非国民通信

ノーモア・コイズミ

よくある無意味なアンケート

2014-05-26 22:10:13 | 社会

子宮頸がん予防ワクチン 接種者44パーセントが発症 藤沢市(神奈川新聞)

 藤沢市は23日、子宮頸がん予防ワクチンの接種者を対象に行ったアンケート結果を公表した。接種後の体調の変化について、44%に当たる1442人が何らかの症状が出たと回答。このうち、13人は現在も症状が続いていると答えた。

 アンケートは、市民の実態把握のため実施した。対象は、国が任意接種を開始した2011年3月から14年3月末までの接種者7千人。いずれも1994年4月2日~2002年4月1日生まれの女性で、3277人が回答した(回答率46・8%)。

 症状の内容は、「注射部の痛み、かゆみ」が1118人で最多。以下▽注射部の腫れ、あかみ=824人▽だるさ、疲労感、脱力感=330人▽手足の痛み=119人▽頭痛=66人▽発熱=52人▽めまい=44人▽湿疹=15人▽失神=9人-と続いた。

 症状の期間については、「2日以上1週間未満」の1048人が最も多く、1カ月以内に症状が消えた人が全体の96%を占めた。一方で13人が「継続中」と答え、1カ月以上続いた人が16人だった。

 

 こんなアンケートが藤沢市で行われたようですが、酷い話です。まぁ大小の新聞社もヨソの自治体も日本全国の営利企業も無意味なアンケート結果を得意げに披露しているところが多いですので藤沢市が特別とは言いませんけれど、もう少し考えて仕事をしたりできないのかな、と思います。いやまぁ、余計なことを考えるような人は民間だろうが公務員だろうが採用されないのかも知れませんが。

 色々とツッコミどころはあります。神奈川新聞も相変わらずの偏向報道ぶりと言いますか、見出しには大きく「接種者44パーセントが発症」と掲げられていますけれど、しかるに内実はと言えば「注射部の痛み、かゆみが1118人で最多」、それに続くのが「注射部の腫れ、あかみ=824人」だそうです。それを「発症」と呼べる神奈川新聞の記者の頭の方こそ、私には心配に思えてきます。注射したところが腫れたり痒くなったり等々、そんなものはインフルエンザの予防接種だって同じでしょうに。

 個人的なことを言えば注射跡が腫れて痒くなるのは常のことですし、その後に挙げられている「だるさ、疲労感、脱力感、手足の痛み、頭痛、発熱、めまい」といった症状もまた予防接種の有無とは別に頻繁に見舞われています。もう少し健康な若い娘なら話は違うのかも知れませんが、自己流ダイエットで体を痛めつけているような人ならばやはり、注射とは無関係に疲労感や脱力感に見舞われたりもするものでしょう。あるいは生理が重い人なんかは、やはり健康であろうとも症状が出る、それがワクチン接種の時期と偶然に重なることもあるはずです。

 割と軽く見られがちな例を挙げますと、親知らずの治療なんかでも麻酔や抜歯の際に神経を損傷させて麻痺が残る、みたいなケースがよくあるわけです。ところが、どうにもリスクの大きさよりも目新しさの方が世間的には重視されるところがあるように思います。放射線/被曝絡みの危険性が、大半はろくに理解もされないまま騒ぎ立てられる一方で既存のリスクがまったく考慮されない等々、この子宮頸がん予防ワクチンに関しても同様、少なからず誤った取り上げられ方をしているのではないでしょうか。

 端的に言えば、リスクは比較されなければ意味がないものです。Aというリスク(を含む選択)を回避した結果としてBという新たなリスク要因を招き寄せるのであれば、AとBを秤にかけなければならない、そこでよりリスクの小さい方を選択するのが当然の理性と言えます。逆に選択Aにリスクが「あるか、ないか」で判断してしまうことで、より重大なBという危険因子から目を背けてしまうのは、救いようのない愚か者の選択です。

 残念ながら、この国の偉い人は一般に愚かです。そういう人が選出される背景を作ったのは国民ではないかというのはさておき、しばしば我々の社会ではリスクが「あるか、ないか」だけで完結してしまうことが多いわけです。典型的なのが原発利用を巡る是非で、原発に危険性が「あるか、ないか」を問うばかりで、原発を使わなかった場合に想定される諸々の負の要素と秤にかけるようなバランス感覚を持った人は残念ながら多くありません。そして子宮頸がんワクチンも然り、予防接種のリスクが「あるか、ないか」を問う声に圧倒され、子宮頸がんを発症するリスクとの軽重を計る理性は傍流に追いやられがちです。

 そしてリスクと同様に、統計もまた比較されなければならないと言えます。この辺が冒頭で「無意味」と断言した理由になるところで、要するに適正な比較対象のないアンケートでは結果が示すところが何であるかを判断することなどできないわけです。もし今回のアンケートを意味のあるものにしたいのなら、似たような母集団で注射を受けなかった場合(あるいは申告した症状がワクチン接種の時期以前にもあったかどうか)、そして似たような母集団で子宮頸がんワクチンとは別種の筋肉注射を受けた場合も最低限、調査する必要があるでしょう(厚生労働省は調査しているようなのですが)。

 こうしたものと比較することで、自己申告された症例がワクチンと関係するのか、それとも筋肉注射を受ければ普通に起こりうる範疇なのか、あるいは普通に生活していても起こりうる範囲なのかが推測できるようになります。上でも触れたように注射跡が腫れるくらいはよくあること、皮下注射でも一般に起こることですし、ちょっと不健康な人なら頭痛や目眩なんて日常の風景なのです。そういった「普通」を考慮できていないアンケートなんて、何の意味もありませんし、取り上げるメディアにもそれくらいの理解は求めたいところ、しかし神奈川新聞の見出しはあらぬ誤解を広めようとする悪意が感じられますね……

 

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