Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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抗MuSK抗体陽性重症筋無力症の神経筋接合部所見

2005年02月03日 | 重症筋無力症
 抗AchR抗体陽性の重症筋無力症(MG)は,神経筋接合部の後シナプス膜に局在するアセチルコリン受容体(AChR)に対する自己抗体が,補体介在性にAChRを破壊するために生じる.一方,全身型MGの約20%で抗AchR抗体陰性のMG(seronegative MG)が存在する.2001年,Hochらは運動終板に存在するmuscle-specific tyrosine kinase; MuSKを標的抗原と考え抗体測定を行い,seronegative MGの70%で抗MuSK抗体が検出されたと報告した(Nat Med 7; 365-368, 2001).その後,追試が行われ,報告により異なるが,seronegative MGの20-70%において抗MuSK抗体が陽性になると言われている.しかしその病態機序については今なお不明である.
 今回,長崎大などの研究グループから,抗MuSK抗体陽性MGの神経筋接合部所見が報告された.30例のseronegative MGのうち10名が抗MuSK抗体陽性MGで(やはり全例女性!),発症年齢は22から60歳(中央値41.7歳).これらの症例に対し上腕二頭筋から筋生検を行い,運動終板を観察し,抗AchR抗体陽性MG 42名の所見と比較した.この結果,抗MuSK抗体陽性MGにおいてAchR密度の減少は認められず,補体活性化(C3)の所見も8例中2例で認めたのみであった.また電顕で観察した後シナプス膜密度も保たれていた.
 以上の結果は,抗MuSK抗体陽性MGにおいては,神経筋接合部の破壊が病因ではないことを示唆する.本疾患では血漿交換が有効であることから,抗MuSK抗体を含む何らかの自己抗体が病態に関与するものと思われるが,もしかしたらkey moleculeは神経筋接合部よりも下流に存在するのではないかと著者らは考察している.

Ann Neurol 57; 289-293, 2005

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パーキンソン病では血液脳関門に障害がある

2005年02月02日 | パーキンソン病
孤発性パーキンソン病(PD)発症の危険因子として殺虫剤が知られている.とくにMPTPに類似した化学構造を持つ殺虫剤はPDの発症に関与している可能性がある.しかし殺虫剤に曝露したヒトがすべてPDを発症するわけでなく,殺虫剤による神経変性を起こしやすい遺伝的背景が存在する可能性が高い.
MDR1遺伝子によりコードされるP-glycoproteinはABC transporterのひとつで,ATPase活性によりATPを加水分解し,この結果産生したエネルギーを利用して薬剤を細胞の中から外へ輸送する.P-glycoproteinは癌細胞に発現して多くの抗癌剤を細胞外へ排出することによって,癌細胞を薬剤耐性にすることで有名である.しかし癌以外の正常細胞,例えば脳血管内皮細胞にも発現し,脳から血液中に物質を輸送することで血液脳関門の機能を保つ働きも有する.PDにおいてはMDR1遺伝子の3435T多型を有すると,5倍,殺虫剤への曝露が増強するとの報告がある.
今回,オランダから,PDにおけるP-glycoproteinの機能をin vivoにて検討した研究が報告された.このグループはすでに,[11C]-verapamilをプローブとしたPETが,P-glycoproteinの機能評価に有用であることを報告している.対象は孤発性PD5名と対象5名.結果として,PD群では[11C]-verapamilの中脳における取り込み率が対象と比較し18%上昇していることを示した.
本研究は,血液脳関門の障害がPD発症に関与している可能性を初めて示したものであり,重要な報告である.今後,症例数を増やす必要はあるが,P-glycoproteinの機能を増強させることが予防や治療につながる可能性がある(何とグレープフルーツにはP-glycoprotein機能の増強作用がある).また,PD以外の孤発性神経変性疾患ではどのような結果が得られるのか興味深い.

Ann Neurol 57; 176-179, 2005

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どの抗てんかん薬が骨粗しょう症を引き起こすか?

2005年02月01日 | てんかん
 抗てんかん薬(AEDs)のなかでもcytochrome P450を誘導する薬剤(carbamazepine;CBZ,phenobarbital,phenytoin;PHT)は骨代謝に障害を及ぼすと言われている.しかし,近年,cytochrome P450に対し阻害作用を持つvalproate;VPAも骨代謝に障害を来たすという報告が散見される.一方,lamotrigine; LTG(商品名Lamictal;日本未承認.部分発作の治療の補助薬として使用されるが,躁うつ病にも有効である可能性がある)のような新しい薬剤については骨代謝への影響は検討されていない.
 今回,コロンビア大およびスタンフォード大の共同研究により,AEDsが骨代謝に及ぼす影響を閉経前の女性を対象として行った.対象は93名の閉経前の女性で(18歳~40歳),いずれもAEDs単剤(PHT 19名,CBZ 37名,VPA 18名,LTG 19名)を最低6ヶ月以上内服している者とした.方法としては,血清Ca,25(OH)D,PTH,IGF-I,IGFBP-3,骨型ALP,osteocalcin(骨形成マーカー),および尿N-telopeptide of type I bone collagen (NTX;骨吸収マーカー)を測定した.ちなみにIGFは骨芽細胞にて産生され細胞増殖因子として作用する(オートクライン・バラクライン的に骨細胞の増殖や活性を制御しているらしい).   
結果として,血清CaはLTG群と比較し,PHT群,CBZ 群,VPA 群では有意に低下していた(p=0.008).IGF-IはLTG群と比較し,PHT群で有意に低下していた(p=0.017).骨型ALPはVPA群,LTG群と比較しPHT群で有意に上昇していた(p=0.007).以上の結果は,PHTは骨代謝に影響を与え,bone turnoverを促進することを意味する.CBZ 群,VPA 群でも血清Ca値の低下が見られたことは,長期内服により骨密度減少をきたす可能性を示唆する.LTGはこれらの薬剤の中では骨に影響を及ぼしにくいものと考えられた.
以上より,AEDsを内服している場合は,単剤投与であっても,定期的に骨密度の測定などを行い,骨粗しょう症の発症・増悪を防ぐ必要がある.

Ann Neurol 57; 252-257, 2005 

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