Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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Holmes振戦の原因,画像,随伴症状,治療

2016年04月01日 | 医学と医療
Holmes 振戦は1904年,ロンドンの国立神経病院のGordon Holmes先生(1876-1966;小脳機能の局在に関する古典的研究を行った英国神経学会の指導者の一人)が初めて記載した3-4 Hz(通常,4.5 Hz未満と書かれることが多い)の通常一側性に生じる粗大な振戦である(ビデオ参照).姿勢時振戦と企図振戦が混在する.中脳赤核の病変で生じると考えられたため,当初,赤核振戦と呼ばれたが,のちに発症には2つの病変(黒質線条体路と小脳-視床―皮質路ないし歯状核-赤核-下オリーブ核路)が障害されて生じることがわかり,Holmes先生の名前にちなんでHolmes振戦と呼ばれるようになった.原因としては頭部外傷や脳血管障害が多いと言われ,脳幹や小脳障害による症状を伴う.受傷後1から24ヶ月後に遅発性に出現する(発症に神経の可塑性が関与している).通常,薬物治療は困難だが,一部の症例ではレボドパが有効,手術も行われる・・・と教科書的に記載されているが,稀な不随意運動であるであるため,いずれも症例報告をもとにした考察である.

今回,Holmes振戦のケースシリーズが南米(アルゼンチン,ペルー)より報告された.後方視的研究であるものの,症例数29例は過去最大の報告である.目的は,臨床像,原因,画像所見を明らかにすることである.

29例の内訳は男性13名,女性16名,原因となった脳病変の発症は33.9 ± 20.1 歳で,その範囲は8~76歳とさまざま.原因は脳梗塞・脳出血を含む血管病変が48.3%と最多(!),3分の2が脳梗塞であった.有名な外傷は案外少なく17.2%,その他が34.5%(脱髄,AIDSに伴う中枢神経感染症など).

脳病変ができてから振戦が出現するまでの中央値2ヶ月で,範囲は7日~19年(!)と幅広い.合併した神経所見で多いのは,片麻痺(62%), 失調(51.7%)が多く,ついで触覚低下(27.6%),ジストニア(24.1%),脳神経麻痺(24.1%),構音障害(24.1%)であった.垂直方向眼球運動障害(6.8%),寡動・筋強剛(6.8%),ミオクローヌス(3.4%),けいれん(3.4%)も見られた.画像所見としては,ほとんどの症例で複数の病変を認めた.頭部MRIで,中脳,視床,小脳のいずれかに病変を認めた症例が82.7%であった.

治療に関しては,レボドパは24名中13名で有効(54.2%),一部は著効した.レボドパの有効性に差が見られることは,この病態が単一のものではない可能性を示唆している.また3名が一側の視床腹側中間核(VIM)の破壊術を行ない,著効している.ボツリヌス毒素が有効であった症例も2例あり.

以上の結果から,Holmes振戦の最も多い原因は脳血管障害後であること,最も多い病変は中脳,視床,ないし双方であること,最も多い随伴症状は片麻痺と失調であることが分かった.治療としてはまずレボドパを試みること,そして最も有効な治療は視床に対する脳定位手術(DBSを含む)であることが示唆された.

Neurology. 2016 Mar 8;86(10):931-8. doi: 10.1212/WNL.0000000000002440. Epub 2016 Feb 10.
Holmes tremor: Clinical description, lesion localization, and treatment in a series of 29 cases.


2.5. Holmes Midbrain Tremor - Tremors [Springer Video Atlas]

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