田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

純、愛してる/さすらいの塾講師 麻屋与志夫

2010-08-08 11:18:54 | Weblog
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翔子のモノローグ。
ゆらゆらと意識が戻り始め……
なにかにすがるような気持ちで現実の世界に戻ったとき、
そこに純がいた。
純がわたしに話しかけていた。
その声をたよりにわたしは目覚めたらしい。

ゆらゆらと海藻のようにゆらぎながら暗い海の底から浮かびあがったようだ。
白いシーツによこたわっていた。
ベットの脇に、そこに純がいた。
ながいこと暗闇で純のことを想っていた。
純に手をひかれていた。
鶴巻南公園でよく遊んだ。
砂場で砂のお城でもつくっていたのかしら。

「このお城でお兄ちゃんとケッコンスル。
翔子、いつまでもお兄ちゃんといたいもん。
この砂の城の、翔子、お姫さまなんだよ」
「ああいいよ。
お兄ちゃんも、翔子のことすきかも」

約束したのに、わたしが年頃になったとき、いなかった。
約束したのに、わたしが愛することが、どういうことか。
わかりかけてきたとき、純はわたしのそばにいなかった。

病室なので、
見舞いに訪れるひとがいないときは、
呆然とするほど孤独な時間が流れる。
その独りぼっちの時間に、純のことを想った。
家族の絆について考えた。
とくにいまはいない、かならずどこかで生きているはずの父について……。

純と2人で、悪霊とたたかえる。うれしい。
アイツラは『Upir』ユフィールと東欧地方では総括して呼ばれる存在。
吸血鬼、であり魔女、人狼だ。
わたしたちの敵は平安の昔からの日本では鬼。
何代にもわたってわたし達の家系の者は、
鬼と闘いつづけてきた。
戦いに勝利してはやく純といっしょになりたい。
結婚したい。
子どもを産みたい。

純、愛してる。


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