Wein, Weib und Gesang

ワイン、女 そして歌、此れを愛しまない輩は、一生涯馬鹿者であり続ける。マルティン・ルター(1483-1546)

品質向上戦線で勝ち抜くのは

2010-07-28 | ワイン
作曲家ヴォルフガンク・リームはカールスルーヘでミッテルハールトのリースリングを選択したのかどうか分からない。しかし、私なら今の時点で間違いなく、ミッテルハールトの町フォルストにあるゲオルク・モスバッハー醸造所のそれを皆に推薦する。兎に角、美味い。週末には一人で1,5リッター以上飲み干した。そして美味いものだから、まだ止まらない。

もちろん高価で、将来性の高いリースリングは幾らでもあるが、秋が来るまでに旬を迎えてこれほど楽しめる2009年産のリースリングは少ないであろう。なるほど、スレート土壌では、ザールのシュロース・ザールシュタイン醸造所の「グラウシーファー」、ナーヘのシェーンレーバー醸造所の「グーツリースリング」など素晴らしいものがある。しかしそれらと比べて、九ユーロの「ダイデスハイマー・モイズヘーレ(アルコール12.5%、残糖4.9G、酸7.1G)」の素晴らしさは、前者に比べてコストパフォーマンスで、後者に比べて ― 価格帯からすれば七ユーロ台で後述のヘアゴットザッカー・カビネットとの比較となるが、現時点では比較対象となるほど魅力的である ― 複雑さで勝負にならないほど優れている。

例年ならばこの醸造所では「グーツリースリング」と称する最もスタンダードなワインを数多く買うが、今年は購入していなかった。それは上級のものと比較するとあまりにも閉じていて十分に判断出来なかったからである。しかしそれも少し開いてきたようなので購入した。決して例年と比較して悪くはないのだが、やはりまだ物足りない。一本六ユーロであるから、これをディーリーワインとして楽しむことが出来ると家計が助かるのである。少なくともこれぐらいのものを心置きなく晩酌に飲む身分でありたいといつも思っているのである。残糖値も、酸もアルコールも充分であるから、秋にはもう一度試してみたい。ラインヘッセンのニーアシュタインのワイン農家の娘さんを連れて行くことになっている。

フランスでも彼女、彼らに大変好評であった「ヘアゴットザッカー辛口カビネット」は試飲して購入したが、これはそれほど変っていなかった。しかしそれより上の「シュペートレーゼ」を試飲して驚いた。嘗てはこの醸造所の売りである豊富な果実風味と共に糖が多く甘めに感じられたそれが、全く素晴らしくどこか 冷 た さ 感 のあるミネラル感と素晴らしい柑橘類味とその皮の風味をカビネット以上に伝えていて高級感すらを漂わせている。今までは女性に好まれていたが、こうして痩せぎすになって酸が目立つこと無く本格的な辛口となって、逆に味が丸くなっているのである。分析票の残糖3.7G、酸7.1Gに驚くに違いない。辛口であるよりも風味豊かなのである。単体で楽しめ尚且つ上質な食事に申し分ないだけでなく、やはり女性に推薦したい。価格の13ユーロは十分にシュロース・ザールシュタイン醸造所の「アルテレーベン」とCP比較が出来るに違いない。

さて、玄武岩混じり土壌からの「バサルト」も試飲したが、これはもう少し時を隔てて吟味したい。印象は決して重くならず、凝縮度もあったので期待出来る。それに比較して今シーズンからお目見えした雑食砂岩土壌からの「ブントザントシュタイン」は、なんと天然酵母百パーセントの醸造法を用いている、当然のことながら微炭酸など感じられなく木樽が使われているようだ。試飲の時には感じられなかった天然酵母臭はあるが、これは酵母臭を抜く作業が十分でなかったと思わせる。しかし、その味筋は幾多の濁酒のようなそれではなく、大変澄まされていて、当たりのヘーゼルナッツの甘みがとても面白い。2009年産の健康な葡萄の収穫が前提となるのであるが、一夜にして幾多の醸造所が試みてきた天然酵母ワインの質を軽く乗り越えてしまっているのは、明らかに醸造の技能の高さだけでなく、ダイデスハイムからヴァッヘンハイムにかけてのリースリングの黄金地帯のような葡萄の実りの素晴らしさの成果に違いない。十年以上かけて多くの醸造所が協力して到達した成果である。そのミネラル感は、フォルストの地所エルスターのもので、従来のカビネットでは平面的にしか感じなかったものが3D効果で圧倒的に立体化されている。これも秋口への推移が楽しみであり、将来性のあるワインに違いない。

エチケットもマイナーチェンジが行なわれて、手ごろな果実風味溢れるワインから今や高級感あるワインへとその製品の比重を移している。しかしながら廉価なグーツリースリングがおろそかにされるでなく、逆にその価値を期待させ、尚且つ形だけグローセスゲヴェックスを提供する程度から本格的にそれで市場で勝負出来るようにと突き進んでいる。現時点では、九ユーロの「モイズヘーレ」の成功が、ややもすると現時点ではまだ開いていないフォン・バッサーマン・ヨルダン醸造所の代表的商品キーゼルベルクを凌駕しており、同じ価格ならこれを推奨する。しかし、ワインは経年変化するものであり、万が一スロースターターの「キーゼルベルク」が何時までも後塵を拝するような結果となればこれは勢力図の大変な地殻変動となる。バッサーマンのメル親方が木樽を使うと弁解し出した背景にはこうした競争があるに違いない。この界隈でおちおちしていては品質向上の戦線から直ぐに取り残されてしまう。

現在ドイツの高級リースリングは、九ユーロの商品を巡って熾烈な競争を展開しているが、激辛で有名なレープホルツ醸造所の「ブントザンドシュタイン」が今や辛口の中でも特別な地位を築く事すら難しくなって来ている。価格が僅かに高いザールのシュロース・ザールシュタインの「グラウシーファー」は既に価格で敗北しており、ミッテルハールトのクリストマン醸造所の「オルツヴァイン」は今年度から戦線脱落して発売停止となり、辛口リースリングのこのカテゴリーに参戦できる醸造所はあまり多くない筈である。



参照:
ザールシュタイン アルテ・レーベン 2009 (ワイン大好き~ラブワインな日々~)
看過出来ない齟齬 (新・緑家のリースリング日記)
夏の夜の辛口ドイツワイン飲み比べ (モーゼルだより)
ふと久しぶりに読みました。 (saarweineのワインなどに関してあれこれ)
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コメント (2)
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