「これいただくわ」症候群
「おい、高野、たすけてくれよ」
イソ弁をしているぼくの携帯にかかってきた。携帯のデスプレイをみるまでもない。声はマルチタレントの山田からだった。
周囲を気づかってぼくはパーティションのかげにかがんだ。声をひくめた。
「どんなご用件です」
「なんだ。その声は。友だちだろう。もっとフランクにいこうや。たすけてくれよ」
たしかに、かれとは学友だ。
でも卒業後は同窓会で会うくらいだった。
タレントなのに内気な彼は数年前に結婚していた。
その妻ともう離婚騒動だ。
弁護をひきうけてくれ。
という依頼だった。
彼の妻は超売れっ子のスーパーモデル。
野生のパンサーをおもわせる。
精悍な肉食系女子だ。
彼女のほうから口説いた。
などと週刊誌でよんだことがある。
弁護士がスーパーの店長を務める世の中だ。
東大の法学部が定員割れする時世だ。
「独立する、チャンスじゃないか。やってみたら」
と周りで励ましてくれた。
妻の浪費癖が離婚のひとつの理由だった。
山田がヒソカニ保存して置いた領収書の束はぼくを驚かせた。ぼくの一年分の給料でも買えないような貴金属類。これでは、山田が離婚したくなるわけだ。見たものは、ともかくすべて欲しくなる。
「これいただくわ」と衝動買い。金銭感覚がゼロ。
おれの収入なんか、まったくかんがえないんだ。なにかいうと、すぐに歯をむいてくってかかる。引っかく。
おれは、顔が売りもんだ。怖くなるよ。
弁護士が山田の学友ということで、ぼくはマスコミのインタビューをうけた。週刊誌にも記事をかかされた。
名前が売れた。
仕事がはいってきた。
懐も潤ってきた。
裁判に勝った。
夢の独立をお陰で果たすことができた。
追い風にのった。
まさに、順風満帆。
得意の絶頂にあった。
そんなある日、山田の元妻からぼくの事務所に電話がかかってきた。
「所長、電話です」
ようやく、所長と呼ばれることにもなれてきた。
いやみでも、いわれるのかとおもって覚悟していた。
デスプレイの画面で彼女がにこやかにほほえんでいる。
「どう、ランチご一緒しない」
にこやかにほほえみ。
でも……わたしの頭には山田の言った言葉が響いた。
「衣服や貴金属にキョウミが集中しているうちに、わかれたいのだ」
そうか。
このほほ笑みにみんなだまされるのだ。
彼女は〈肉食〉系。
言葉どおりの、行動にでたら逃げられない。
「いま、おたくの事務所のそばまできているのよ」
窓の外。
向こう側の歩道で彼女が優雅に手をふっている。
ぼくは恐怖を覚えた。
戦慄した。
「あなた、いただくわ」
といわれたら、ぼくは逃げられるだろうか。
今日も遊びに来てくれてありがとうございます。
お帰りに下のバナーを押してくださると…活力になります。
皆さんの応援でがんばっています。
にほんブログ村
「おい、高野、たすけてくれよ」
イソ弁をしているぼくの携帯にかかってきた。携帯のデスプレイをみるまでもない。声はマルチタレントの山田からだった。
周囲を気づかってぼくはパーティションのかげにかがんだ。声をひくめた。
「どんなご用件です」
「なんだ。その声は。友だちだろう。もっとフランクにいこうや。たすけてくれよ」
たしかに、かれとは学友だ。
でも卒業後は同窓会で会うくらいだった。
タレントなのに内気な彼は数年前に結婚していた。
その妻ともう離婚騒動だ。
弁護をひきうけてくれ。
という依頼だった。
彼の妻は超売れっ子のスーパーモデル。
野生のパンサーをおもわせる。
精悍な肉食系女子だ。
彼女のほうから口説いた。
などと週刊誌でよんだことがある。
弁護士がスーパーの店長を務める世の中だ。
東大の法学部が定員割れする時世だ。
「独立する、チャンスじゃないか。やってみたら」
と周りで励ましてくれた。
妻の浪費癖が離婚のひとつの理由だった。
山田がヒソカニ保存して置いた領収書の束はぼくを驚かせた。ぼくの一年分の給料でも買えないような貴金属類。これでは、山田が離婚したくなるわけだ。見たものは、ともかくすべて欲しくなる。
「これいただくわ」と衝動買い。金銭感覚がゼロ。
おれの収入なんか、まったくかんがえないんだ。なにかいうと、すぐに歯をむいてくってかかる。引っかく。
おれは、顔が売りもんだ。怖くなるよ。
弁護士が山田の学友ということで、ぼくはマスコミのインタビューをうけた。週刊誌にも記事をかかされた。
名前が売れた。
仕事がはいってきた。
懐も潤ってきた。
裁判に勝った。
夢の独立をお陰で果たすことができた。
追い風にのった。
まさに、順風満帆。
得意の絶頂にあった。
そんなある日、山田の元妻からぼくの事務所に電話がかかってきた。
「所長、電話です」
ようやく、所長と呼ばれることにもなれてきた。
いやみでも、いわれるのかとおもって覚悟していた。
デスプレイの画面で彼女がにこやかにほほえんでいる。
「どう、ランチご一緒しない」
にこやかにほほえみ。
でも……わたしの頭には山田の言った言葉が響いた。
「衣服や貴金属にキョウミが集中しているうちに、わかれたいのだ」
そうか。
このほほ笑みにみんなだまされるのだ。
彼女は〈肉食〉系。
言葉どおりの、行動にでたら逃げられない。
「いま、おたくの事務所のそばまできているのよ」
窓の外。
向こう側の歩道で彼女が優雅に手をふっている。
ぼくは恐怖を覚えた。
戦慄した。
「あなた、いただくわ」
といわれたら、ぼくは逃げられるだろうか。
今日も遊びに来てくれてありがとうございます。
お帰りに下のバナーを押してくださると…活力になります。
皆さんの応援でがんばっています。
![にほんブログ村 小説ブログ ホラー・怪奇小説へ](http://novel.blogmura.com/novel_horror/img/novel_horror125_41_z_majo.gif)