Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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西ナイル熱髄膜脳炎のMRI所見

2005年10月07日 | 感染症
厚労省は米国(ロサンゼルスに1週間ほど滞在)から帰国した川崎市に住む男性が,西ナイル熱を発症したと発表した.幸い,症状は軽く,すでに回復しているそうだ.国内で患者が確認されたのは初めてであるが,西ナイル熱ウイルス(WNV)は人から人には伝播せず,人から蚊を介しての感染もないと言われており,厚労省は「この男性から感染が広がる恐れはない」としている.
西ナイル熱はアメリカでは今年,1804人が感染し,うち52人が死亡しているそうだ.このうち約3分の1がカリフォルニア州に集中している(現在,カリフォルニア州に滞在しているので怖い話だが,幸いなことに滅多に蚊を見かけない).
 西ナイル熱感染症は潜伏期間3-15日.WNVの混入血液を輸血されたひとが,輸血2日後に発病した症例も報告されている.臨床的には不顕性感染で終わる例が多いが,発症すると,急激な発熱を呈し,さらに頭痛・めまい・猩紅熱様発疹・リンパ節腫大などを呈する.第3~7日で解熱し,短期間で回復するが,問題となるのは。髄膜脳炎を合併するタイプである(高齢者に生じやすい).検査所見は,通常のウイルス性髄膜脳炎と同じ.診断は急性期血清からウイルスを直接分離するか,RT-PCR法でウイルスRNAを検出する.特異的IgM抗体の検出も有用である.
 さてWNV髄膜脳炎のMRI所見がCleveland clinicから報告されている.対象はWNV脳炎または脊髄炎と診断された患者(髄液特異的IgMないし剖検にて診断)で,23名中17名でMRIが施行された(retrospective study).うち脳炎を呈したのは16名で,11/16名で異常所見を認めた.8名は深部灰白質(基底核,視床,側頭葉内側;視床は両側性のケースもあり)ないし脳幹(橋被蓋,上小脳脚)の異常信号,2名ではこれに加え白質病変を認めた(白質脳症的びまん性病変も生じうる).脊髄MRIで異常を認めた3名はいずれも顕著な弛緩性麻痺を呈していた.病変は脊髄灰白質とくに前角に目立ち,造影効果は脊髄円錐ないし馬尾に認められた.
 以上の結果はWNV髄膜脳炎ではMRI異常を呈する頻度は少なくないが,とくに特異的な所見を呈するわけではないことを示唆している.現実的にはアメリカ滞在歴があり,かつ蚊に刺されたあと1週間程度の潜伏期を経た後,発熱にて発症した患者で,大脳深部灰白質,側頭葉内側,脳幹に異常信号を認めた場合には,WNV髄膜脳炎を鑑別診断に加えるということになるのではないか.

AJNR 26; 1986-1995, 2005
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