田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

超短編 27 これいただくわ症候群(第二稿)

2012-11-29 16:54:35 | 超短編小説
「これいただくわ」症候群

               
「おい、高野、たすけてくれよ」
 イソ弁をしているぼくの携帯にかかってきた。携帯のデスプレイをみるまでもない。声はマルチタレントの山田からだった。
 周囲を気づかってぼくはパーティションのかげにかがんだ。声をひくめた。
「どんなご用件です」
「なんだ。その声は。友だちだろう。もっとフランクにいこうや。たすけてくれよ」
 たしかに、かれとは学友だ。
 でも卒業後は同窓会で会うくらいだった。
 タレントなのに内気な彼は数年前に結婚していた。
 その妻ともう離婚騒動だ。
 弁護をひきうけてくれ。
 という依頼だった。
 彼の妻は超売れっ子のスーパーモデル。
 野生のパンサーをおもわせる。
 精悍な肉食系女子だ。
 彼女のほうから口説いた。
 などと週刊誌でよんだことがある。

 弁護士がスーパーの店長を務める世の中だ。
 東大の法学部が定員割れする時世だ。

「独立する、チャンスじゃないか。やってみたら」
 と周りで励ましてくれた。

 妻の浪費癖が離婚のひとつの理由だった。
 山田がヒソカニ保存して置いた領収書の束はぼくを驚かせた。ぼくの一年分の給料でも買えないような貴金属類。これでは、山田が離婚したくなるわけだ。見たものは、ともかくすべて欲しくなる。
「これいただくわ」と衝動買い。金銭感覚がゼロ。
 おれの収入なんか、まったくかんがえないんだ。なにかいうと、すぐに歯をむいてくってかかる。引っかく。
 おれは、顔が売りもんだ。怖くなるよ。

 弁護士が山田の学友ということで、ぼくはマスコミのインタビューをうけた。週刊誌にも記事をかかされた。
 名前が売れた。
 仕事がはいってきた。
 懐も潤ってきた。
 裁判に勝った。

 夢の独立をお陰で果たすことができた。
 追い風にのった。
 まさに、順風満帆。
 得意の絶頂にあった。

 そんなある日、山田の元妻からぼくの事務所に電話がかかってきた。
「所長、電話です」
 ようやく、所長と呼ばれることにもなれてきた。

 いやみでも、いわれるのかとおもって覚悟していた。

 デスプレイの画面で彼女がにこやかにほほえんでいる。
「どう、ランチご一緒しない」
 にこやかにほほえみ。
 でも……わたしの頭には山田の言った言葉が響いた。
「衣服や貴金属にキョウミが集中しているうちに、わかれたいのだ」
 そうか。
 このほほ笑みにみんなだまされるのだ。
 彼女は〈肉食〉系。
 言葉どおりの、行動にでたら逃げられない。

「いま、おたくの事務所のそばまできているのよ」
 窓の外。
 向こう側の歩道で彼女が優雅に手をふっている。
 ぼくは恐怖を覚えた。
 戦慄した。

「あなた、いただくわ」

 といわれたら、ぼくは逃げられるだろうか。




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コメント (2)
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