1900年 ドイツの医師 Sudeck は足部外傷後や手術後に過剰な炎症反応がおき,結果として骨萎縮が遅発性に生じることを報告した(いわゆるSudeck 骨萎縮).1946年 Evans は,Sudeck 骨萎縮と類似の病態を反射性交感神経性ジストロフィー (RSD)と名付けた.この理由は,この疾患の症状において交感神経の関与(発赤・腫脹・発汗異常など)が大きいと考えたからである.1994年,国際疼痛学会 (IASP) はRSDの中に交感神経非依存性痛が存在することから,RSD を複合性局所疼痛症候群1型 (Complex Regional Pain Syndrome type I: CRPS type I) と新たに命名した.type I は神経損傷がないもの,type II を神経損傷と関連する causalgia としている.発症機序については十分に解明されていない.当初より交感神経系の異常亢進に起因している可能性が示唆されてきたが,IASPは前述の通り交感神経非依存性の病態も含まれることを重視し,その原因を複雑かつ多岐に及ぶ不明のものと考えている.しかし基本的には 1) 求心性信号の異常増加,2) 感覚神経細胞の感受性増大や感作,3) 神経回路の再構築による異常回路の形成,4) 疼痛抑制系の低下,などの病態が考えられている.
今回,Oxfordのグループより興味深い症例が報告された.この症例はCRPS type1の女性で,IVIg施行後6週間にわたり疼痛の減少と自律神経症状の改善を認めた(3回のIVIgを行い,そのたび有効であった).免疫学的機序の関与が疑われたため,各IVIg施行前に採血し,患者血清(IgG分画,および非IgG分画)を精製,C57B16マウスに2-5日間注射した.対照のマウスには健常者血清(IgG分画,非IgG分画)を注射した.この結果,独立した3回の実験で(計60マウス),施行2日後までに患者血清を注射したマウス群において開放探索(open-field exploration)における明らかな行動異常(これはげっ歯類では痛みを反映するらしい),およびrearing(立ち上がり)の減少を認めた(p<0.001).非IgG分画注射群ではこの異常は生じなかった.以上の結果は,CRPS type 1における免疫学的機序の関与を示唆するものである.しかし,一流雑誌にアクセプトされた論文ではあるものの,あくまでも参考程度に考えたほうがよさそうだ.というのは①本症例が本当にCRPS type 1かの検証が不明,②かりにCRPS type 1であったとしても,CRPS type 1がheterogeneousな疾患である可能性がある,③CRPS type 1にIVIgが有効であったという症例はPubMed MeSH検索してもほかに見つからない(論文ではchronic painに有効であったIVIgの1例を引用している).plasma exchange有効例の報告もない,④受動免疫でdisease transferが可能であったとしても,わずか1例のみの検討であり多数例の血清での検討が必要である.いずれにしても今後の検証が非常に重要である.もしこの論文が本当であれば,難攻不落と思われたCRPS type 1の一部ではIVIgやplasma exchangeが今後,積極的に行われることになるであろう.
Ann Neurol 57; 463-464, 2005
今回,Oxfordのグループより興味深い症例が報告された.この症例はCRPS type1の女性で,IVIg施行後6週間にわたり疼痛の減少と自律神経症状の改善を認めた(3回のIVIgを行い,そのたび有効であった).免疫学的機序の関与が疑われたため,各IVIg施行前に採血し,患者血清(IgG分画,および非IgG分画)を精製,C57B16マウスに2-5日間注射した.対照のマウスには健常者血清(IgG分画,非IgG分画)を注射した.この結果,独立した3回の実験で(計60マウス),施行2日後までに患者血清を注射したマウス群において開放探索(open-field exploration)における明らかな行動異常(これはげっ歯類では痛みを反映するらしい),およびrearing(立ち上がり)の減少を認めた(p<0.001).非IgG分画注射群ではこの異常は生じなかった.以上の結果は,CRPS type 1における免疫学的機序の関与を示唆するものである.しかし,一流雑誌にアクセプトされた論文ではあるものの,あくまでも参考程度に考えたほうがよさそうだ.というのは①本症例が本当にCRPS type 1かの検証が不明,②かりにCRPS type 1であったとしても,CRPS type 1がheterogeneousな疾患である可能性がある,③CRPS type 1にIVIgが有効であったという症例はPubMed MeSH検索してもほかに見つからない(論文ではchronic painに有効であったIVIgの1例を引用している).plasma exchange有効例の報告もない,④受動免疫でdisease transferが可能であったとしても,わずか1例のみの検討であり多数例の血清での検討が必要である.いずれにしても今後の検証が非常に重要である.もしこの論文が本当であれば,難攻不落と思われたCRPS type 1の一部ではIVIgやplasma exchangeが今後,積極的に行われることになるであろう.
Ann Neurol 57; 463-464, 2005
