田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

幻のカレーライス  麻屋与志夫

2023-06-09 07:04:06 | 
古き良き時代のカレーライスの思い出です。

幻のカレーライス

1

二階の照明の輝度をおとす
巨大なピクチャー・ウインドウの彼方
雪の日光連峰は夜の果てに霞む
眼下の晃望台の街は人影がとだえた
満目蕭条

ときおり野獣の眼光を光らして車が通る
ただそれだけで
今日も無事
なんとなく終わる

階下の客の声もまばらになる
レジスターの音もとだえがちだ
ひとり窓に孤影を映す
もう「ソラリス」もネオンをおとす時刻
厨房に降りて
川澄さんにカレーライスを御馳走になるかな

冬の夜
閉店まぎわのじぶんの店で
太っちよ中年がカレーライスをすする
さまにならないんだなぁ

いまは昔
四分の一世紀もたっちまったけど
日比谷の有楽座の前に
ニュートウキョウってレストランがあった
カレーライスがうまいので
友だちとよくでかていった
コーヒーが五十円くらい
カレーライスは百円だったかな
一か月働いて四千円の時代
ぼくら芸術家のエッグにはたいへんな金額だった
絵描きの玉子
詩人の玉子
役者の玉子
小説家の玉子
上手く孵化したところで金ぴかに輝く
世界に生きられるわけではなかった

夢二の世界からぬけだしたようなウエトレスが
ひっそりと近寄ってきて
しなやかな
ひかえめな
しぐさで
給仕をしてくれた

あのカレーの舌触り
その後味はすばらしかった
余韻のようにいまもひびいている

2

あるときゲルピンで街にでた
いつもの店のまえに立っていた
カレーライスをたべたい
ふつかもろくなものをたべていない
店のショーウインドウを
眺めていたら
真っ赤なコートを着た
いつものウエトレスがでてきた
「わたしがごちそうするわ」
話を交わしたのはそれがはじめて
「めぐんでもらうようでわるいから」
「失礼ですがいくらあるの」
「五十円」
卓についていると
大盛のライスのわきに福神漬けをたっぷりとのせ
カレーライスがはこばれてきた
「わたし急ぐのでどうぞごゆっくり」
ひとりぼっちの食卓でカレーをたべていたら
仲間がどやどややってきた
「泣いているのかおまえ」
「ああカレーが目にしみた」
かれらは笑った
彼女にとってあれが最後の給仕だった
翌日五十円返してまたカレーをたべようと
店にいった
彼女は故郷にかえったという
雪深い新潟の故郷で
彼女を待つのは誰だろう

3

あの日あの時のことを日記につけた
「この日の彼女のことを小説を書こう」
彼女は、なぜ故郷にかえったのか
彼女を待っている男がいたのだろうか
いまだに彼女はぼくの小説にはあらわれない
ぼくはいたずらに肥厚しレストランのマスター
川澄さんの激辛のカレーライスをたべても
涙はうかんでこない
今日もぶじ
なにごともなく閉店することができた
なにもおこらなかった
それを幸せとする歳になっている
二階の照明を消して
階下への
階段を下りよう 

             完


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幻のカレーライス3  麻屋与志夫

2023-06-08 07:02:38 | 
6月8日
幻のカレーライス
3

あの日あの時のことを日記につけた
「ここからこの日の彼女のことから小説を書こう」
彼女は、なぜ故郷にかえったのか
待っている男がいたのだろうか
いまだに彼女はぼくの小説にはあらわれない
ぼくはいたずらに肥厚しレストランのマスター
川澄さんの激辛のカレーライスをたべても
涙はうかんでこない
今日もぶじ
なにごともなく閉店することができた
なにもおこらなかった
それを幸せとする歳になっている
二階の照明を消して
階下への
階段を下りよう 
                完



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幻のカレーライス 2 麻屋与志夫

2023-06-06 10:45:13 | 
幻のカレーライス


2

あるときゲルピンで街にでた
いつもの店のまえに立っていた
カレーライスをたべたい
ふつかもろくなものをたべていない
店のショーウインドウを
眺めていたら
真っ赤なコートを着た
いつものウエトレスがでてきた
「わたしがごちそうするわ」
話を交わしたのはそれがはじめて
「めぐんでもらうようでわるいから」
「失礼ですがいくらあるの」
「五十円」
卓についていると
大盛のライスのわきに福神漬けをたっぷりとのせ
カレーライスがはこばれてきた
「わたし急ぐのでどうぞごゆっくり」
ひとりぼっちの食卓でカレーをたべていたら
仲間がどやどややってきた
「泣いているのかおまえ」
「ああカレーが目にしみた」
かれらは笑った
彼女にとってあれが最後の給仕だった
翌日五十円返してまたカレーをたべようと
店にいった
彼女は故郷にかえったという
雪深い新潟の故郷で
彼女を待つのは誰だろう

          つづく

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幻のカレーライス  麻屋与志夫

2023-06-06 10:45:13 | 
幻のカレーライス

1

二階の照明の輝度をおとす
巨大なピクチャー・ウインドウの彼方
雪の日光連峰は夜の果てに霞む
眼下の晃望台の街は人影がとだえた
満目蕭条

ときおり野獣の眼光を光らして車が通る
ただそれだけで
今日も無事
なんとなく終わる

階下の客の声もまばらになる
レジスターの音もとだえがちだ
ひとり窓に孤影を映す
もう「ソラリス」もネオンをおとす時刻
厨房に降りて
川澄さんにカレーライスを御馳走になるかな

冬の夜
閉店まぎわのじぶんの店で
太っちよ中年がカレーライスをすする
さまにならないんだなぁ

いまは昔
四分の一世紀もたっちまったけど
日比谷の有楽座の前に
ニュートウキョウってレストランがあった
カレーライスがうまいので
友だちとよくでかていった
コーヒーが五十円くらい
カレーライスは百円だったかな
一か月働いて四千円の時代
ぼくら芸術家のエッグにはたいへんな金額だった
絵描きの玉子
詩人の玉子
役者の玉子
小説家の玉子
上手く孵化したところで金ぴかに輝く
世界に生きられるわけではなかった

夢二の世界からぬけだしたようなウエトレスが
ひっそりと近寄ってきて
しなやかな
ひかえめな
しぐさで
給仕をしてくれた

あのカレーの舌触り
その後味はすばらしかった
余韻のようにいまもひびいている

              つづく
 
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ルナちゃんは肩が凝らないの、悪夢はみないの。麻屋与志夫

2023-06-03 04:59:45 | 
6月3日 土曜日 雨
悪夢。
ウナサレタ。
妻におこされた。
3時。
そのまま早すぎる起床。
金縛りにあい、悪魔に日本カミソリで刻まれる夢だった。
思うに、10時間ほど、昨日はパソコンにむかい小説を書いた。
疲れがでたのだろう。
筋肉がつかれるのはスポーツのあとだけではない。
ルナは耳聡い。
GGを追いかけて来た。
離れに閉じ込めたままにしておくのは可哀想。
固形餌。
一つまみあげたいのだが。
やめた。
餌は計量してカミさんあたえている。
「ルナがデブ猫になったらどうするの」
叱られるのはいやだ。
目下わが家は、かみさんの完全支配下にある。
それにしても、ルナの元気なこと。
さっそく部屋のすみずみを獲物を探してあるいている。
ルナちゃん。
肩が凝らないの。
悪夢はみないの。


 
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ルナちゃんは、ねらった獲物はかならずつかまえる。 麻屋与志夫

2023-06-02 10:49:07 | 
6月2日 金曜日 朝から雨
つくづくハンターなのだと思う。
ルナが目線の先に小さな虫が飛んでいるのをとらえた。
「とびついたけど、だめだったの」
虫は床に落ちたが、逃げてしまった。

GGが書斎兼寝室にはいっていったとき。
ルナは鼻づらを床にこすりつけるように。
ひくくかまえて。
部屋のすみずみをさがしあるいていた。
逃がした虫をさがしている。
まさに狩人の執念。

獲物がおおきかろうがちいさかろうが。
関係ない。

いちど、狙った獲物はかならずしとめる。

ルナだったら猫だ。
かならず、つかまえる。

その執念たるや、恐るべし。

明け方までさがしあるいていた。
寝床で明け方おきあがった。
GGはおどろいた。
ルナがまだ虫をさがしていた。

「ぱぱ、もうあきらめたら」
「趣味として書いていたら」
「あまり苦しそうでみてられないわ」
娘や妻に慰めともとれる言葉をかけられる。

GGはルナの執念を見習うことにしている。
「ご同輩。がんばろうぜ」
とかく、この世は生きにくい。
でも執念だ。
執念だ。
ネバ、ギブ、アップ。
目的は達成できなくとも。

努力する過程も、美しい。


 
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ルナちゃん、お庭で遊びましょう。 麻屋与志夫

2023-06-01 07:52:19 | ブログ
6月1日 木曜日
野良猫を見かけなくなった。
猫好きのGGにとってはうれしいやら悲しいやら複雑な気持ちだ。

散歩していて猫ちゃんを見かけるのは楽しい。
よってきて足元にすりすりされるとぞくぞくする。
やせほそって毛並みもあれて汚れている猫に出会うと憐れをもよおす。
いつも携帯している固形餌を人目に触れないよう注意してそっとあげる。

わが家のアメショウはもちろん室内飼い。
本当は猫どうしで遊べる多頭飼いが望ましいのだが。
いまでは絶えずそうしてきた。
エサ代もこのところ値上がりしてGGの酒代をおびやかしている。

暖かな気候になった。
ルナは庭にでるのがたのしそうだ。
GGが靴を履く音がするとどこにいても、すっ飛んでくる。

横25縦2メートルの狭い庭だ。
先祖は広大なアメリカの荒野や農家の納屋などでネズミを狩ることを習性としてきた。
だから、ルナは庭にでても狩りをたのしんでいる。
ご先祖さまの血がさわぐのかもしれない。
とはいっても、駆り立てるネズミはいない。
たまにトカゲをつかまえたり、とんでいるトンボにとびついたりしている。

深岩石の塀の上に飛び乗ったりする。
あわててしまう。
外に逃げだされたらたいへんだ。
カミさんを口説いて本当は写真を載せたいのだがなーー。

これがGGとルナとのこのごろの日課だ。



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