ニュージーランドを舞台にした映画「ピアノ・レッスン」は名作であった。19世紀の半ば、スコットランドからまだ未開の植民地ニュージーランドへ嫁がされてきた主人公は、口がきけない。そんな彼女が大事にするものはピアノであった。そのピアノこそが彼女の分身である。そしてそのピアノを介して激しい愛のドラマが描かれる。
未開の植民地ニュージランドへ大きなピアノを小舟に積んで上陸する冒頭のシーン。海は深く暗い色をしている。降り立った砂浜は鉄分を含むのか黒い砂浜である。そして、海にまで張りだした森は鬱蒼としている。自然の厳しさを思わせるそのニュージーランドの風景は、その後のこの主人公の行く末を暗示する。
ニュージランドのお気に入りのワインがクアトロに再入荷した。“キム・クロフォード/ソーヴィニヨン・ブラン”である。ニュージランドの中でもソーヴィニヨン・ブランの名産地マールボロ地区のものだ。このキム・クロフォードはニュージーランド・ワインの中でもとびきりに評価が高い。トロピカル・フルーツのような鮮烈な香りとしっかりとした酸を併せ持ち、余韻も長く飲んでいて飽きが来ない。ニュージランドの豊かな自然の中で磨かれた個性豊かな味わいの白ワインである。
一見ひ弱そうな女性が、力強く野性的にピアノを奏でるあの映画の主人公のような白ワインなのである。
その事件は、豊四季という辺鄙な町の片隅で起きた。豊四季にある奇妙なイタリアン、クアトロ・スタジオーネに旬には早すぎるが、見事なハモが鹿児島から持ち込まれた。また、偶然にも粒のしっかりとしたタラコも持ち込まれていた。
そのハモとタラコは、クアトロ・シェフの試行錯誤の結果、天使の髪の毛と呼ばれるカッペリーニという細麺を使って、パスタ料理となった。偶然に介在していたと思われた点と点がある男の執着から線へと結ばれていったのだ。
出来上がった“ハモとタラコのカッペリーニ”はこれからの夏場のクアトロ自信作となりそうである。しかし、ハモの骨切りは一苦労である。そして売価の設定も難しい。まだまだ解明しなくてはならない問題点は多い。
常連のお客様は今後このパスタのモニターにされることだろう。
クアトロの通う魚市場に関東では馴染みのない魚が鹿児島から送られてきた。“エメス”だという。そのエメスという魚の正体を求めてクアトロは捜査に取りかかった。少ない資料の中から捜査は進められた。そして、種子島あたりで獲れるハタ科の魚ではないかということで、捜査は一段落したのだった。名前などより、その味わいの方が肝心なのだが、関東のイサキに似たような味わいでとても美味である。さすがに、ハタの仲間は美味しいものだと捜査陣は納得するのであった。
それから、数日後の昨日のことだ。クアトロの捜査員のひとり、クアトロのシェフは再び入荷したエメスに付けられた荷札を見ると、汚れが付いているのだろうか、“エメズ”とも読める。捜査本部に帰ったクアトロのシェフは、本部長のクアトロの父にその件を報告する。
再びエメズで捜査を再開してみると、驚いたことにこのエメズが正しい名前であった。鹿児島や熊本あたりの呼び名であり、ヨコスジフエダイのことだと判明した。ハタの仲間から一転して笛鯛の仲間になってしまったが、どうやら今度は間違いがないようである。捜査陣は、今回の不手際を大きく反省するのであった。それでも、美味しい魚であることには変わりはないのである。
やはり、笛鯛の仲間は美味しいものだとつぶやくクアトロの父であった。