田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

幻のカレーライス  麻屋与志夫

2023-06-06 10:45:13 | 
幻のカレーライス

1

二階の照明の輝度をおとす
巨大なピクチャー・ウインドウの彼方
雪の日光連峰は夜の果てに霞む
眼下の晃望台の街は人影がとだえた
満目蕭条

ときおり野獣の眼光を光らして車が通る
ただそれだけで
今日も無事
なんとなく終わる

階下の客の声もまばらになる
レジスターの音もとだえがちだ
ひとり窓に孤影を映す
もう「ソラリス」もネオンをおとす時刻
厨房に降りて
川澄さんにカレーライスを御馳走になるかな

冬の夜
閉店まぎわのじぶんの店で
太っちよ中年がカレーライスをすする
さまにならないんだなぁ

いまは昔
四分の一世紀もたっちまったけど
日比谷の有楽座の前に
ニュートウキョウってレストランがあった
カレーライスがうまいので
友だちとよくでかていった
コーヒーが五十円くらい
カレーライスは百円だったかな
一か月働いて四千円の時代
ぼくら芸術家のエッグにはたいへんな金額だった
絵描きの玉子
詩人の玉子
役者の玉子
小説家の玉子
上手く孵化したところで金ぴかに輝く
世界に生きられるわけではなかった

夢二の世界からぬけだしたようなウエトレスが
ひっそりと近寄ってきて
しなやかな
ひかえめな
しぐさで
給仕をしてくれた

あのカレーの舌触り
その後味はすばらしかった
余韻のようにいまもひびいている

              つづく
 
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