Wein, Weib und Gesang

ワイン、女 そして歌、此れを愛しまない輩は、一生涯馬鹿者であり続ける。マルティン・ルター(1483-1546)

野趣に富む低繁殖への道程

2010-07-21 | ワイン
念願のワインを開けた。今年つまり2009年度産に見事なワインを提供している醸造所は少なくないが、そのなかでも進展のあった醸造所の一つにザール流域の丘の上にあるシュロース・ザールシュタイン醸造所を、プファルツのフォルストのゲオルク・モスバッハー醸造所と同じように挙げることが出来るだろう。

既に、そのテロワール感を文字として表わしたハウスワイン「グラウシーファー」の綺麗に収まったコンセプト商品については賛辞を贈った。同時にこれに対してフランスワインを愛でる向きから「水っぽい」と言われればそれも無理はなかった。そこでどうしても上級クラスであり、古い葡萄の木から収穫した「アルテレーベン」に期待が寄せられたのである。これも不思議なことに、既に日本に三本は持ち込まれていて、既に東京でコルクが抜かれ飲まれていることから、どうしても我々事情通の者がそこに参戦する必要を感じたのである。要するに、四箇所で、恐らくほぼ同時期に同じワインが吟味されることになる。

個人的には、こうした事情がなければ秋以降まで落ち着かせておきたいと思ったのだが、早めに評価すればそれだけ可能性も拡がることであり、意を決してコルクを抜いた。食事は久しぶりの豚の内臓肉の寄席合わせで、いつものように腎臓と鼻と頬っぺたが主力であった。

結論からすると、大変素晴らしい進展ぶりをみせている。そして下のクラスで不満だった点は解消され、比較的長く・綺麗な余韻が後を引く。同時に如何にワインは葡萄が健康に育つことがなによりもの成果であることかを実感させるに違いない。幾ら手練手管に優れていても、その間隙は決して埋まらない。そうしたシムプルな醸造から生まれるナチュラルなクリアー感やヘルシー感こそがドイツの高級リースリングの特徴で、その点でフランスやその他の白ワインとは一線を隔している。2009年はその点で幸運に恵まれた年だっったのである。

初日には、炭酸が比較的激しく、グラスの水面が塵で汚れて見えるほどで、これはステンレス醸造・熟成の欠点でもあり、そのガスが抜けた時の評価をどうしても必要とさせた。その問題は後に繰り返すとして、色も粘度も十分であり、その香りはミラベル・シュナップスのそれに近く、所謂アルコール臭さを、この陽の薄い地方にしては高めの12,5%のそれを甘く包みこんでいて、口をつける前から好印象が得られる ― つまり翌日にガスが抜けそうしたバランスが崩れると、幾ら冷しても若干生ぬるい感じがするのは、そのアルコールが前にはだかるからに他ならない。

実際に、干し草の香りやぺパーミンツ味などがふんだんな果実風味に付き添われて、決して量感が少なくない酸も、辛口基準となる残糖も、スレートのミネラル風味の旨味をマスキングしない。この点において、恐らく大収穫年でもあった2007年産のそのバランスの悪さを遥かに超脱していて、ややもすると田舎臭さの強かったこのワインを目覚しく洗練させている。

比較すると、2007年産はその重心の低さから明らかにチーズなどのデザート向きのワインであったが、2009年産はオーナーも語るように「これほどまでに健康な葡萄はない」という按配で、上で示したように白身の肉に合わせるには全く問題がない。更に「おかしな重量感」がないので杯が進んで、危ない ― お蔭で夜十時にはベットに潜った。

これが、嘗ての「遅摘み」とか、「アウスレーゼ」とか呼ばれた誤まった古いドイツワイン法に基づく果実の糖比重基準のそれと最も異なる進展で、収穫量一ヘクタール当たり三十ヘクトリッター見当で収穫される、グローセスゲヴェックス並みの「水っぽくない」ワインの特徴であり、糖比重は一定値(九十エクスレ後半)に抑えらるので決して甘くなったり、高アルコールとはならない、深みなのである。

若干この関係を説明すれば、秋の酸の分解を待って出来る限り深みのある長持ちする酸を得る行為と、アイスヴァインを代表とするような貴腐から糖濃度を乾燥レーズン化させて甘口ワインを造る行為とは元々は別の狙いがあって、本格的な辛口を醸造するためには前者の条件を満たしつつ健康な葡萄を収穫することが金科玉条となる。その前提に加えて手ごろな糖比重と収穫量を落としたエキスの濃さがその価値を決める。

さて、この価格14ユーロをどのように見るかは、先の9ユーロ越えのグラウシーファー同様に議論のしどころである。玄人がこれを吟味すれば、最初の発砲性だけでなく、若干苦味の出る後味などで、その手間のかけ方から醸造施設程度まで十分に鑑定出来る。要するにその時点でこのリースリングは、現在のドイツの超一流のそれではないことは明らかなのだが、それでもこのややざっくりとした造りに ― もちろん酸は2008年と異なって肌理は細かいが ― 魅力を覚えるかどうかであり、まさに製品に生き写しなっているオーナーの人柄や、お知らせ状の文法などにも頓着しない野趣をどのように評価するかに掛かる。当然のことながら、決して悪くはないのだが炭酸が抜けて行き、経年変化した時の価値もそこに勘定されるのである。

酸の伸びだとかキレだとか、残糖感だとか、雑味とかの減点法でこれを評価するような御仁には決して高評価を受けないであろうが、大雑把にこれはあの辺境の谷の成果であると思えば、次元は異なるがモーゼル中流のJ・J・プリュムの甘口のようにかけがえのない「辛口の特産品」であり、今や超高級への道を歩んでいるとしても過言ではないだろう。もちろんその域に達するまでには、木樽醸造だけでなく、多大な投資と絶え間なる努力が必要であり、一朝一夜で成果が上がるわけではない。現在のオーナが生涯を懸けるべき課題なのであろう。そしてそれが出来れば、このワインは25ユーロ以下では到底入手出来ないであろう。

このワインの原料を提供する「古い葡萄の木」であるが、人間と同じで加齢すれば繁殖力は落ちる。谷の人々は、どうせ手間がかかって植え替えられない古い葡萄の木を其の侭維持することで収穫量を落としたグローセスゲヴェックスを収穫出来ることに気が付いた。そして我々は、こうした凝縮したエキスを飲んで、自らの肝臓を酷使してまた余計に繁殖力を落とすことになるのである。



参照:
「探 偵Bar Answer」さんにやって来ました。(東京都港区)
名 門のシャルドネです。 (saarweineのワインに関してあれこれ)
シュロス ザールシュタイン リースリング アルテレーベン (ワインセミナー 講師 朱里(あかり))
ワイン会での、ワイン あれこれと 3 (美味しい 大好き ニャンコ団)
ザールシュタイン 2009 グラウシーファー♪
ザールシュタイン アルテ・レーベン 2009 (ワイン大好き~ラブワインな日々~)
シュロス・ザールシュタイン
妥協を許さない味筋 (新・緑家のリースリング日記)
認知、直感的に安心させるもの 2010-07-11 | アウトドーア・環境
人柄が表れる発送確認メール 2010-06-09 | ワイン
中華料理でも作ろうか 2009-10-14 | ワイン

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4 コメント

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アルテレーベンのほうは如何でしょうか。 (Saar Weine)
2010-07-22 00:49:50
pfaelzerwein様、こんばんは。とうとう抜栓されたのですね。グラウシーファーはまだ飲んでいないので機会をみて飲んでみたいと思います。


大体何度くらいに温度を設定されたのでしょうか。
返信する
アルテレーベンのこと (pfaelzerwein)
2010-07-22 06:58:58
書き方が悪かったですかね。アルテレーベンのことをくどくどと書いたのですが。

グラウシーファーもアルテレーベンも温度はそれほど変らないかと思います。同じ温度でも、アルコール度が高いアルテレーベンの方が生ぬるく感じる筈です。

私の基準として手で瓶を触ってヒンヤリした感じが良いと思います。それ以上は冷蔵庫ではなかなか冷えないように設定していますが。11度ぐらいですか?

冷蔵庫を測ったら摂氏6度まで下がってました。
返信する
あれあれ.... (ラブワイン)
2010-07-22 21:46:31
油断していたら先越されてしまいました(笑)。
素晴らしい出来のようですね。
夏バテに克つためにも格好の教材でしたね♪
今日は往復200キロの出張でした。
社外温度計が41度を示していましたが、全くをもって暑いです。
BGMはマーラーです(これまた暑苦しい!)。
今日のテーマは6番の最終楽章の研究。
5回は繰り返して聴いていました....
閑話休題、私もそろそろこれ飲みたいと思います。
返信する
意味深長な発言を思い出す (pfaelzerwein)
2010-07-23 17:33:35
持ち寄りの会で飲まれたようですが、どうせ揺れて、悪い状態で飲まれた訳で、なにがなんだか分からなかったのでしょう。高級ワインをそのように扱うのは問題なのですが、このリースリングはそれとは些か違う逞しさが特徴ですから、今回早めに開けたのも、良年である2007年産を知っている経験からです。二年ぐらいしないと次ぎの山は現れませんね。

「フランスの手練手管を愛でる方」にも、これは水臭くもなく、その素材の良さを十二分楽しんで頂けるかと思いますが、緑家さんの言うテロワールを越えた「技」の世界となると、まだまだ「鮨職人」ほどの技で高級懐石とは至りません。

オーナーの示したコンセプトは定まり、出来栄えにそれが明白に成功裡に示され評価されるとなれば、顧客としては共にそれを応援して行くべきなのですが、「百本でも買う」などと好い加減なことを言っているのではまさにそれが「贔屓の引き倒し」です。こうした受身の需要指向が評価本などを購読する一見さんのそれであります。

こうした結果を踏まえて、オーナーの「甘口が売りもの」発言を思い出すと、それは意味深長です。当然ながら試しに注文してみた「私の選択した組み合わせではお試しパック割引にならない」事実にも、如何に当然のことながら醸造所の方は全てを自覚しており、そこに市場をみた戦略の強かさがあるかが示されています。

こうした点も含めて、他の醸造所のリースリングを紹介しながら、こうしたリースリングの位置付けを試み、そこから改めてドイツワインの実力と俯瞰を得て頂ければと思います。本来ならば、手当たり次第に雑多多種のそれを試されている日本のリースリングの権威である緑家さんがしなければいけない紹介作業なのですが。
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