Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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若年発症脳梗塞の長期予後に影響する因子(その2)

2005年01月18日 | 脳血管障害
 1月14日にも取り上げた話題だが,同様のテーマについてスイスからprospective studyが報告された.対象は203例の若年発症脳梗塞(16~45歳と定義;全患者1809例中の11%に相当する).脳梗塞の重症度はNIHSS,病型分類はBamford分類,予後評価はmodified Rankin Scaleを用いて評価した(良好;score 0-1;不良score 2-6と定義).
 結果として,病型頻度はatherosclerotic large artery disease (4%),cardioembolism (24%),small vessel disease (9%),another determined etiology (30%),undetermined etiology (33%)であった.another determined etiologyの内訳としては,頚部動脈解離がその8割を占め,圧倒的に多い.あとはいずれも少数で,片頭痛に伴う梗塞,血小板増多症,Factor V Leiden欠損症,心カテ合併症,SLE,コカイン常用,Protein C欠損症,Fabry病,子癇と続く.また発症3ヵ月後の予後評価では良好68%,不良29%,死亡3%であった.平均26ヶ月の経過観察期間において15例に再発(うち2例は死亡)と6例のTIAが認められた.年再発率は3.0%で,TIAも含めると5.9%であった(この結果は高齢者の再発率よりは低い).予後不良(梗塞による死亡も含む)の予後因子としてはNIHSS score高値(p<0.0001),total anterior circulation stroke(p=0.011),DM(p=0.023)の3つが挙げられた.TIA発作の既往は再発と相関を認めた(p=0.02).結果的にはとくに驚くべきデータはないが,前回,取り上げたスペインの報告より研究デザインの上で優れている.また,TIAが脳梗塞再発の予測因子であることは常識ではあるが,45歳以下の若年発症脳梗塞においても当てはまることを示した最初の論文でもある.
JNNP 76; 191-195, 2005

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高血糖性半側舞踏病の病態 ―FDG-PET study―

2005年01月17日 | 舞踏病
 高血糖性半側舞踏病はコントロール不良の糖尿病を有する高齢者,とくにアジア系の人種に多く報告されている.半側舞踏病以外にもhemichoreaを呈することがある.MRIでは不随意運動の反対側の基底核における可逆性T1WI high-intensityの所見が特徴的である.特徴的な臨床症状,および画像所見に関わらず,その病態機序については十分解明されていない.可能性として病変部位の糖代謝障害,血流障害,出血,Mn蓄積等が考えられるが,これまで報告された2例の剖検報告では病変部位における反応性アストロサイトを共通して認めるのみで,病変部位に一致した梗塞や出血は認めていない.
 今回,台湾より高血糖性半側舞踏病を呈した3症例のFDG-PET studyおよびHMPAO-SPECT(2例)の結果が報告された.FDG-PET studyは発症後,3週,5週,7ヵ月後に施行され,全例で病変側基底核における著明な糖代謝低下が確認された.また発症後18日,発症翌日に行われたHMPAO-SPECTでは血流増加が確認された.これまでSPECTについては若干の報告があるが,病初期には増加,その後,低下するといった報告が多い.以上の結果を考え合わせると高血糖性半側舞踏病は単純な脳虚血によって生じるのではなく,病変側基底核におけるvascular insufficiencyと糖代謝不全の両者が病態機序に関与する可能性が示唆される.いずれにしても本報告は高血糖性半側舞踏病における病変部位の糖代謝不全を直接証明した初めての報告であり,その意義は大きいものと思われる.

J Neurol 251; 1486-1490, 2005

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難治性多発性硬化症に対するインターフェロンβとCTXの併用療法の長期的効果

2005年01月16日 | 脱髄疾患
IFN-βが再発予防に無効であるMS症例は確かに存在し,本邦のようにglatiramer acetateなどの代替薬が使用できない場合,その治療は大変困難なものになる.IFN-β無効症例に対しどのように再発予防を行うかは臨床上,非常に大きな課題と言える.
 今回,イタリアからIFN-βとcyclophosphamide(CTX)monthly pulse療法の長期効果についての報告がなされた.このグループはすでにその併用療法中の効果を報告しているが(JNNP 71; 404-407, 2001),今回はCTX monthly pulseの中止後の臨床経過についての追跡調査である(open-label follow-up study).対象はIFN-βが無効であった10名のrapidly transitional form MS(clinically definite MSで,かつ重症,頻回の再発,急速進行性の機能障害を呈する症例と定義).平均罹病期間は7.6年.治療方法は,通常量のIFN-βに加え,CTX monthly pulse(500-1500mg/m2 i.v.)を12ヶ月間行った.治療終了後は通常量のIFN-β単独療法に戻し,以後,36ヶ月間の経過観察を行った.項目は神経所見,EDSS,brain MRI T2WI,副作用とし,①併用療法開始前12ヶ月(IFN-β単独),②併用療法中12ヶ月,③終了後(IFN-β単独)36ヶ月を比較した.結果として③の年再発率は0.13と著明に低下したままであり(①vs③;p<0.001),②とほぼ同等.EDSS,MRI所見でも改善効果は併用療法中止後も持続した(それぞれ,p<0.001,p<0,01).副作用も1例で乳腺腫を認めた以外,重篤なものはなかった.本治療法は今後,症例数の蓄積とRCTが必要になるが,副作用が少ないため(ただし催奇形性については不明),今後,積極的に検討すべき治療法と言えよう. J Neurol 251; 1502-1506, 2005 

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視床下部腫瘍に合併した過眠症 ~Asterexisと脱力発作の関係~

2005年01月15日 | 睡眠に伴う疾患
本邦からの症候性ナルコレプシーの報告.66歳女性が1ヶ月の経過で過眠症状,意識障害を伴わない突然の転倒を呈した.突然の転倒は夜間に生じ,本人の話では突然,下肢の力が抜けると言う.幻視を認めるものの入眠時幻覚ではなく,睡眠麻痺もなし.MMSEは21点で軽度低下.手指にはasterexis(negative myoclonus)を認めた.内分泌検査で視床下部ホルモンの低下が見られ,髄液では軽度の蛋白増加,細胞増加,さらにorexin A(hypocretin)値の低下(62pg/ml;健常280±33 pg/ml)を認めた.MRIでは視床下部,視床,中脳に及ぶGd造影効果を伴う脳腫瘍を認めた.PSGでは睡眠潜時は5分,REM期開始は11分であった(一般に入眠後10分以内にREM期が生じる場合をSleep-onset REM; SOREMと呼ぶので,ほぼ基準を満たす).治療として放射線療法,アリキル化剤,IFN-betaを併用し,認知機能は改善(MMSEは28点),また過眠症状,転倒,asterexisはいずれも消失した.
 本症例は,症候性ナルコレプシーにおけるorexin A値の低下は本態性ナルコレプシーと比較し軽度であり,かつ必ずしも典型的な症状(カタプレキシー,睡眠発作,入眠時幻覚,睡眠麻痺)が揃わないという従来の報告に合致するものであった.本症例で興味深い点はdrop attackに加えasterexisが生じ,治療により消失した点である.これに関連し,従来よりasterexisはdrop attackの上肢型であるとする説がある(Ann Neurol 6; 362-364, 1979).本症例はこの説を裏付けるものになるのかもしれない.

J Neurol 251; 1534-1535, 2005

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若年発症脳梗塞の長期予後に影響する因子

2005年01月14日 | 脳血管障害
若年発症脳梗塞の長期予後に関してはこれまでほとんど報告がない.今回,スペインから27年間,272例の若年発症脳梗塞(45歳未満の発症と定義;脳梗塞の原因は極めて多彩)の予後調査の結果が報告された(retrospective study).年齢は初回脳梗塞発症時15-45歳,うち9名(3%)は初回脳梗塞ですでに死亡, 23名(8%)が調査不能であり,残り240名に関して予後調査を施行(カルテないし電話によるinterviewにて調査).うち210名が生存し(88%;経過観察期間12.3年),30名が死亡(12%).平均死亡率は年1.4%だが,初年後は4.9%と高率で,以降は0.9%と低下する(より高齢の症例と比較すると生命予後は良好だが,同年代の健常者と比較するとかなり不良である)また,経過観察できた症例のうち90%はADL自立(しかし47%は仕事復帰不可能).再発は初年度3.6%で,以降は1.7%に減少する.予後不良因子は,35歳以上,男性,心血管系危険因子(AF, DM, 高脂血症,喫煙)の存在,large artery atherosclerosisの存在であった.
 以上の結果は若年発症でも動脈硬化性の要因が強い場合には予後が不良であること,ならびに初回脳梗塞後の死亡と再発が高率であることから,初回梗塞後は,より厳重な管理が必要であることを示唆する.

J Neurol 251; 1507-1514, 2004

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若年性一側上肢筋萎縮症(平山病)の遺伝的要因

2005年01月13日 | その他
若年性一側上肢筋萎縮症(いわゆる平山病)は,①若年男子における発症,②一側または両側上肢(手と前腕)の筋萎縮・筋力低下,③寒冷時の手のかじかみ,④手指伸展時の振戦,⑤数年間は進行するものの,以後,自然に停止する経過などが特徴である.脊髄造影検査にて,頚部を前方に曲げた時に硬膜管が前方につぶれる所見が特徴的で,この硬膜管の前方移動による脊髄圧迫(脊髄運動ニューロンの圧迫)が病態機序として重要と考えられている.一方,本疾患は民族特異的な発症が指摘されており(日本における報告が主.しかし米,仏,蘭,デンマークなどの報告例もある),さらに同胞発症例も報告されていることから(Arch Neurol. 54:46-50,1994および本論文)その発症に何らかの遺伝的背景が関与している可能性も考えられる.
 一方,脊髄前角細胞の変性脱落に伴い,体幹・四肢近位部優位の筋力低下・萎縮を生じる疾患として脊髄性筋萎縮症 (SMA)が有名である.近年,SMAの原因遺伝子としてSMN1遺伝子が同定され(5q11.2-13.3),病型とは無関係に90%以上の患者においてこの遺伝子が欠失していることが判明した.また相同遺伝子であるSMN2遺伝子のコピー数が病型と関連していることも報告されている(ちなみにSMN1遺伝子は完全長mRNAを産生するのに対しが, SMN2遺伝子の多くはexon 7がスキッピングしたmRNAを産生している).
 今回,インドより平山病14家系15例についてcase seriesが報告された.全例男性であり,兄弟例が1組認められた.臨床的所見に関しては従来の報告ととくに相違を認めないが,全例でSMN1およびSMN2遺伝子の欠失の有無が検討され,全例でSMN遺伝子の欠失を認めなかった.以上の結果は平山病がSMAと同じ遺伝的背景を持つ疾患でないことを示唆する.しかし本疾患が全例男児に発症すること,兄弟発症例が存在することを考えるとX染色体上の遺伝子が関与している可能性も否定できないと考えられる.

Arch Neurol 62; 120-123, 2005

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MRSA伝播を防ぐための感染者の隔離はムダ?

2005年01月12日 | 感染症
メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)による院内感染の拡大防止のために,従来,MRSA感染者を隔離してきた.しかし,その隔離がほかの医療行為 (例えば手洗いの励行など)の有用性を凌駕するほどに効果的であるかは不明であった.今回,イギリスの2つの病院において,ICUにおけるMRSA患者の隔離が有用であるかどうかについて1年間をかけた検討が行われた(prospective study).方法は,1年間の最初の3ヶ月と最後の3ヶ月はMRSA感染者を隔離し(A群),あいだの6ヶ月間は感染者を隔離せず(B群),両群の2次感染の割合を比較した.いずれの期間も基本的な感染予防策(手洗い励行など)は実施した.
結果として,A群では患者数443人,うち92人が入院時MRSA陽性,その後54人がMRSAに感染した.一方,B群では患者数423人,うち76人が入院時MRSA陽性,その後42人が感染した.患者背景は両群間で同程度,さらに両群間でMRSA 2次感染者数に有意差を認めなかった(粗Cox比例ハザードモデル).すなわち,MRSA陽性患者を個室・感染病室へ移動してもcross infectionは減少されなかったという結論である.それどころか,MRSA感染を理由にICUを退室せざるを得なかった患者が被ったdemeritはきわめて大きいと言わざるを得ない.これまでMRSA感染者のみならず保菌者に対しても個室への移動・隔離をお願いしてきた経験は一体,何であったのだろうか?いずれにしても非常に重要なテーマであり,他施設での検証の結果が待たれる.

Lancet 365;2005 (published online Jan 7)

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片頭痛治療薬Sumatriptanに伴う脳血管攣縮

2005年01月11日 | 頭痛や痛み
突然の片麻痺,左半側空間無視にて発症した43歳女性についての症例報告.この症例は慢性頭痛の既往があり,過去6ヶ月間,sumatriptanを25 mg内服していた.発症時MRI拡散強調画像では右MCA領域に限局した異常信号を認め,血管造影検査では鞍上部内頸動脈およびACA,MCA,脳底動脈にびまん性両側性血管攣縮を認めた.髄液は正常.Sumatriptanが血管攣縮を引き起こした可能性を疑い,内服を中止,発症7日後に行った血管造影で顕著な改善を認めた.
脳血管攣縮を原因とする脳梗塞(いわゆるcerebral vasoconstriction syndrome)は,一般に塞栓源が見つからない場合,動脈硬化やその危険因子を認めない場合,若年発症である場合,脳血管炎の合併が考えにくい場合,発症後速やかな改善を認めた場合などに疑うべきである.血管収縮作用のある薬剤が原因となるほか,片頭痛自体や妊娠・産褥,さらにCa拮抗薬が有効とされるCall-Fleming syndrome(いわゆる可逆性分節性脳血管収縮;Cephalalgia 2003;23:218)も原因となる.しかし診断には急性期における血管造影が必要で,かつ器質的変化を常に認めるわけではないため,実際にはその診断は難しい.事実,本例のように脳血管攣縮にsumatriptanが関与したと考えられる症例報告は検索した限り3例ほどであり,その因果関係の証明も困難と言えよう(一方,冠動脈攣縮の報告は複数ある).Cerebral vasoconstriction syndromeは少なからず存在する可能性も指摘されており,原因不明の脳梗塞では,内服薬および片頭痛,妊娠の有無を確認の上,積極的に血管造影を検討すべきであろう.

Neurology 63; 2128, 2004

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