Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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リルゾールが小脳失調に有効らしい

2010年06月27日 | 脊髄小脳変性症
 リルゾールはグルタミン酸による興奮性神経毒性を抑え,神経細胞を保護する作用を持つ薬剤として,ALSに対し臨床応用されている.このリルゾールが小脳失調に有効であるというランダム化比較試験(RCT)がNuerology誌に報告されている(イタリアからの報告).

 対象は異なる原因により小脳失調を呈した40名の症例.実薬群はリルゾール100mg(ALSにおける処方と同じ用量)とし,8週間内服を継続した.アウトカムは以下の3つの項目で評価した.①ICARSによる評価で5点以上改善が見られた症例の割合(4週及び8週で評価),②8週間におけるICARSの点数の改善(総点数と副次項目の点数),③副作用.

 結果としては,①については,4週の時点でICARSが5点以上改善した症例の割合は,実薬群,偽薬群でそれぞれ9/19 vs 1/19.つまりオッズ比を計算すると9/10÷1/18=16.2(95% 信頼区間は1.8-147.1).8週ではそれぞれ13/19 vs 1/19で,オッズ比=13/6÷1/18=39.0(95% 信頼区間は4.2-364.2).②については,総点数は実薬群,偽薬群それぞれ-7.05 vs 0.16,ICARSの4つの副次項目についても,静的機能は-2.11 vs 0.68,動的機能は-4.11 vs 0.37,構音障害は-0.74 vs 0.05で,有意に実薬群で改善が見られた.③の副作用は,散発的で軽度なもののみであった.

 本研究はよくデザインされたRCTであり,エビデンスレベルはClass Iである.リスク差(すなわちabsolute risk reduction; ARR)を8週目のデータを用いて計算してみると,13/19-1/19=12/19=63.2%となる.これよりNNT(number needed to treat),すなわち,「あるエンドポイントに到達する患者を1人減らすために何人の患者の治療を必要とするかを表す指標」を求めると,NNTはARRの逆数になるので,19/12=1.58となる.つまり1.58人リルゾールで治療すれば1人はICARSで少なくとも5点改善するという・・・・驚愕の結果だ.

 研究デザインは良く考えられていると思う.ただ,対象が非常に多岐に渡っている点が考えさせられる.具体的にはMSA,SCA1, 2, 28, フリードライヒ失調症,FXTASに加え,抗GAD抗体や抗Yo抗体陽性例,多発性硬化症,原因不明の失調症まで含まれている.各疾患の病態機序を無視した非常に乱暴な研究と思える反面,「これらの疾患では共通してプルキンエ細胞が障害され,プルキンエ細胞による抑制が作用しなくなった小脳核の神経細胞が過興奮の状態に陥る.だから,興奮性神経毒性を抑制するリルゾールは共通して有効なはずだ」という仮説を証明するために,原因がばらばらな症例を集めたと言っている.一網打尽を目指したすごい作戦である.その他には,8週間という短い期間の検討である点や,同じ疾患を多数例集めても本当に有効であるか,疾患ごとに効果の差はないのかといった問題もあるが,入念に病態機序を考えて動物モデルを作ってもなかなか臨床応用につながっていない現状を考えると期待をしたくなるアプローチである.さらに,少ない症例数でもアイデアによってはこのような臨床研究が可能であることを教えてもらった点で印象に残った論文だ.

Neurology 74:839-845, 2010
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