Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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ドパミンアゴニスト離脱症候群

2010年01月18日 | パーキンソン病
中脳ドパミン神経系は,黒質線条体系と中脳皮質辺縁系に分けられる.コカインやアンフェタミンのような中脳皮質辺縁系を刺激する薬剤では薬物依存や離脱症状が生じることが知られている.パーキンソン病に対するドパミン補充療法は,その運動症状を,黒質線条体系を刺激して改善するが,同時に中脳皮質辺縁系も刺激することになる.よって理論的にはドパミン作動薬による薬物依存や離脱症状が生じる可能性がある.

今回,ドパミンアゴニスト(DA)の減量が,一部のパーキンソン病患者において,離脱症状(Dopamine agonist withdrawal syndrome; DAWS)を引き起こしたという研究が,Weil Cornell Medical Collegeより報告された.このグループは,以前,DAに関連した衝動制御障害(impulse control disorder; ICD,病的賭博や衝動買い,性欲亢進を呈する)を報告したグループである.

対象は,運動・非運動症状を検討する目的でprospectiveに集めた認知症を伴わないパーキンソン病患者93名で,これら症例に対しretrospectiveにDAWSについての検討を行っている.DAWSの定義は,DAの減量の程度に依存して生じる,重度でステレオタイプな身体・精神的症状とし,さらにL-DOPAや他の抗パーキンソン剤による治療にて改善がなく,他の要因によっては説明できないものとした.

93名中,40名においてDAによる治療が行われ,うち26名においてDAの減量が行われた.このうち,5名(19%!)でDAWSが認められ,残りの症例には認めなかった.5名いずれの症例も,もともとDAに関連したICDを認めていた! DAWSの症状は,他の薬剤における離脱症状に類似しており,具体的には,不安,パニック発作,広場恐怖症(agoraphobia),うつ,気分変調(dysphoria),発汗(diaphoresis),疲労,疼痛,起立性低血圧,薬物渇望(drug craving)を呈した.DAWSを呈さない患者と比較すると,特徴として,症状発現時のDA内服量が多いこと(P=0.04),それまでのDA内服総量が多いこと(P=0.03)が挙げられた.DAWS症例群は,罹病期間やドパミン作動性薬剤の内服量が,非DAWS症例群とほぼ同じであるにもかかわらず,UPDRSが低値(すなわち軽症)であった(P=0.007).DAWS症状の程度は,減量の程度が大きいほど重症であった.またDAWS症状は,定義の通り,L-DOPAや他の抗パーキンソン剤には反応しないが,唯一,DAの再導入で軽減した.

本研究は実質,retrospective studyであり,症例数が少ないという問題点はあるものの,DAはステレオタイプな離脱症候群を一部の患者,具体的にはICDを来した症例において引き起こすということを初めて示した点で重要な研究である.個人的な経験では,DAを速やかに減量するケースとしては,①コントロールできない幻覚が生じた場合,②camptocormiaや首下がりといったbendingを来し,DAがその原因と考えられた場合,③DBS後,抗パーキンソン剤の減量が可能になった場合,が思いつくが,幸い,いずれにおいても,本研究のような離脱症状を経験したことがなく,確かに限られた症例におけることなのかもしれない(ただし,著者らはDBS後にはすみやかなDAの減量が行われるが,この時に出現する精神症状にもDAWSが関与する例がある可能性があると述べている).

ICD症例では,早めにそれに気づいてDAを減量中止しないと症状は増強し,増強してからやめようとしても今度は離脱症状が出現してしまう.離脱症状を緩和できるのはDAのみであり,患者は減量中止を嫌がり,このためDAをやめられず,ICDが増悪していくという悪循環が生じると著者らは述べている.このような悪循環を防ぐにはICDに早く気づき,そしてDAを早期のうちに中止することが重要である.

また著者らはこのようなICDやDAWSが先行し,運動症状が強くない症例を,黒質線条体系の障害より,中脳皮質辺縁系障害が先行した症例と考え,mesocorticolimbic variant of PDという概念を提唱した.非常に興味深く,たしかに信憑性があるような説に思える.いずれにしても今後,DAを減量する際,患者さんが「具合が悪くなった」と述べたとき,DA減量に伴い運動症状が増悪したのか,離脱症状が出現したことを言っているのか区別することが重要である.さらにDAWSは本当にICD症例のみで起こる現象であるのかも多数例で検討を行っていく必要がある.

Arch Neurol 67; 58-63, 2010
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