中流マーケティングを捨てよ!
“下流が主流”の時代のビジネスのあり方(日経ビジネスONLINE)今ではほとんど耳にしなくなった「1億総中流」という言葉は、日本市場の特徴をよく言い当てていた。日本市場は中流層のボリュームが厚いだけでなく、中流意識は一部の上流層や多くの下流層にまで及んでいた。もちろんかつての日本にも所得格差はあり、年収400万円未満の下流層は少なからず存在していた。しかしながらその多くは若年層であり、彼らは「年齢とともに所得は上がる」と考えていた。つまり彼らは現実の所得水準が下流であっても、意識は中流であり、消費意欲も高かったのである。
しかし現在、今まで日本の消費市場を支えてきた中流層が急速に空洞化している。たとえば10年前に年収200~300万円程度であった若年層の多くは、その後所得が増えず、中流層へのステップアップができていない。また10年前に年収500~1000万円程度であった中年層の一部は、リストラなどによる収入の大幅減により、下流層への転落を余儀なくされた。
国民生活基礎調査のデータによると、2008年の世帯平均所得は548万円。10年前の655万円から100万円以上も減少している。
今日は久しぶりに日経の記事を読んでみます。↑ここまで引用した範囲は、割とマトモというか普通のことを言っているのですが、その先がなかなかキレています。まるで週刊ダイヤモンドの記事のようなアホらしさで、いかにも経済誌らしい現実から乖離した主張が展開されます……
中流層の没落と下流層の拡大という現実に対して、「正社員と非正規社員の格差が問題だ」という主張が勢いを得ている。確かに中流層には正社員が多く、下流層には非正規社員が多い。しかし規制などによって非正規社員の雇用を抑制しても、下流化の流れは止められないであろう。企業が非正規社員を拡大させることによって人件費を抑制しようとしたのは、既得権で守られた正社員の賃金を下げにくかったからだ。言い方を変えれば、非正規社員は、人件費抑制のしわ寄せを受けた被害者であり、その加害者(受益者)は正社員であったと言うこともできる。だから非正規社員を正社員化し、彼らが加害者側に回れば問題が解決するということにはならない。非正規社員の増加は、あくまで表面上の問題にすぎないのである。
問題の根源をさかのぼるならば、グローバル化こそが日本人の所得減少の“元凶”であると考えられる。経済が地球レベルで一体化する現実の前では、日本人だけが高所得を謳歌するわけにはいかないのだ。現在日本の労働者の多くは、アジア諸国の5倍から10倍の賃金で処遇されている。日本人労働者は概して勤勉で、教育水準も高く、その労働価値は新興国の労働者より高いと考えられる。しかし、だからといって、日本人労働者の生産性がアジア諸国の労働者より5倍以上も高いとか、5倍以上も付加価値の高い仕事をしているということはないであろう。
したがってグローバル化が止められない以上、日本人労働者の賃金の下落は今後も続くと考えざるを得ないのである。
非正規社員が人件費抑制のしわ寄せを受けた被害者というのは間違っていないのでしょうけれど、その加害者として正社員を挙げるのは、いかにもビジネス本ばかり読んでわかったつもりになっているだけの、労働の現場を見ていない人にありがちな言説です。もちろん彼ら財界の太鼓持ちからすれば雇用主に批判の矛先が向かう事態だけは絶対に避けたい、そうなると代わりの「加害者」を真犯人として差し出さなければならないわけで、消去法的に正社員(あるいは中高年)を犯人として提示するほかないのかも知れません。しかし、人件費削減を推し進めた人ではなく、非正規社員と同様に賃下げ圧力に晒されている層を「加害者」と呼ぶのは、いくら経済誌でも非論理的に過ぎるのではないでしょうか。
曰く、「企業が非正規社員を拡大させることによって人件費を抑制しようとしたのは、既得権で守られた正社員の賃金を下げにくかったからだ」とのこと。正社員でも賃下げが珍しくない日本に在住する身としては、いったいどこの国の話をしているのかわかりかねるところもありますが、ともあれこれでは、なぜ企業が人件費を抑制しようとしたのかを説明できていません。賃下げを強盗に置き換えてみるなら、「強盗が個人商店を狙って押し入ったのは、警備員に守られた大型店には侵入しにくいからだ」と説明するようなものです。標的が選ばれた理由はともかく、なぜ強盗に入ったのかは、全く説明できていませんよね? そしてこの日経の記事の論理によると、この場合の「加害者」は難を逃れた人=つまり強盗に入られなかった大型店ということになるわけです。こんな強弁は、それこそ経済誌でしか通用しないものです。
正社員が既得権益とやらによって守られたかと言えば、当然ながらそんなことはなく、リストラされたり賃下げされたりしたケースも少なくなりません。採用抑制と並行して、まず給与の高い中高年をリストラし、そこを薄給の若年者や非正規労働者で穴埋めしていくことで現在の労働環境が作られたわけです。むしろ直接の被害者は過去に席を奪われた元・正社員であり、現・正社員は難を逃れただけと言うべきでしょう。たとえば地下鉄サリン事件で生き残った人を加害者と呼びますか? リストラや賃下げの嵐から免れた人を加害者と呼ぶのなら、何らかの事件で運良く被害を免れた人をも加害者として糾弾しなければならないことになるわけで、何とも無茶苦茶な話です。構造改革・規制緩和とは中流を攻撃して下流に落とすものであり、そこで下流に落とされた人々は被害者と呼ばれるべきですが、落とされることなく中流に残れた人を加害者と見なすのは八つ当たりもいいところです。誰が「落とした」のか、その辺はいい加減に直視して欲しいところです。
また全般的な賃金下落傾向の原因をグローバル化に求めているわけですが、これもまた酷いこじつけです。グローバル化で賃金が下がっているのは、むしろ日本だけである、日本は例外中の例外であることもまた直視しなければならないと思います。日本以外の国ではグローバル化と同時に経済成長を続け、賃金水準も上がっている、格差が拡大するところはあっても、全体としてみた場合の賃金は日本と違って上昇するのがグローバル経済における「普通」ではないでしょうか。なぜ日本国内の給与水準だけが下がり続けるのか、日本における「グローバル化」という言葉の何となくネガティヴなイメージに頼るばかりで、本当の原因については何一つ説明できていません。
……で、そこから先は見出しにもあるように引用元の著者は「これからは下流ビジネスだ」と説き始めるのですけれど、どこまで頭が悪いのだと呆れるほかありません。内需型の企業が軒並み下流向けにシフトして値下げと賃下げを繰り返してきたからこそ、今の日本経済の惨状があるわけです。この状況を打開するためには貧乏人を対象としたビジネスから脱却することが求められるのではないでしょうか。一足先に下流ビジネスに乗り出した企業は一人勝ちを収めた、だから下流ビジネスが伸びているように見えるところもあるのかも知れませんが、特定の会社ではなく業界全体を見渡せば、経済規模が無惨な縮小を見せていることに気づくはずです。今さら下流ビジネスに手を出したところで、不毛な利益の削り合いが待っているだけ、引用文の著者はコンサルタントとのことですが、こういうアホなコンサルタントに騙される経営者が出ないことを祈るほかありませんね。
個々の企業で見ればともかく、全体で見ればバブル期よりも企業収益は増えている、経済界全体で見れば20年前の雇用のレベルに復帰する程度の体力はあったのですけれどね。また派遣切りは3年を待たず、単に景気が悪くなって切られたからこそ大量発生しているのですが、その辺は規制緩和論者の「設定」と現実を取り違えないでください。同時にパイは増えない、というのも虚構です。日本「以外」の国ではパイは増えています。パイが増えない方が、賃下げを押しつける上では好都合なのでしょうけれど、現実から目を背けないでください。パイを増やしていないのは日本だけです。
>Bill McCrearyさん
とりあえず自民党の失敗は理解されているのかも知れませんね。ただ民主党やみんなの党といった、自民党とほぼ同路線の党が代わりに票を集めている辺り、自民党のどこがダメだったのかは理解されていないような気がしてなりません。その辺を、財界よりの論者やメディアにつけ込まれてしまうのだろうな、と。
企業に全社員を高コストな正社員で雇いきれる体力がなくなってるっていうのはあるとは思うんですよね。
全員正社員が基本なんて言って、派遣の3年ルールで派遣社員が派遣切りに大量に遭ったわけで。
そう考えると全員正社員にするなら、派遣に近いレベルまで正社員のコストを削減するしかないんじゃないかと思うんです。もうパイはそんな簡単には増えないんですし。
ある意味、自ら「下流マーケティング」を実践しているのかも知れませんね。非正規社員に向けて「正社員が悪いのだ」と煽り立てるのがダイヤモンドであり日経も追随する様子を見せているわけですが、これこそ「下流向け」の紙面作りなのでしょう。
業種に関してですが、反対に賃金相場の「高い」産業へのシフトが起こらねばならないはずなんですよね。しかるに日本は製造業原理主義を貫いて新興国とのコスト競争を選択したり、業種は同じでも「下流マーケティング」の会社に入る人が増えた、その辺も賃金低下の一因になっていると思います。
正社員対非正規などという対立軸はどこででも起きているというわけではないのに、日経や週間ダイヤモンドは無意味にこれをあおっていますね。
ところで、労働者の平均所得の低下の一因として、
「賃金相場の低い産業に正社員として就職する(あるいはせざるをえない)人が増えた」という可能性は考えられないでしょうか?
新興業種には結構そのようなのがありますし(給料が良くても仕事がきつく中途退職者が異常に多いのもそういう業種に多いかと)。
さらにこういう業種がそこそこ時間が経っても成熟の気配がみられず、結果として社員の待遇がなかなか改善されないというのもありますし。
別エントリにある、過当競争の話とも関係がありそうですが。
ただ事態を見守るだけでデフレに何の手も打てない白川の言葉を真に受けちゃう子もいるんですね。ではデフレなのに企業収益は伸びているのはなぜですか? 経済が停滞しても、賃金が下がった分だけ経常利益が上積みされている、この現実に向き合うべきでしょう。
akibakaori 非国民通信管理人←こいつほどの低能はいないなw 規制緩和しなかったら、こんなクズ、どこが雇うんだよ。 派遣切り無職なのも無理はない(自己責任論は嫌いだが)。 2010/08/27
http://b.hatena.ne.jp/entry/blog.goo.ne.jp/rebellion_2006/e/28c4ecd02b830e98b10f5f7275299f86
その点では、どれほど政治や経済がグダグダに見えても内向きな「統治」というレベルでは上手く行っていると言うことなのかも知れませんね。「下」はいくら混乱したところで、「上」には累が及ばないような体制作りこそ、近年の改革気運が推し進めてきたものだったと言えそうです。
団塊世代が悪い、女の社会進出が悪い、政治が悪い。
あるいは甘えてる派遣が、ゆとり世代が、
権利を主張する労働者が、生活保護受給者が悪い。
古代ローマの時代から何も変わらない分断統治ですよね。
社会的弱者同士が憎みあう仕組み。
しかしこれだけ悪者(攻撃の対象)探しが好きな日本のマスメディアなのに、
経営者が悪い、財界が悪い、経団連が悪い、との声は
どのメディアからも聞こえてこないのは
まったく不思議なことです。
労使の問題を労働者間の問題にすり替えたがる連中は後を絶ちませんよね。そもそも慣例として解雇が黙認される日本でこれ以上の緩和となったら、世界で最も労働者が守られない国を作るということにしかならないのですが、「風が吹けば桶屋が儲かる」式にご都合主義を並べ立てるばかりの連中が幅を利かせていますから……
それに、いままでの政府や財界の政策を振り返っても、セーフティネットの構築のないまま企業側のやりたい放題になる危険性が非常に高い気がします。