、それにまつわる相当な重圧との闘いに勝利したわけです。
まずは勝ってくれて良かった。長年彼のファンをやってきましたが、内容知らん、とにかく結果、という気持ちで彼の試合を見たのは、
懐かしのジェス・マーカ戦、そして世界初挑戦のウィラポン第一戦以来だと思います。


この勝利により、長谷川はさらに、より困難な闘いに足を踏み入れることになるでしょう。
先日のファンマ・ロペスの試合や、ユリオルキス・ガンボアを例に引く以前に、WBCは二試合の指名試合を義務付ける、という話もあるようです。
ジョニー・ゴンサレス、チョラターン・ピリャピニョといった上位に長い強豪たちは、長谷川にとりさらなる試練となりましょう。

しかし、今日の試合を経て、きっと長谷川ならフェザー級に、心身共に対応し、より冷静に、より勇敢に闘えるようになると信じます。
今日も12回を通じて、思うように行かないことをいくつも抱えながら、すぐに対応し、出来る限りの闘いを見せた長谷川穂積だからこそ、
さらなる試練を乗り越えていくのだろうと。


今まで、色んな試合を見てきましたけど、正直、今日の試合ほど、冷静に見られなかったものは数少ないです。
才能に恵まれ、驕ることなく闘い続け、なお降りかかった試練にも真っ向から立ち向かう。本当に素晴らしいボクサーです。
長谷川穂積のようなボクサーと巡り合えた喜びを、改めて感じています。
コメント (7)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする