非国民通信

ノーモア・コイズミ

景気回復を喜ばない企業達

2014-05-07 21:56:45 | 雇用・経済

バス 運転手不足が深刻 国交省調査 増便断念や休日減少(SankeiBiz)

 国土交通省によるバス会社への調査で、回答した35社のうち34社が「運転手不足による影響が出ている」と答えるなど、人手不足が深刻化している実態が分かった。

 具体的な影響としては複数回答で、増便断念(68.6%)、運転手の休日減少(65.7%)、時間外勤務の増加(31.4%)が上位を占めた。

 運転手の離職率は、入社1年以内が29.0%、4年以内が48.0%と高水準だった。理由としてバス会社は複数回答で、低賃金(42.9%)や長時間労働(22.9%)を挙げるなど、待遇面での不満から辞める人が多いと答えた。

 

 公務員のバス運転手の給料が高い云々と難癖を付けてきた市民や政治家、マスメディアは多々あるわけですが、長時間労働に加えて早朝や深夜、休日に重なる勤務シフトや普通の自動車免許では済まされない専門性も含めれば当然のことながら、受け取ってしかるべき給与が高くなるのは言うまでもないでしょう。長年にわたってバスに限らずドライバーの給与は低く抑え込まれてきましたけれど、その辺が限界にさしかかっているところもあるように思います。働く人の賃金を抑え込むことで顧客に安価なサービスを提供するというビジネスモデルが崩壊するのは、至って健全なことです。そして公共性の観点から安価でなければならないサービスは、営利企業任せではなく市バスや保険適用の医療のように「公」が関与する形で維持されるべきものです。

 

ワタミ、上場後初の赤字に(時事通信)

 居酒屋チェーン「和民」を運営するワタミ〈7522〉は2日、2014年3月期の連結業績予想を下方修正し、純損益が49億1200万円(従来予想は12億円の黒字)の赤字に転落すると発表した。赤字は1998年の上場後初めて。居酒屋の不振に加え、人手不足に伴う店舗閉鎖などで、特別損失26億4000万円を計上する。 

 

人手不足、企業が悲鳴 営業短縮や店舗の閉鎖(朝日新聞)

 人手不足が広がりをみせている。飲食店や小売り、建設工事だけでなく、製造業の現場でも人が足りなくなり、企業は働き手を確保するため、バイト代やパート代を引き上げている。景気回復による前向きな動きなのだろうか。

 4月27日午前9時。都内の牛丼店「すき家」でアルバイトを終えた30代の男性が、疲れ切った表情で店を出た。前日午後10時から働いた。「夜中の店員は基本、ひとり。手が足りず、店は24時間営業と言いながら、閉めちゃうこともあります」

 「すき家」を展開するゼンショーホールディングスは2月から4月にかけて人手不足を理由に123店で休業し、124店が深夜・早朝営業を休止した。アルバイト女性は「2月に始めた牛すき鍋定食が牛丼より手間がかかり、負担ばかり増えて人が増えず、『やってられない』と辞める人が相次いだ」と指摘する。

 

 ワタミにゼンショーという、まさにデフレの牽引役であった企業がここに来て躓きを見せています。働く人の賃金を抑え込む、あるいは働く人に無理をさせることで利用者に安価な商品/サービスを提供する、そうしてデフレ不況の中でシェアを広げてきた事業者があるわけですが、そのもたらしたものは何であったでしょうか。ワタミやゼンショーのような会社が栄えれば栄えるほど、働く人の待遇は悪くなる、デフレも進んで尚更景気が悪くなると、何一つ良いことはありません。経営側に立つ朝日新聞は「企業が悲鳴」と宣いますけれど、日本経済を下へ下へと引っ張ってきた企業が破綻していくのは、労働者に限らず日本経済全体にとっても、この上なく好ましい話なのです。

 そもそも、景気が良くなって「企業が悲鳴」というのもおかしな話です。景気の回復を歓迎できるのが真っ当な営利企業というもの、逆に景気が好転したら立ちゆかなくなってしまう企業には何らかの根源的な問題があるとは考えられないのでしょうか。不況に依存する企業など、日本社会に巣くう癌のようなものです。不況下の超・買い手市場を良いことに労働力を安く買い叩き、使い潰すことによってのみ存続しうるような企業には、一日も早く市場から退場してもらう必要があります。デフレ依存の企業が淘汰されるのは健全な競争の結果に過ぎません。それを改革という名の規制緩和によって存続させようというのなら、この十数年来の経済政策の過ちを繰り返すだけです。

 

 求職者1人に何人分の仕事があるかを示す有効求人倍率を職種別でみると、求職者の4分の1が希望する「一般事務」は0・28倍で、100人の希望者に28人分の仕事しかないことを示す。一方、飲食店で働く「接客・給仕」は2・64倍、「建築・土木・測量技術者」は3・97倍と、求職者と企業との間でのミスマッチが著しい。日本総研の山田久氏は「『人手不足』が続けば企業の生産性は上がらず、経済成長も難しい。女性や高齢者でも働きやすい仕組みをつくると同時に、働き手のスキルを高める政策も必要だ」と指摘する。

 

 なお事務職が狭き門であるのは昔からと言いますか、0.1倍を上回っただけでも結構な堅調ぶりに見えないでもありません。事務職の求人ばかりが突出して増えるという、現実には考えにくい事態でも起こらない限り、そうしたバランスは変わらないでしょう。ただ職種に限らず全体的な求人倍率の上昇は好ましいこととして認められるべきものと言えます。一方で「『人手不足』が続けば企業の生産性は上がらず、経済成長も難しい。」云々と頓珍漢なことを言い出す人もいるのですから困ったものです。

 人手不足で企業の生産性が上がらないというのなら、反対に極度の人余りが続いた近年の日本は企業の生産性が向上して華々しい経済成長が続いてきたはずですが、言うまでもなく結果は正反対です。人が余れば余るほど賃金水準は下落し、日本で働く人の購買力も低下するばかり、それで経済成長を望むとすれば小泉時代のような他国の経済成長の「おこぼれ」に期待するほかなくなってしまいます。そもそも日本の労働生産性が低いと言われる原因は長時間労働にあるわけです。安い人件費を良いことに従業員に長時間労働を強いる企業が跋扈、その結果として日本の1時間当たりの生産性は低い数字にならざるを得ませんでした。そうしたデフレ依存企業が淘汰され、すき家のように深夜営業を取りやめるところが増えてくればどうなるでしょう――当然ながら労働生産性を計る分母である労働時間が減少しますので、生産性は上昇します。売り上げは深夜分だけ減少するかも知れませんが、時間当たりの労働生産性は上昇するのです。そしてこれは、経済成長のためにも大切なことのはずです。

 

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コメント (3)
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