田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

超短編 11 光がまぶしかった  麻屋与志夫

2012-09-28 03:13:46 | 超短編小説
●光がまぶしかった

その村の小高い丘に学校は立っていた。
その村で唯一の学校の校舎は生徒たちを〈愛〉していた。
生徒たちと別れるのはつらかった。
悲しかった。
別れたくはなかった。

それで、何か事あるごとに学校に村人を呼び集めた。
毎月、いちどはママさんバレーやゲートボールの会場となっていた。
いや、村人を学校が呼び集めていたのだ。

いまも校庭で太極拳のような動きをみせる村人でひしめいていた。
いやこれはラジオ体操だ。
老人がおおいのでそのひとたちの動きを配慮している。
ゆっくりと、徒手体操をしているだけだ。

光の中で体をゆする。
光に向かって手をかざす。
首を曲げ、顔を上げて光をみあげる。
かっての生徒たちをみていると校舎は幸せだった。
教室の中の生徒は過疎化が進みまばらだった。
だからこそ、村人が大勢集まってくるのがうれしかった。

あんなことをして、遊んでいるのなら、働けばいいのに。
隣村の村人には批判されていた。

そして、その日その時。
Xデ―がきた。
大地が吼えた。
地底の深いところで地竜がのたうった。
大地が鳴動した。
大きく揺れた。
千年に一度ともいわれる地震が来た。
津波がきた。
眼下の村が海との境を失っていた。

村人たちは家畜も犬も猫も。
田畑の作物も。
樹木も。
家も。
生あるものも無いものもすべてを失った。

すべてが、押し流されるのをみた。
怒涛のような津波が引いていく。
――巨大な海の神ポセイドンが。
両腕を広げてだきこむように。
すべてのモノを海にさらっていった。
すべてが、海の藻屑となって消えていった。

「ああ、もうだめだぁ。なんにもなくなっちまった」
「いや、学校が残った。子どもたちも無事だ。また、一から始めねべぇ」

光がまぶしかった。



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