アルツハイマー病(AD)において脳内に蓄積するアミロイドβがなぜ最終的に認知症を来すのかいくつかの仮説はあるもののよく分かっていませんでした.非常に興味深い研究がスタンフォード大学からScience誌に報告されました.この研究では,記憶を司る海馬におけるグルコース代謝に注目しました.具体的には,インドールアミン-2,3-ジオキシゲナーゼ1(IDO1)という酵素に着目しています.IDO1はトリプトファン(TRP)をキヌレニン(KYN)に変換する際の律速酵素です.このKYNはアリールハイドロカーボン受容体(AhR)との相互作用を通じて,炎症や腫瘍において免疫抑制を引き起こす代謝物だそうですが,同時に「アストロサイトにおける糖代謝を抑制する作用」があります.アストロサイトは通常,解糖系により,ニューロンにエネルギーを供給するための乳酸を生成し,ニューロンのシナプス活動を支えていますが,KYNがこれを抑制してしまうことを示しています.
研究ではまずマウスおよびヒトiPSC由来のアストロサイトを用いて,アミロイドβやタウオリゴマーがアストロサイトのIDO1を活性化し,KYNの生成を増加させることで解糖系と乳酸生成を抑制し,ニューロンへのエネルギー供給が妨げられることが示しています.
アミロイドβ・タウ → アストロサイトのIDO1↑ → KYN↑ → 解糖系(乳酸)↓ → ニューロンへのエネルギー供給↓
つぎにこの系においてIDO1阻害剤がこれらのプロセスを回復することを示しています.さらにマウスモデルを用いて,IDO1を阻害することで,海馬のグルコース代謝が改善され,ニューロンへのエネルギー供給が増加し,その結果,長期増強(LTP)と呼ばれるシナプス可塑性が回復することを示しています.LTPは学習や記憶の基盤となる神経回路の強化を意味します.
図左は,健常な状態において,アストロサイトが解糖系を通じて乳酸を生成し,それをニューロンに供給することで,ニューロンのミトコンドリア呼吸とシナプス伝達がうまくいく様子を示しています.図中央はADで,アミロイドβやタウオリゴマーがアストロサイトのIDO1を活性化し,KYNの生成が増加し,AhRを介して解糖系を抑制し,乳酸が減少することを示しています.図右では,ADでもIDO1阻害剤によってKYNの生成が抑えられ,アストロサイトの解糖系が正常化し,ニューロンへの乳酸供給が回復する様子を示しています.
そうなると気になるのは臨床応用できるIDO1阻害剤があるかですが,現在がん治療薬として開発されている「PF06840003」という薬剤があるそうです.この薬剤がAD治療にrepositioningできる可能性があります.またAD以外の神経変性疾患でも栄養療法の有用性が報告されていますが,その背景にあるエネルギー障害に対してIDO1をターゲットとした治療戦略が有効であるかもしれません.今後,研究が拡大する可能性を感じました.
Minhas PS, et al. Restoring hippocampal glucose metabolism rescues cognition across Alzheimer's disease pathologies. Science. 2024 Aug 23;385(6711):eabm6131.(doi.org/10.1126/science.abm6131)
研究ではまずマウスおよびヒトiPSC由来のアストロサイトを用いて,アミロイドβやタウオリゴマーがアストロサイトのIDO1を活性化し,KYNの生成を増加させることで解糖系と乳酸生成を抑制し,ニューロンへのエネルギー供給が妨げられることが示しています.
アミロイドβ・タウ → アストロサイトのIDO1↑ → KYN↑ → 解糖系(乳酸)↓ → ニューロンへのエネルギー供給↓
つぎにこの系においてIDO1阻害剤がこれらのプロセスを回復することを示しています.さらにマウスモデルを用いて,IDO1を阻害することで,海馬のグルコース代謝が改善され,ニューロンへのエネルギー供給が増加し,その結果,長期増強(LTP)と呼ばれるシナプス可塑性が回復することを示しています.LTPは学習や記憶の基盤となる神経回路の強化を意味します.
図左は,健常な状態において,アストロサイトが解糖系を通じて乳酸を生成し,それをニューロンに供給することで,ニューロンのミトコンドリア呼吸とシナプス伝達がうまくいく様子を示しています.図中央はADで,アミロイドβやタウオリゴマーがアストロサイトのIDO1を活性化し,KYNの生成が増加し,AhRを介して解糖系を抑制し,乳酸が減少することを示しています.図右では,ADでもIDO1阻害剤によってKYNの生成が抑えられ,アストロサイトの解糖系が正常化し,ニューロンへの乳酸供給が回復する様子を示しています.
そうなると気になるのは臨床応用できるIDO1阻害剤があるかですが,現在がん治療薬として開発されている「PF06840003」という薬剤があるそうです.この薬剤がAD治療にrepositioningできる可能性があります.またAD以外の神経変性疾患でも栄養療法の有用性が報告されていますが,その背景にあるエネルギー障害に対してIDO1をターゲットとした治療戦略が有効であるかもしれません.今後,研究が拡大する可能性を感じました.
Minhas PS, et al. Restoring hippocampal glucose metabolism rescues cognition across Alzheimer's disease pathologies. Science. 2024 Aug 23;385(6711):eabm6131.(doi.org/10.1126/science.abm6131)