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Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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新型コロナウイルス感染症COVID-19:最新エビデンスの紹介(12月26日)  

2020年12月26日 | 医学と医療
今回のキーワードは,イギリスと南アフリカの突然変異株,病院を受診しない患者,抗スパイク蛋白質抗体陽性の医療従事者の再感染率,髄液PCRのみ陽性となった髄膜脳炎症例,スパイク蛋白質は血液脳関門を通過し脳に達する,発症3か月後の患者小腸からのウイルス検出とIgA,重症化を招く悪玉抗体の発見です.

イギリスの突然変異株B.1.1.1.7(VUI-202012/01とも呼ばれる)が大きな問題になっています.1月に中国で配列決定された最初のゲノムとは17箇所の変異を有しています.うちスパイク蛋白質をコードする遺伝子に8箇所の変異があり,そのなかの2つの変異が問題視されています.ひとつはN501Y変異で,ACE2受容体に強固に結合することが過去に報告されています.もうひとつが69-70del変異で,2アミノ酸欠失につながり,一部の免疫不全患者の免疫応答を逃れたウイルスにおいて発見されています.英国では,全症例の大半がこの変異型らしく(図1),感染性を70%増加させた可能性があると言われています.また南アフリカ由来の突然変異株も注目されています.同じくスパイク遺伝子にN501Y変異を有しますが,英国の変異型とは別の系統として発生したようです.やはり,南アフリカにおける患者数の増加を招いたと推測されています.またいずれも若年者に感染が多いようです.B.1.1.1.7につながったウイルス変異は,他の場所でも起こる可能性があり,日本でもすでに確認されている海外からの移入のみならず,自国内での変異の出現に備える必要があります.もしかしたら最近の急増もこの変異が関与している可能性すらあります.シカゴ大学名誉教授の中村祐輔氏も「3000人分のウイルスゲノムは1台の機械で2日間でできる.全例解析して結果を即時公表すべきだ」と述べています.
ScienceMag.org(https://bit.ly/3nJjLM6)
Twitter: Dr Emma Hodcroft @firefoxx66(https://bit.ly/350IWm3)
すでにイギリス型ウイルス上陸!科学なきウイルス対策(http://yusukenakamura.hatenablog.com/)





◆症状があっても病院受診しない患者の多さ.
ロックダウン後のフランスにおける COVID-19患者の検出率を推定した研究が報告された.ロックダウン後の最初の7週間(5月11日~6月28日)に,国を挙げてPCR検査を行ったにもかかわらず,推定発症者10万3907人のうち,検出されたのは1万4061人のみであった.つまり,10万3907人中,なんと約9万人の症状ありの患者(10名中9名に相当)はサーベイランスシステムによって検出されなかった.また期間中にCOVID-19を思わせる症状を持つ人のうち,医師に相談したのはわずか31%に過ぎなかった.検出率を向上させるためには,疑わしい症状を認めた場合,すぐに病院を受診することを促すこと,ならびにより簡単に,効率的な検査にアクセスできるようにすることが重要である.→ 日本でも症状があっても病院受診しない患者が相当数存在する可能性があるかもしれない.
Nature. Dec 21, 2020.(doi.org/10.1038/s41586-020-03095-6)

◆抗スパイク蛋白質抗体陽性者は6ヶ月間において再感染のリスクは大幅に低下する.
医療従事者を対象に,抗ウイルス抗体の有無により,その後6ヶ月間のCOVID-19発症に影響があるかを検討した研究が英国から報告された.抗体は抗スパイク蛋白質IgG アッセイにより測定した.計 1万2541名の医療従事者が参加し,抗スパイク蛋白質 IgG を測定したところ,陰性1万1364名,陽性1265名であった.31週間の経過観察で,抗体陰性のうち223名がPCR陽性となったのに対し(100名が無症状,123名が症状あり),抗体陽性では2名がPCR陽性となったのみで,いずれも無症状であった(調整後発症率比,0.11;P=0.002).抗ヌクレオカプシドIgGアッセイを単独または抗スパイク蛋白質IgGアッセイと組み合わせても罹患率比は同様であった.抗スパイク蛋白質抗体または抗ヌクレカプシドIgG抗体の存在は,その後6カ月間の再感染のリスクを大幅に減少させる.
New Eng J Med. Dec 23, 2020(doi.org/10.1056/NEJMoa2034545)

◆呼吸器検体PCRが陰性でも,髄液陽性というケースがありうる.
ドイツから,食道がん原発髄膜がん腫症の53歳男性におけるCOVID-19の報告.呼吸器症状や徴候を伴わずに,発熱,髄膜刺激徴候を伴う頭痛にて発症した.鼻咽頭拭い液は入院前に一度陽性となったが,その後,陰性となった.しかし髄液検体を用いたPCRで,2度ウイルスRNAが検出され,さらにウイルス特異的髄腔内IgG産生も確認された(図2).髄液PCRは長期間(18日間)陽性であった.以上より,COVID-19では,呼吸器検体でPCR陰性でも中枢神経感染が起こりうること,ならびに髄液PCRの確認が必要であることを認識する必要がある.
Neurology. Dec 8, 2020(doi.org/10.1212/WNL.0000000000011357)



◆ウイルスの直接感染による脳炎・脳症は少ない.
COVID-19に関連した中枢神経合併症の機序に関する総説が報告された.COVID-19における脳炎・脳症中の頻度はまれで,主な病態は炎症性および血栓形成性のパスウェイの活性化,そして頻度は低いが一部では血管内皮および脳実質に対するウイルスの直接感染が関与していると推測している(図3).また重症例ではしばしば認知機能障害の遷延を認めるが,これは敗血症性脳症の状況下で,多因子のメカニズムによるものだろうと推測している.
Neurol Neuroimmunol Neuroinflamm. Dec 11, 2020(doi.org/10.1212/NXI.0000000000000923)



◆ウイルス・スパイク蛋白質は血液脳関門を通過し,マウス脳に侵入できる.
SARS-CoV-2ウイルスは,スパイク蛋白質のS1サブユニットを介して細胞に結合する.米国からの研究で,静注された放射性ヨウ素化S1(I-S1)が,雄マウスの血液脳関門を容易に通過し,脳内に取り込まれ,脳実質に到達することが報告された(図4.また,I-S1は肺,脾臓,腎臓,肝臓にも取り込まれた.経鼻的に投与されたI-S1もまた,静注の約10倍低いレベルではあったが,脳内に取り込まれた.APOE遺伝子多型と性別は脳でのI-S1取り込みに影響を与えなかったが,嗅球,肝臓,脾臓,腎臓での取り込みには様々な影響を与えた.海馬と嗅球でのI-S1取り込みは,リポ多糖による炎症により減少した.I-S1は吸着性のトランスサイトーシス(エンドサイトーシスにより取り込まれ,さらにエキソサイトーシスによって反対側に輸送されること)によって血液脳関門を通過する.またマウスACE2は脳と肺の取り込みには関与しているが,腎臓,肝臓,脾臓の取り込みには関与していないことが示唆された.
Nat Neurosci. Dec 16, 2020(doi.org/10.1038/s41593-020-00771-8)



◆発症3か月後の患者小腸からウイルス検出とIgA.
抗SARS-CoV-2ウイルス抗体価は時間経過とともに低下するが,再感染時に抗体を産生するために必要なメモリーB細胞については,これまで報告がない.米国からの研究は,感染後1.3ヶ月後と6.2ヶ月後に評価した87名における液性免疫メモリーについて報告がなされた.スパイク蛋白質の受容体結合ドメイン(RBD)抗体価のうち,IgM,IgGが有意に低下したが,腸管免疫を司るIgAへの影響は少なかった(図5左).またこの期間で,疑似ウイルスアッセイで測定した血漿中の中和活性は5倍に低下していたが, RBD特異的メモリーB細胞の数は変化していなかった.メモリーB細胞は6.2ヵ月後にクローナルターンオーバーを来たし,発現する抗体はより大きな体細胞性超変異(免疫グロブリン遺伝子の可変領域に高頻度の変異が抗体遺伝子改変酵素により導入される現象)を示した.また抗体はRBDにより結合し,ウイルスをより確実に中和できるようになった.これらの現象は液性免疫反応の継続的な進化を示すものである.さらに発症3ヵ月の無症状の患者から生検した腸管を解析したところ,14名中7名の小腸上皮に,SARS-CoV-2ウイルスが残存していた(図5右).以上より,小腸にわずかに存在するウイルスが抗原を供給し,液性免疫の発達が促進されるものと考えられた.
bioRxiv. Nov 05, 2020.(doi.org/10.1101/2020.11.03.367391)



◆ある種の抗体(無フコシル化IgG)の存在は,COVID-19の重症化を招く.
IgG抗体は,病原体からの防御に不可欠である.IgGの機能に不可欠なIgG-Fcテール内の高度に保存されたN-結合型糖鎖は,ヒトにおいて様々な組成を示している.糖鎖修飾がされていない無フコシル化IgGバリアントは,食細胞のFc受容体(FcγRIIIa)を介して高い活性を示すことから,すでに抗癌治療用抗体として使用されている.オランダからの報告で,無フコシル化IgG(ヒトの全IgGの約6%)は,SARS-CoV-2を含むエンベロープ・ウイルスに対して特異的に形成されるが,一般的には他の抗原に対しては形成されないことが示された.この現象は,より強力なFcγRIIIa応答を介するだけでなく,IL-6の産生を促進し,サイトカイン・ストームや免疫介在性の病態を促進する.重症のCOVID-19患者は,SARS-CoV-2に対する高レベルの無フコシル化IgG抗体を有し,炎症促進性サイトカイン放出および急性期応答を増幅したが,軽症者では認めなかった.以上より,抗体のなかには重症化を引き起こすものも存在することが示された.これが患者回復血漿輸血が臨床試験で有効性を示せなかった一因かもしれない.またこのような悪玉抗体を作らせない治療法の開発が求められる.
Science. Dec 23, 2020(doi.org/10.1126/science.abc8378)




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