Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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脊髄硬膜動静脈瘻におけるmissing-piece sign

2019年01月06日 | 脳血管障害
脊髄硬膜動静脈瘻(spinal dural AV fistula;sDAVF)は,脊髄MRIにて病変が造影されるため,炎症性ないし腫瘍性ミエロパチーと誤診されることが少なからずある.このため診断が遅れて,回復のタイミングを逃すだけでなく,ステロイドが使用され,症状の増悪さえ引き起こすこともある.特徴的な画像所見として,T2強調画像における「曲がりくねったflow void(tortuous flow voids)」を認めれば,確定診断のための血管造影を行う根拠となるものの,認められないことも多い.もし造影MRI所見で本症に特徴的なパターンをみつけることができれば早期診断に役立つはずである.

以上を背景として,Mayo clinicにおいてsDAVF症例の画像所見の検討が行われた.対象は1997年からの20年で経験したsDAVF 80例のうち,治療前にMRIを撮像した51名を後方視的に検討した.対照群は他のミエロパチーと診断された144名とした.

結果であるが,sDAVF群では,髄内造影病変は44/51名 (86%)と高頻度に認められた.このうち19/44名(43%) で,縦長の造影病変のうち,少なくとも1 箇所,造影されない部位を認めた(missing-piece signと名付けた).この所見は対照群や,他の疾患(頚椎症性脊髄症,脊髄転移,脊髄腫瘍,多発性硬化症,視神経脊髄炎,MOG抗体関連脊髄炎,サルコイドーシス)では認められず,sDAVFに特異的所見と考えられた.ちなみにmissing-piece signを認めた19名の臨床像は,発症年齢は中央値67歳(27~80歳),15名が男性であった.11名(58%)が誤診されていた.tortuous flow voidsは 13/19名(68%)に認めた.

興味を持つのは,なぜこのような所見を呈するかである.sDAVFでは二次的に静脈圧が上昇するが,脊髄に内在する静脈系はどの部位も同じというわけでなく,おそらく造影欠損部位は隣接する部位よりも静脈の流出が良好な部位なのではないかと著者らは考察している.

結論として,「missing-piece sign」の同定は,診断確定のための血管造影までの期間を短縮させ,sDAVF患者の予後を改善する可能性がある.研究の問題点としては,後方視的研究であること,やや症例数が少ないこと,撮像プロトコールとタイミングが統一されていないことが挙げられだろう.ちなみに他のミエロパチーに特徴的な造影MRI所見として,下記が紹介されている.

多発性硬化症(均一ないしリング状)
視神経脊髄炎(リング様ないし斑状)
サルコイドーシス(中心管と脊髄後部の造影所見.trident sign)Neurology 2016;87, 743-4.
頚椎症性脊髄症(pancake sign)Neurology 2013;80, e229.
脊髄転移(rim and flame)

Zalewski NL et al. Unique Gadolinium Enhancement Pattern in Spinal Dural Arteriovenous Fistulas. JAMA Neurol. 2018;75:1542-5.


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