田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

闇の一族(2)/三億八千万年の孤独 麻屋与志夫

2011-05-25 05:00:25 | Weblog
2

山の民は。
日光の山窩。
鬼。
だ。
というのは本当だった。
今風にいえば。
吸血鬼だというのは本当だった。
わたしは。
そのことを。
執筆中の、
『日光山勝道上人』という伝奇小説に書き加えたい。
智子が守ってくれたという。
デスクをPCで起こして書き加えたい。

竹藪をふきわたる風にのっていた。
わたしは美樹に向かって走っていた。
しかし待っていたのは智子だった。
そんなわけはない。
智子とは東京から戻ったときに初対面だったはずだ。
智子が恥ずかしそうにほほえんでいる。
そうか。
あの出会いはあまりに唐突だった。

……やっとわかったみたいね。
智子はわたしの妹。
過激派の連中に襲われて死んだ。
わ。


「ジイチャン。死なないで。死なないで」

美智子の嗚咽。
きこえる。
はるかかなたで。
わたしはまだあの部屋で倒れているのだ。
そしてそのわたしの体に美智子がしがみついる。
泣いている。
わたしは死にかけているのだろう。 

……智子はわたしの妹。
死んだことになっている。
でも、翔太郎が死んでも、黄泉の国で智子とは会えない。

智子は死んでいない。

智子もまたアンデッド。
不死のモノ。
闇の一族。
暗い森の中で暮らしていた一族の末裔。
翔太郎、あなたはまだ死ねないはずよ。
わたしたち姉妹のためにも生きていて。

うそだ。
智子が美樹の妹。
どうしても信じられない。
森閑とした森の黒い土の上に。
わたしは美樹とよこたわっていた。
遠い未来を語り合っていた。
小枝の群葉の合間から星空を見あげていた。
あの時から、美樹はずっとわたしにそばにいたというのが。
智子は美樹だ。
美樹は智子だ。
ふたりは姉妹だった。
なにがなんだか、わからなくなった。
混乱した。
確かなことは。
わたしが敵である。
と、おもっていた闇の一族の娘を深く愛していた。
いまも、愛しているということだ。
これはパノラマ現象だ。
ひとは死の瀬戸際に。
いままでの人生の思い出の場面が瞬時に脳裡に浮かぶ。
津波のように想い出のシーンがいっきにうち寄せるという。
わたしはやはり死に臨んでいる。
なんの違和感もなく、いまは……その事実を受けいれられる。
不思議だ。
わたしの定めは、人生は闇の一族の姉妹たちの手中にあった。
掌のなかに在った。
しかし、あれ以来、美樹と会ったこともない。
遠目に見たこともない。

だから――おかしい。
美樹の顔が、わかる。
美樹の声が、きける。
智子はどこだ。
智子はどこにいる。


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