Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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新型コロナウイルス感染症COVID-19:最新エビデンスの紹介(2月5日)  

2022年02月05日 | 医学と医療
今回のキーワードは,オミクロン株流行下におけるワクチン未接種者の入院率(=重症化)はブースター接種者の23倍高い,COVID-19感染は嗅覚受容体遺伝子が存在する核構造を破壊して嗅覚障害を引き起こす,です.

今回は気になった論文は多くなかったのですが,ご紹介する2つの論文はいずれもとても印象的でした.1つめはオミクロン株に対するワクチンの効果を明確に示すものです.軽症と言われてきたオミクロン株感染でも重症者が増加していることが報道されていますが,オミクロン株感染におけるワクチン未接種のリスクとブースター接種の効果を啓発する必要があります.2つめはおそらく嗅覚障害の機序を解明したインパクトのある論文で,なぜ感染をほとんどしない嗅覚神経細胞が機能しなくなり,回復後に匂いの正しい認識ができない後遺症が生じるのか十分説明するものです.

◆オミクロン株流行下におけるワクチン未接種者の入院率は,ブースター接種者の23倍高い.
米国CDCは,オミクロン株流行中の2022年1月8日の時点のワクチンの有効性について検討した.カリフォルニア州ロサンゼルス郡におけるCOVID-19の発症率(感染率)は,ワクチン未接種者では,ブースター接種者の3.6倍,ブースターを接種していない2回接種者の2.0倍高かった.また入院率は,ワクチン未接種者では,ブースター接種者の23.0倍(!),2回接種者の5.3倍高かった.これらの発症率や入院率は,同じ地域でデルタ株が優勢だった頃と比べて低いものの,未接種者ではそれらのリスクが高いことが分かる.図1は18歳以上の居住者における年齢調整済みの14日間の感染率と入院率を示す.以上より,ワクチン接種していてもオミクロン株感染は起きてしまうが,それでも感染率は低く,かつ入院(=重症化)を減らす効果は依然として高い.米国の未接種者の多くは,ワクチン接種者の間で感染が拡大していることを,ワクチンが効いていないためだと述べているが,このデータを見ればオミクロン株に対する効果は明白である.個人や医療を守るために未接種者にこのデータを伝えること,またブースター接種を推進することが必要と考えられる.
MMWR Morb Mortal Wkly Rep. ePub: 1 February 2022. (doi.org/10.15585/mmwr.mm7105e1)



◆COVID-19感染は嗅覚受容体遺伝子が存在する核構造を破壊して嗅覚障害を引き起こす.
COVID-19に特徴的な嗅覚障害のメカニズムと有力な仮説として,嗅覚神経や嗅球に感染していなくても,支持細胞が感染し,そのため嗅覚神経へのサポートが不十分となり発症する可能性がCell誌に報告されていた(doi.org/10.1016/j.cell.2021.10.027).米国コロンビア大学から,この報告を否定し,新たな仮説を提唱する研究が報告された.まずハムスターにSARS-CoV-2ウイルスを感染させても,支持細胞数は減少するものの,嗅覚神経の感染は稀で細胞数も減らなかった.しかし嗅覚受容体遺伝子の発現が感染直後より低下し,そのシグナル伝達系もダウンレギュレーションしていた.この機序を調べるため,HiC法という方法を用いて,核内のゲノム構造を網羅的に調べた.なぜなら染色体上に散在する嗅覚受容体遺伝子が接近してできるクラスターを形成しているためである.この構造化された区域をtopology associating domain(TAD)と呼び,ゲノムはTADが約2000個集まってできている(図2).


https://en.wikipedia.org/wiki/Topologically_associating_domain

そして驚くべきことに,この嗅覚受容体遺伝子のTADは感染後すぐに崩壊してしまい,この結果,遺伝子発現が低下する.TADの崩壊は,感染ハムスターの血清により引き起こされることから,おそらくサイトカインが原因分子だが,直接の原因分子は同定できなかった.以上より,感染により嗅覚受容体遺伝子が集まる核構造が消滅し,嗅覚受容体の発現が低下して嗅覚障害が生じる.ただし嗅覚神経細胞は生存しているため,やがて遺伝子の再構成が生じるが,完全にもとには戻らず,嗅覚は正常化せずに嗅覚錯誤や幻嗅が生じうる,という可能性が考えられる.パンデミック後,何度も使ったフレーズであるが,このウイルスの恐ろしさ,手強さを改めて感じた.
Cell. Feb 2, 2022(doi.org/10.1016/j.cell.2022.01.024)



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