Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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脳卒中後てんかんの診断と治療

2018年09月20日 | てんかん
Epilepsy symposium in Tokai というシンポジウムにおいて,国立循環器病研究センター脳神経内科の福間一樹先生による「脳卒中後転換の最前線」というご講演の座長を担当した.とても勉強になったので,若干,文献的な記載を追加し,要点をまとめたい.

【疫学:脳卒中の7%で認められる】
脳卒中後てんかんは,脳卒中生存者の7%に認められ(東田ら.臨床神経2018;58,217-222),QOLを損なう原因の一つとなっている.またアルツハイマー病とともに,高齢者てんかんの主な原因ともなっている.しかしながら全国的にてんかんの専門医が少なく,十分に専門的診療が行われていると言いがたい.

【分類と特徴:遅発発作は再発する】
早期発作(early seizure)と遅発発作(late seizure)に分類される.早期発作は急性症候性発作のひとつとも言える.早期発作は,一般的に脳卒中発症1週間以内の発作と定義される.両者の病態は異なり,早期発作は脳卒中による脳の局所的な代謝変化や血液分解産物の大脳皮質への直接刺激等によりてんかん閾値が低下することにより出現する.一方,遅発発作は器質化機転が始まった皮質のグリオーシスにより,てんかん原性焦点が形成されたことにより出現する.てんかんは通常,24時間以上あけて,2回以上の発作を認めた場合に診断されるが,遅発発作は一度生じると,再発率が高く,1回の発作でてんかんと考えてよい.

脳卒中後てんかんの再発の予測スコアとして,脳出血ではCAVEスコア(皮質を含む出血,<65歳,血腫体積>10mL,7日以内のてんかんの4項目を各1点として, 0−4点で評価する),脳梗塞ではSeLECT スコア(脳梗塞の重症度, 大血管動脈硬化, 早期痙攣, 皮質障害, MCA領域の5項目で,0-9点で評価する)がある.

脳卒中後てんかんの危険因子としては,早期発作ではけいれん重積発作が,遅発発作では若年であることが国立循環器センターから報告されている(Tomari et al. Seizure 2017;52.22-26).後者については若年の脳梗塞では塞栓症等による大きな脳梗塞が多いことが理由として考えられている.

【診断:脳波の陽性率は低い】
脳卒中後てんかんは,明らかなけいれん発作があり,脳波でてんかん性放電が確認できれば診断は容易であるが,そう容易ではないことも多い.例えばけいれん発作を伴わない非けいれん性発作(意識減損発作)は症候の正しい評価が難しい.また発作中に脳波検査を行うことは非常に困難であり,かつ発作後(発作間欠期)に1回のルーチン脳波検査を行っても陽性率は極めて低い.国立循環器病センターが行ったアンケート調査では,86%で脳波診断に有用では無いとの回答であった.また異常検出率に関する質問で,検出率が半数以上と答えた施設の頻度は,脳波,頭部MRI,脳SPECTの順に13%(2+21/184),9%(1+15/186),11%(2+6/70)とかなり低いことがわかる(図).てんかん性放電を捉えるためにはルーチン脳波検査を繰り返す,持続脳波モニタリング(理想的には5時間以上)を行うなどの工夫が必要となる.また灌流画像としてASL(Arterial Spin Labeling)法やSPECTが有効である可能性があり,現在,検討が進められている.

【治療:エビデンスはまだ乏しい】

治療については早期発作,遅発発作とも一次予防は推奨されていない.二次予防については,早期発作では推奨されておらず,遅発発作ではエビデンスは乏しいが,再発が高いことから臨床的に治療が行われている.前述のアンケート調査では,発作の再発抑制にはカルバマゼピン,バルプロ酸,レベチラセタムの順に第一選択薬とされていた.ここでバルプロ酸が第2位となっているが,脳卒中後てんかんは部分てんかんであることが多いことから理屈に合わないが,事実,再発が多いことが明らかとなっている.脳卒中患者では,他の薬剤の使用,脳卒中合併症,その他の併存症が見られることから,副作用や他の薬剤との相互作用の少ない第3世代抗てんかん薬が使用しやすい.

最後に抗てんかん薬の使用量については,高齢者てんかんでは少量でも有効であることが指摘されているが,脳卒中後てんかんでも比較的少量でコントロール可能な人が多いとの講師のコメントであった.

【まとめ】
臨床的に重要でありながら,診断および治療ともエビデンスが乏しい領域である.てんかん診療ガイドライン2018でも記載が乏しい.今後の研究が必要な分野である.


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