非国民通信

ノーモア・コイズミ

規制緩和はイノベーションを遠ざける

2014-05-11 23:09:42 | 雇用・経済

日本経済の競争力回復のために「労働時間規制」は強化するべき - 冷泉彰彦 プリンストン発 日本/アメリカ 新時代(ニューズウィーク日本版)

 第一次安倍内閣の際に廃案になった「ホワイトカラー・エグゼンプション」が、今度は「残業手当ゼロ化」とでも言うべき拡大案として、再び検討されているようです。今回は、管理職一歩手前の年収1000万円超クラスに加えて、労使協定を行えば全社員にも適用可(その場合は時間の上限規制はあり)というものです。

 この法案に関しては、過労死推進であるとか、日本経済の総ブラック化といった言い方で批判がされているようですが、私はそのような批判では足りないと思います。現在の日本社会で労働時間規制を緩和するということは論外であり、反対に徹底的に強化するべきです。そうではないと、日本経済の衰退を加速する、そのぐらいの問題であると思います。

(中略)

 とにかく現在の日本経済は「仕事のやり方」という意味で世界から周回遅れになっています。ここで「イノベーション」ができるかどうかが、これからの日本経済が生き残っていけるかどうかの瀬戸際だと思います。そのためにも、労働時間規制は強化するべきであり、緩和は論外だと考えます。

 

 競争力回復のためにこそ、規制は強化されるべきと説かれています。引用元の中略部分にて具体例も色々と書かれているわけですが、とにもかくにも規制緩和が必要だと強弁される日本社会においては見過ごされているものも多いのではないかと思うばかりです。時に私は経済をチーム競技――例えばサッカー――に擬えてきました。戦術的な約束事を撤廃して選手の自由に任せる場合と、連携を重視して個々に戦術的制約を課していく場合、チームとして強くなれるのはどちらでしょう? 経済も然り、企業(雇用主)に自由を与えることを最優先してきたこの十数年間が日本経済にもたらしたものは何であったかを我々は忘れてはなりません。

 「必要は発明の母」みたいに言われることも多いです。これは必ずしも正しくはない、逆に供給が先にあって、後からニーズが喚起されるケースも想定されますけれど、まぁ一般論としては「必要は発明の母」であることが多数派なのでしょう。逆に言えば「必要がなければ」発明あるいはイノベーションの産み出される母体は失せてしまうものなのかも知れません。ニーズもないのに発明しようという、そんな奇特な人は突然変異的にしか現れてこないものです。

 そこで労働時間規制の問題です。日本において人件費は下がるばかりで先進国としては相当に安い部類に入る、加えて残業代の踏み倒しも実質的にはお咎めなしの状態が続いてきました。後者に政府としてお墨付きを与えようというのがホワイトカラー・エグゼンプションでもあるわけですが、果たしてこの企ては何をもたらすのでしょう。もし十数年来の規制緩和路線を継続するならば、イノベーションの必要性は失せる一方、そして必要性がなければそれは産み出されることもなくなると言えます。

 日本において会社側が利益を貯め込むためには、労働者から奪うのが最も簡単で確実です。つまり、社員を非正規に置き換えて働く人の取り分を減らす、あるいは社員にサービス残業を強いて売り上げを伸ばしつつ人件費は据え置く、こうしたイノベーション不要の収奪によって日本企業は空前の内部留保を積み上げてきました。しかし内部留保ばかりが史上最大規模を更新し続ける一方で国のGDPは伸び悩み、世界経済における日本の地位が低下する一方でもあったのは言うまでもありません。

 働く人に無理をさせることで利益を確保してきた企業として代表的なワタミやゼンショーが、政権交代後の景気回復傾向の中で岐路に立たされています。これまでの日本的経営においては、とにかく社員を長く、安く、多く働かせれば済む、あまり頭を使う必要はなかったわけです。しかし、そんなイノベーション不要の日本的経営が日本社会を豊かにすることは永遠にあり得ません。必要なのは、それとは反対のことなのです。

 労働者の立場が弱い社会では、イノベーションは必要ありません。従業員をより長く、より安く働かせれば済むのですから。しかし、それが不可能になったらどうでしょう。今までのように労働者を安く買い叩くことができなくなったら、社員を無償で延々と残業させることができなくなったら――それこそまさにイノベーションが必要とされる時期です。従業員に真っ当な賃金を支払いつつ、それでいて利益を上げられるようになれなければ日本経済の国際競争力向上など笑い話に過ぎません。ここで改革という名の規制緩和によってイノベーションなき日本的経営すなわち安く長く働かせることでしか利益を上げられない経営を延命させるなら、日本が向かう先は新興国の「下」です。

 

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コメント (3)
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