田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

必殺バラの鞭/さすらいの塾講師 麻屋与志夫

2010-08-22 09:58:32 | Weblog
21

mimaは採血室に入った。
医療品の臭いにガソリンの臭いが混ざっていた。
ミイマの腕が駆血用のゴムで縛られる。
採血用の注射針が刺される。真空採血管をつなぐ。
セットされた採血用真空試験管に蘇芳色のミイマの血がどくどくと吸いこまれていく。
血をみるとミイマは胸が熱くなった。
嫌悪感から吐き気がする。
「大丈夫ですか? 中止します?」
と看護師がやさしく労わりの言葉をかけてくれる。
血を抜かれるのはこの歳? になって初体験だ。
「歳よりずっとお若いですね」
と看護師はさらにやさしく言う。
献血者カードに記入した年齢もウソだ。
わたしがその年齢よりも、若く見えるどころか、
なんと平安の鬼が跋扈したころから生きていると知ったら、
この看護師どんな顔をするだろうか。

「ミイマ。なにも献血しなくても……」
「心配ないから。
それに白衣の看護師たちはフツウの人だわ。
あの献血車の秘密をあばくにはこれしかないでしょう」

といって入室した車の中だ。
看護師さんも親切。
なにもやましいことはない顔。
裏がある。表で働いている従業員にはなにも知らされていないのだ。

「どうだった。なにかヤバイことあった」
はるかにいま輝きだした風林会館のあたりのギラツク原色のネオンが見える。
夜間になっても献血車は動きださない。
次々と献血する人が入っていく。
車の後部扉が開いた。
人がなだれるように降りてくる。
舗道に吐いている。
喉をかきむしって苦しんでいる。
その数、十名ほど。
「いまよ、翔子。とどめを刺すのよ」
翔子にはなにが起きたのかわからない。
それでも、鬼切丸を抜くと彼らに向かって走りだした。

「わたしたち夜の種族は、同族の血を飲むとああなるのよ。
それを確かめたかった。あいつらまちがいなく、吸血鬼。遠慮はいらないわ」
ミイマも翔子と並走している。サスガはマインドバンパイャ。仲間内のことには明るい。
「捕食もせずに、血を飲む。セコイ手を思いついたものね」

ミイマのバラの鞭が吸血鬼の心臓に突きたつ。
ジュと音を立てて吸血鬼は溶けていく。

「すごい。すごいよ、ミイマすごい」
翔子も鬼切丸をふるいながら感動している。
ミイマは残忍な害意を感じてふり返る。
「おまえ、だれだ」


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