Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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新型コロナウイルス感染症COVID-19:最新エビデンスの紹介(8月28日)~高齢者における認知症,未成年におけるブレインフォグ・てんかんの危険因子としてのCOVID-19~  

2022年08月28日 | COVID-19
今回のキーワードは,128万人のデータから示されたCOVID-19にともなう精神・神経症状のリスクの経時変化,2年経過してもブレインフォグ,認知症,てんかん・痙攣発作のリスクは上昇している,未成年でもブレインフォグを認め,とくにてんかん・痙攣発作のリスクが高い,認知症,てんかん・痙攣発作を呈した高齢者の死亡率は高い,オミクロン株では死亡率は低いが神経・精神症状による医療への負担は持続する,です.

Lancet Psychiatry 誌に重要な論文が発表されましたので,今回はその論文を詳しくご紹介します.Long COVIDの神経・精神症状について3つの疑問がありました.
①各症状のリスクはいつまで続くのか?
②年齢によって違いはあるのか?
③ウイルス株によって違いはあるのか?
これらについて128万人もの電子カルテデータを用いた国際研究により重要な知見が得られました.インフルエンザなど他の呼吸器感染との比較のデータですので,COVID-19がインフルエンザなどとまったく違う病気であることが一目瞭然です.

残念なのは日本人のデータが含まれていないことです.米国,オーストラリア,英国,インド,マレーシア,台湾などのデータであり,医療のデジタル化が遅れた我が国は相変わらず蚊帳の外です.医療機関の間でデータを交換できる電子健康記録(MHR)の整備は国家の喫緊の課題です.国家が科学的な戦略を持ってコロナに立ち向かうべきですが,全例把握をするか否かさえ自治体に任せて責任を放棄したかのような状態です.外国を真似てウィズコロナ政策を進めていますが,日本は海外と高齢化率も医療制度もまったく異なるため,高齢者の死亡が増加し,医療が破綻するという予測は難しくはないと思います.さらにこの論文を読めば日本でも感染者増加の社会への影響が今後危惧されることが分かります.実際,米国ではコロナ後遺症で最大400万人が働けていないことが最近CNNで報道されていました.科学を尊重し,十分に議論をして,この難敵と戦う必要があります.

◆ 128万人のデータから示されたCOVID-19にともなう精神・神経症状のリスクの経時変化

方法:2年間の後方視的コホート研究で,国際的なTriNetX電子医療記録ネットワークのデータを使用した.期間は2020年1月から2022年4月,COVID-19群と,他の呼吸器感染症の患者群を同数,傾向スコアマッチングさせた.18 歳未満[未成年],18~64 歳[成人],65 歳以上[高齢者]の3群に分けた.COVID-19患者128万4437人を特定した(未成年18万5748人,成人85万6588人,高齢者24万2101人;女性57.8%).2年間のリスクは,時間的に変化するハザード比(HR)で表した.

結果:
【2年経過してもブレインフォグ,認知症,てんかん・痙攣発作のリスクは上昇している】
全年齢の検討で,COVID-19と他の呼吸器感染症の比較をすると,神経・精神症状のリスクの経時変化は大きく異なっていた.多くの症状は6 ヵ月後にHR が 1 よりも有意に大きくなったが(つまり他の呼吸器感染症よりリスクが高い),HR1に至る期間は大きく異なっていた.例えば気分障害(うつ)は43日でHRが1になり,その増加は一過性であるのに対し,ブレインフォグ,認知症,てんかん・痙攣発作,精神病性障害のリスクは,2年間の追跡期間終了時点でも上昇し,リスクは終始持続した(図1).以上より,COVID-19ではインフルエンザなどの呼吸器感染症と違って最初の 6 ヶ月間で,様々な神経・精神症状リスクが増加するというこれまでの知見が確認されるとともに,早期に消失する気分・不安障害のようなものと,2 年間終始持続する認知症などがあり,異なる病態を反映するものと推測された.



【未成年でもブレインフォグを認め,とくにてんかん・痙攣発作のリスクが高い】
COVID-19後のリスクの経時変化は,成人と小児では異なっていた.65歳以上の高齢者では,感染後6カ月間のブレインフォグ,認知症,神経筋接合部・筋疾患,精神疾患のHRは高く,1.41,1.41,1.82,1.39であった(図2).てんかん・痙攣発作,不眠,脳出血,脳梗塞,うつ,パーキンソニズム,のHRは1.17,1.16,1.15,1,11.1.17,1.16であった.



一方,小児は気分障害や不安のリスクの増加はなかったが(HR 1.02と1.00),ブレインフォグのリスクは増加した(1.20)(図3).ただし成人と異なり,75日でHRは1となった.また不眠症1.29,脳出血2.16,脳梗塞1.89,神経・神経根・神経叢障害1.39,精神病性障害2.00,てんかん・痙攣発作1.44であった.以上より,小児は成人や高齢者に比べて全体的なリスクは低いものの,いくつかの症状のリスクは成人と同等で,とくにてんかん・痙攣発作のリスクは顕著であること,一過性ながらブレインフォグを呈することも認識する必要がある.



【認知症,てんかん・痙攣発作を呈した高齢者の死亡率は高い】
そして高齢者においては神経・精神症状を呈した患者のいずれのコホートでも死亡率が高く,とくに認知症,てんかん・痙攣発作と診断された高齢者では高かった(図4).



【オミクロン株では死亡率は低いが神経・精神症状による医療への負担は持続する】
米国人のデータの検討で,神経・精神症状のリスクはアルファ株が出現する前後でほぼ同等であった(各コホート4万7675人).デルタ株(4万4835名)では,脳梗塞,てんかん・痙攣発作,ブレインフォグ,不眠症,不安障害のリスクが増加し,死亡率も増加した.オミクロン株(3万9845名)では,死亡率は以前より低いが,神経・精神症状の経時変化はデルタ株とオミクロン株では類似しており(図5),オミクロン株は重症化しないものの,神経・精神症状による医療や医療制度への負担は持続する可能性が示唆された.



Taquet M, et al. Neurological and psychiatric risk trajectories after SARS-CoV-2 infection: an analysis of 2-year retrospective cohort studies including 1 284 437 patients. Lancet Psychiatry. 2022 Aug 17:S2215-0366(22)00260-7.(doi.org/10.1016/S2215-0366(22)00260-7)

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