Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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新型コロナウイルス感染症COVID-19:最新エビデンスの紹介(7月17日)  

2021年07月17日 | 医学と医療
今回のキーワードは,Long COVID患者に対する運動療法は自律神経症状の安定を待って行う,Long COVID-19の呼吸困難と疲労の原因のひとつは横隔膜の収縮力低下である,重症片頭痛患者はロックダウンにより心理・社会的な影響を受けやすい,血清ニューロフィラメント軽鎖は入院患者の予後と相関する,レムデシビルはウイルスクリアランスにも効果はない,ジョンソン・エンド・ジョンソン社のCOVID-19ワクチンにギラン・バレー症候群の警告が加わった,COVID-19の感染しやすさや重症化と関連する13の遺伝子座が同定された,です.

Long COVIDに関する研究が少しずつ報告されています.Long COVIDは,急性期後COVID-19症候群(PASC)とか新型コロナウイルス感染症罹患後症候群(PACS)とかさまざまな名称で呼ばれていますが,急性期は発症4週まで,それ以降がこれらに相当します(図1).最近,long COVIDの自律神経症状に関する総説が報告されましたが,そのなかで「COVID-19が地震だとすれば,long COVIDは津波かもしれない」という文章が印象に残りました.Long COVIDの治療はまったくの手探りの状況です.適切な治療の開発には病態の解明が必要になりますがまだよく分かっていません.おそらくサイトカインストーム後の持続的神経炎症,自己免疫,自律神経障害などの複合的な病態が存在すると考えられています.



◆Long COVID患者に対する運動療法は自律神経症状の安定を待って行う.
Long COVID(もしくは新型コロナウイルス感染症罹患後症候群Post-Acute COVID-19 Syndrome;PACSなど)における自律神経障害に関する総説が報告された.診療ガイドラインはまだ策定されていないものの,すべての患者に自律神経障害の症状を問診することを推奨している.具体的には,よく知られる疲労,頭痛,認知機能障害(brain fog),呼吸困難といった症状に加えて,自律神経症状として,起立不耐症(起立後のふらつき,疲労感,頭痛など),動悸・頻脈,温度変化への不耐症,不安定な血圧,新たに発症した高血圧症,消化器症状(例:腹痛,腹部膨満感,吐き気)を確認すべきである.起立不耐症がある患者は,10分間の起立試験またはヘッドアップティルトテーブル試験を行い,体位性頻脈症候群(POTS)や起立性低血圧の有無を評価する必要がある.一部の学会で運動療法が推奨されているが,より多くのエビデンスが出てくるまでは注意が必要である.つまり多くの患者は身体活動後の倦怠感を認めるため,運動療法は心血管やその他の自律神経症状が安定してから,個々の状況に合わせて段階的に検討すべきである.
Auton Neurosci. Jul 3, 2021(doi.org/10.1016/j.autneu.2021.102841)

◆Long COVID-19の呼吸困難と疲労の原因のひとつは横隔膜の収縮力低下である.
Long COVID-19の症状のひとつに,持続的な呼吸困難と疲労がある.米国からの報告で,退院後リハビリテーション病院に入院した重症COVID-19生存者,連続21名のうち16名(76%)に横隔膜の構造ないし機能に関する少なくとも1つの超音波異常が認められた.またCOVID-19群では対照群と比較して,最大吸気時の横隔膜の厚さ/呼気終了時の厚さで表される横隔膜筋の収縮力が有意に低下していた(図2;p = 0.0004).この原因はおそらく複合的で,人工呼吸管理後の横隔膜機能不全,ICU症候群,critical illness myopathy,大量ステロイド曝露などが関係している可能性がある.しかし入院を必要としない軽症例における呼吸困難や疲労において横隔膜障害がどの程度関与しているのかは不明である.
Ann Clin Transl Neurol. Jul 11, 2021.(doi.org/10.1002/acn3.51416)



◆重症片頭痛患者はロックダウンにより心理・社会的な影響を受けやすい.
イタリアから,64名の片頭痛患者(反復性片頭痛32名,慢性片頭痛32名)と64名の健常対照者を対象にとして,COVID-19ロックダウン中の心理・社会的な影響について検討した症例対照横断研究が報告された.片頭痛患者はロックダウン後の数週間において,健常者と比較して孤独感が高く,社会的支援が少ないと報告した.孤独感は,頭痛が重症な患者でより顕著で,重症片頭痛患者は健常者より,ロックダウンに対して脆弱であった.社会における長期的な相互の関わりの減少は,精神的・身体的な支援を必要とする片頭痛患者には悪影響を及ぼす可能性がある.
Cephalalgia. July 13, 2021.(doi.org/10.1177/03331024211027568)

◆血清ニューロフィラメント軽鎖は入院患者の予後と相関する.
COVID-19による入院患者142名において,神経軸索障害マーカーである血清ニューロフィラメント軽鎖(NfL)が予後を予測できるかどうかを評価した研究が米国から報告された.COVID-19患者の血清NfLは健常対照者55名と比較して上昇していた(図3A, B).34%の患者は正常平均の3SDより上昇していた.35例の血清NfLの経時変化についても検討したが,経時的に上昇する症例や高値にとどまる症例が見られた(図3C).血清中のNfL濃度の上昇は,人工呼吸器管理やICU入室などの予後の悪化と関連していた.またレムデシビルを使用された被験者100名で血清NfLは減少する傾向が見られた.この結果から,COVID-19の治療試験を評価する際には,血清NfLの分析を取り入れるべきであると考えられる.
Science Transl Med. Jul 14, 2021.(doi.org/10.1126/scitranslmed.abi7643)



◆レムデシビルはウイルスクリアランスにも効果はない.
WHOによる臨床試験にて,レムデシビルやヒドロキシクロロキン(HCQ)が死亡率に影響を与えないことが示されているが,これらの薬剤の抗ウイルス作用については不明である.このためノルウェイから,レムデシビルとHCQが院内死亡率,呼吸不全と炎症マーカー,および中咽頭でのウイルスクリアランスに及ぼす影響を検討した研究が報告された.185名の患者が無作為に割り付けられ,181名が対象となった.レムデシビル42名,HCQ 52名,標準治療87名であった.結果としては,入院中の死亡率は治療群間で有意な差はなかった.中咽頭のSARS-CoV-2感染量は最初の1週間で顕著に減少したが,レムデシビル群,HCQ群,標準治療群で差はなかった.レムデシビルとHCQは,呼吸不全の程度や血漿・血清中の炎症マーカーにも影響を与えなかった.以上より,COVID-19入院患者において,レムデシビルも HCQ もウイルスクリアランスには効果がないことが示された.
Ann Intern Med. Jul 13, 2021.(doi.org/10.7326/M21-0653)

◆ジョンソン・エンド・ジョンソン社のCOVID-19ワクチンにギラン・バレー症候群の警告が加わった.
ジョンソン・エンド・ジョンソン社のCOVID-19ウイルスベクター・ワクチンの接種後の副反応として,ギラン・バレー症候群が報告されている.FDAによると,1250万回接種で,暫定的な報告が100件あった.ほとんどが接種後42日以内に発生していた.極めてまれな副反応であるが,認識しておく必要がある.
https://www.jnj.com/johnson-johnson-july-12-statement-on-COVID-19-vaccine

◆COVID-19の感染しやすさや重症化と関連する13の遺伝子座が同定された.
SARS-CoV-2感染とCOVID-19重症化におけるヒト遺伝子の役割を明らかにするために,19カ国の46研究から得られた最大4万9562人のCOVID-19患者を対象とし,200万人の対照と比較したゲノムワイド関連メタ解析が行われた.その結果,SARS-CoV-2感染やCOVID-19の重症化に関連するゲノムワイドで有意な遺伝子座が13カ所見いだされた(図4).4つの遺伝子座は感染しやすさと関連し,残り9つは重症化と関連した.前者ではACE2と相互作用するアミノ酸トランスポーターをコードするSLC6A20の遺伝子座,これまでに報告されていたABO血液型の遺伝子座,PPP1R15Aの遺伝子座(DNA障害応答としての細胞増殖停止や細胞死,負の成長シグナル,そしてタンパク質構造の異常に関わる機能を持つことが示されている)が含まれる.後者では間質性肺疾患のリスクを増加させるDPP9とFOXP4の遺伝子座,自己免疫疾患に予防効果を示すTYK2の遺伝子座,ウイルスRNAに結合することによりウイルスRNAを分解する2',5'-オリゴアデニル酸合成酵素(OAS)1/2/3の遺伝子座,その他にもCXCR6(ケモカイン受容体),IFNAR2(インターフェロン受容体複合体),LZTFL1の遺伝子座や機能が分かっていないものもある.DOCK2やFOXP4の遺伝子座は東アジア人を解析に含めることで見つかった.解析対象を広くするほどより有意義であることが示唆された.
Nature. July 8, 2021.(doi.org/10.1038/s41586-021-03767-x)



◆日本では7月12日にデルタ株が優位になると推測される.
7月23日に開始されるオリンピックより前に,日本でデルタ株感染が,アルファ株や(免疫逃避変異E484Kをもつ)R1株を上回り優勢になると推定した論文が報告された.論文ではデルタ株は,R.1株やアルファ株に比べて,およそ1.6倍および1.4倍,感染力が強いことが示されている.日本ではこの5カ月の間に,アルファ株が他のSARS-CoV-2ウイルスに取って代わったが,デルタ株がアルファ株に取って代わるのは時間の問題で,それが 7月12日と予測している.また大会期間中に相当数の外国人旅行者がデルタ株に曝され,移動が高まることで,世界中にさらに拡散する可能性を指摘している.国内でも従来の飲食店を中心とした感染対策では感染力の強さのために十分な効果を得られないだろうとも述べている.
Euro Surveill. 2021;26(27):pii=2100570. (doi.org/10.2807/1560-7917.ES.2021.26.27.2100570)




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