田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

純が消えた/さすらいの塾講師 麻屋与志夫

2010-10-12 00:04:44 | Weblog
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「ありがとう。はやかったわね」
「わたしたちは、パトロールしていたの。自警団があるのよ。百子からメールが来たの。ボスはいまバイクで大森からかけつける。さあ土蜘蛛さん。あんたらの相手は百地組よ」
 タノモシイ味方が続々駆けつけてくれた。
 わたしたちだけではない。
 このわたしたちの生きる社会に害をなすものと戦う正義感のつよいヤング。
 わたしたちだけではない。
 うれしさに涙ぐむ。
 痛む足をひきずりながらドアを押す。
 開かない。
 紅子がどこかに向かって大声を上げる。
「芝ちゃん。隣の部屋へ窓からはいって」
 ばさっと黒い羽根が窓の外に影をなげかけた。
 ガラスの割れる音。
 ドアが向こう側から開いた。
「純!!!」
 叫びながら飛びこんだ隣室。
 がらんとした空き部屋だった。
 純がいない。
 まちがいなくこの部屋に突入した。
 それなのに……??? 純がいない。
 部屋がきゅうに冷えた。
 いや翔子が震えていた。
 純が消えた。
 悪寒がする。
 不安と恐怖。
 純、どこなの。
 返事して。
 応えて。
 部屋からは、凶念。害意。悪意。殺意すら感じる。
 でもだれもいない。
 ほかに出口はない。
 耳をすましても純のいる気配すらない。
 恐れてあたりを見回してもやはり……誰もいない。
 この部屋には誰もいない。
「純。どこなの。どこにいるの。わたしを独りにしないで。純」
 翔子は足を引きずりながら部屋のなかをくまなく探す。
 あのとき一緒にこの部屋に飛びこめばよかった。
 純はどこに消えてはしまったのだ。
 焦燥のあまり翔子は泣きだしていた。
 純、がいない。
 純、が消えた。
 絶望的な不安が翔子を襲う。
 暗く致命的な不安にさいなまれる。
 純ともう会えなかったら……。
 純が死んでいたら……。
 わたしも生きていられない。
 幼いころからの純との思い出が、
たのしかった記憶が一気に翔子のなかでよみがえる。
「ああ、純、純、どこにいるの」
「異世界への裂け目がひらいたのね。そう思えば信行の現われたことも、土蜘蛛のことも解釈がきる」
 駆けつけて――部屋の隅々を検証したミイマがいう。
 駆けつけたミイマが静かに言う。
 なにか思い当ることあるのか。
 百子、と翔子にささやきかける。
「あわてないで……。わたしがなんとかする」
 ミイマは携帯を開く。
「玲加。聞こえる。異世界スリットで検索してみて」


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