田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

時穴からもどれた/さすらいの塾講師 麻屋与志夫

2010-10-15 05:23:41 | Weblog
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純は部屋に飛びこんだ。
壁から少女の上半身か生えていた。
いや、壁に引き込まれている。
壁に食われているように見える。
「助けて」日名子であるはずの少女がか細い声で訴えた。
「日名子さんか?」
「はやく。助けて」
純は彼女の両手をにぎった。
一瞬、壁が大きく裂けた。
ふたりは壁にのみこまれた。
ぬらぬらしたものが、体にへばりついてくる。
不愉快だ。
気持ち悪い。
オゾマシサに全身が戦慄した。
物凄い速さで吸い込まれていく。
いや堕ちていくようだ。
日名子は静かだ。
失神してしまっているようだ。
闇の中で声がした。
「だれだ。そこに来たのはだれだ」
闇に仄かな光がさした。
川音が起きた。
ぼくは死ぬのか? 
死ぬのか??
川は、三途の川か。
アケロン河か。
今聞いたのは渡し守、カロンの声か。

「おお、美魔のところの若者か。まだここはお前の通過できるところではない。この時穴はおまえでは通過できない。ほんとうに死ぬぞ」
がっちりと体を受け止められた。
そしていまきた亞空間を引き返した。

「ちがうんだ。ぼくはこのヒトに助けられた」     

それだけ翔子に伝えるのがやっとだった。
意識がモウロウとなった。
どこかへ運ばれていく。
救急病院だろう。
翔子がなにか語りかけている。
暗黒に吸いこまれる感覚がまだある。
あのオゾマシイべたついてきた粘液性の感覚。
肌が覚えている。
憎しみが含まれていた。
あのねばねばした物質。
純は慄き、恐怖からぬけだせないでいる。


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