非国民通信

ノーモア・コイズミ

轍を踏もうとする政策

2014-05-31 14:39:16 | 雇用・経済

「和製ジョブズ」育成目指す…総務省が支援事業(読売新聞)

 総務省は、情報通信の分野で世界的に影響を与えるような奇抜なアイデアを持った人材の支援に乗り出す。

 「奇想天外で野心的な課題」に挑戦することが条件で、年300万円を上限に研究費を支給する。失敗も許容するという、中央官庁としては異例の事業となる。

 今年度の情報通信に関する研究開発の委託事業に、「独創的な人向け特別枠」を設ける。パソコンや携帯電話で革新を成し遂げた一方、ユニークな人格でも知られていた、米アップル創業者の故スティーブ・ジョブズ氏のような人材の育成を目指す。

 

 総務省が、「奇抜なアイデアを持った人材の支援に乗り出す」そうです。その割りには「年300万円を上限」ということですので、随分としみったれていると言いますか、単なる話題作りにしかならないであろう未来が今から見えています。それ以上にどうなんだろうと思うのは、「米アップル創業者の故スティーブ・ジョブズ氏のような人材の育成を目指す」との行、いやいや、ジョブズは既存の製品を目新しく見せかけるのが天才的に上手いのであって、独創性や革新云々とは違うでしょうよ。

 まぁ、せっかくの発明でも市場に歓迎されずに埋もれて久しいというケースは多々あるはずですから、そうした埋もれた種を掘り起こして商業的に成功させるといった意味でのジョブズ的な才能は確かに待ち望まれているのかも知れません。しかし、アップル社といえば専らアメリカ国外の工場に生産を委託しているばかりで米国内に雇用をもたらしていないと強く批判を受けていたほか、海外子会社を悪用した租税回避行為でもしばしば米議会での追及対象でした。日本でジョブズのような人物が起業して会社を大きくしても、それが本当にジョブズ的であるなら……

 ついでに言えばアップル社からの製造受託では中国のフォックスコンなどが最大手の一つとして挙がるところ、この会社は新型iPhoneの試作機を紛失した従業員を情報漏洩の疑いで監禁した挙げ句、尋問に加えて暴行を繰り返し、自殺に追い込むなどの悪行でも注目を浴びました。とにかく従業員の自殺が多く(これを高齢者や失業者を含めた自殺者の統計と同列に扱って擁護しているつもりの人も見かけますが、いくらなんでも無理筋に過ぎる、職のある若者の自殺がどれほどレアケースであるかは知ってしかるべきでしょう)、挙げ句の果てに社員に対して「自殺しません」という誓約書の提出を求めた企業だったりします。先日はアマゾン創業者のジェフ・ベゾス氏が国際労働組合総連合が行ったアンケートで「世界最悪の経営者」に選出されましたけれど、ジョブズだってベゾスと肩を並べる資格はありそうなものです。

 

「残業代ゼロ」案修正へ 幹部候補に限定、年収は問わず(朝日新聞)

 労働時間にかかわらず賃金が一定になる働き方をめぐり、政府の産業競争力会議が、対象となる働き手の範囲を見直すことがわかった。当初案は対象に一般社員も加えていたが、「幹部候補」などに限定し、年収の条件を外す。法律で決めた時間より長く働いても「残業代ゼロ」になるとの批判をかわすため対象を狭めるねらいだが、企業の運用次第で幅広い働き手が対象になるおそれがある。

 28日の産業競争力会議に、4月に当初案を提案した民間議員の長谷川閑史(やすちか)・経済同友会代表幹事らが修正案を出す。いまは従業員を一日8時間を超えて働かせたり、深夜や休日に出勤させたりすると、企業には賃金に上乗せしてお金を支払う義務がある。当初案は、時間ではなく仕事の成果で賃金が決まる働き方を提案し、年収1千万円以上の社員のほか、一般社員も対象にするとしていた。

 修正案は、中核・専門的な職種の「幹部候補」などを対象とする。具体的には、新商品の企画開発や会社の事業計画策定の現場責任者を指す「担当リーダー」、ITや金融分野の専門職「コンサルタント」などだ。一方、年収の条件を外し、高年収者でなくても導入できるようにした。

 

 安倍晋三は経済に関して芯がないと、何度か書きました。成長志向の政策もあれば、衰退志向の政策もまたあるわけです。この辺、ひたすら日本経済を一貫して下へ下へと牽引してきた橋本龍太郎や小泉純一郎、そこから先の諸々の首相に比べればマシな方、マイナスだけしかない人よりはプラスとマイナスの両方があるだけ相対的には許せる範囲と言えなくもないのですが、ここで取り沙汰されているような残業代ゼロ路線は当然ながら、従来の構造改革/規制緩和路線を引きずるものと言いますか、まぁ「轍を踏む」イメージですね。よく言われる日本の(時間当たりの)労働生産性の低さは、結局のところ分母となる労働時間の長さに起因しているのに……

参考、規制緩和はイノベーションを遠ざける

 一時は年収を条件に挙げつつも、今度は年収の条件を外して「幹部候補」とやらをターゲットに定めたことが伝えられています。これは、完全に後退です。そして中核・専門的な職種と称して持ち出された具体例はと言えば、新商品の企画開発や会社の事業計画策定の現場責任者を指す「担当リーダー」、ITや金融分野の専門職云々と、日本の所謂「総合職」だったら役職者ならずとも普通に該当しそうな世界です。やはり「日本版」のホワイトカラー・エグゼンプションらしいと言いますか、適用範囲がとんでもなく広く想定されていることが分かります。

 そもそも日本的雇用においては、正社員とりわけ男性正社員ともなると「待遇と権限以外は」幹部候補生扱いと言いますか、責任を負うことを求められると同時にマネジメントの意識もまた求められるものではないでしょうか。幹部候補に入らず下っ端のまま定年まで働き続けるようなキャリアは想定されていない、中核的な業務に関わらない労働力は非正規で賄おうというのが日本的経営というものです。この辺の構図が変わらない限り、留保なしの正社員は残業代ゼロが適用されるのが一般的、それが嫌なら非正規などの保証なき雇用を選ぶしかないという悪夢の二択になりかねません。しかし、その国で働く人が貧しいのに社会が豊かになると言うことがあり得るのでしょうか? いかに人件費を抑え込んで企業に富が蓄積されても国全体で見た場合の経済成長には結びつかない、そのことはこの十数年来の改革路線が証明してきたはずなのですが。

 

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