part11 番長襲名/ガントレット 栃木芙蓉高校文芸部(小説)
50
「文子さんが危ないわ。
いくら最強の監察官でも、
今回は粛清する吸血鬼がおおすぎる」
「ぼくもそう思う。
宇都宮には、大沢や下館がいる。
いつ反撃してくるかもしれない。
この栃木には鬼村とその配下がいる。
下野高校の番長グループも、
みんな吸血鬼化していると思わなければならないだろう」
「だったら、今夜からここへ呼んであげなさいよ」
それがいいだろうとGもいう。
携帯をかけた。応答がない。
龍之介はにわかに不安になった。
あのまま別れることはなかった。
文子は時間をジャンプするためにかなりのエネルギーを消耗したはずだ。
「ぼくのところへこないか。
Gも玉藻さんもよろこぶから」
そういって誘うべきだった。
夜の街には芳香が漂っていた。
沈丁花の匂いだろう。
街灯がまばらにしかついていない。
文子にきいておいた。
「巴波川」沿いの道を急ぐと人家がまばらになってしまった。
前方に人声がする。
人影のようにみえたが、墓石群だった。
石塔が黒々と薄闇の中に並んでいる。
墓地だ。
押し殺したような声がする。
「だれだ」墓石の根もとから人影がわいてでた。
いままで墓石の影に身をひそめていたらしい。
黒い影となってちかよってくる。
龍之介は驚きその場にたちすくんだ。
身構えた。
またトレンチコートのRFがあらわれたのか。
フラッシュライトで照らされた。
「オス。机じゃないか。おまえも参加するのか」
「先輩達ですか」
「ああ、おまえのことは、植木さんといっしょのところなんどもみている」
「どうした」植木の声だった。
「これ……なんのイベントですか。墓場で肝試しですか」
「まあ、それに近いな。慣例の番長選びさ。
おれはもう卒業だからな。
この墓地をむこうまで抜けられたやつが、
次期の芙蓉高校番長になれるのだ。参加したくてきたのだろう」
「それが」
龍之介は文子とともに鬼村とたたかったこと、
いま文子と連絡が取れないことをあわただしく話した。
「それは困ったな。その地図にかいてある山田の家はたぶんあそこだ」
番長が指差したのは墓地をぬける一歩道のさきの家の光だった。
闇の彼方にみえる家は二階建てらしい。
明かりがついている。あそこに文子がいる。
まだ別れて数時間しかたっていない。
それでも会いたさが募る。
歩きだそうとする。
番長に止められた。
「このみちの両側には番長の選考委員がひそんでいる。
素手で。あるいは得意な武器で。
通過するものをおそうことになっている。
赤いマークをつけられるように素手も武器も工夫してある。
まあ、ガントレットだ。
いまさら連絡のしようがない」
この狭窄した墓地の道を通りぬけることができるのか。
でも、そんなことでまごまごしている余裕はない。
文子のことが心配だ。
いまこうしてぼくがグズグズしている間にも、
テキニそわれるかもしれないのだ。
龍之介は歩きだした。
走っているようにみえる。
すり足で敵に切りこむときの要領で風のように動きだした。
one bite please 一噛みして。おねがい。
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「文子さんが危ないわ。
いくら最強の監察官でも、
今回は粛清する吸血鬼がおおすぎる」
「ぼくもそう思う。
宇都宮には、大沢や下館がいる。
いつ反撃してくるかもしれない。
この栃木には鬼村とその配下がいる。
下野高校の番長グループも、
みんな吸血鬼化していると思わなければならないだろう」
「だったら、今夜からここへ呼んであげなさいよ」
それがいいだろうとGもいう。
携帯をかけた。応答がない。
龍之介はにわかに不安になった。
あのまま別れることはなかった。
文子は時間をジャンプするためにかなりのエネルギーを消耗したはずだ。
「ぼくのところへこないか。
Gも玉藻さんもよろこぶから」
そういって誘うべきだった。
夜の街には芳香が漂っていた。
沈丁花の匂いだろう。
街灯がまばらにしかついていない。
文子にきいておいた。
「巴波川」沿いの道を急ぐと人家がまばらになってしまった。
前方に人声がする。
人影のようにみえたが、墓石群だった。
石塔が黒々と薄闇の中に並んでいる。
墓地だ。
押し殺したような声がする。
「だれだ」墓石の根もとから人影がわいてでた。
いままで墓石の影に身をひそめていたらしい。
黒い影となってちかよってくる。
龍之介は驚きその場にたちすくんだ。
身構えた。
またトレンチコートのRFがあらわれたのか。
フラッシュライトで照らされた。
「オス。机じゃないか。おまえも参加するのか」
「先輩達ですか」
「ああ、おまえのことは、植木さんといっしょのところなんどもみている」
「どうした」植木の声だった。
「これ……なんのイベントですか。墓場で肝試しですか」
「まあ、それに近いな。慣例の番長選びさ。
おれはもう卒業だからな。
この墓地をむこうまで抜けられたやつが、
次期の芙蓉高校番長になれるのだ。参加したくてきたのだろう」
「それが」
龍之介は文子とともに鬼村とたたかったこと、
いま文子と連絡が取れないことをあわただしく話した。
「それは困ったな。その地図にかいてある山田の家はたぶんあそこだ」
番長が指差したのは墓地をぬける一歩道のさきの家の光だった。
闇の彼方にみえる家は二階建てらしい。
明かりがついている。あそこに文子がいる。
まだ別れて数時間しかたっていない。
それでも会いたさが募る。
歩きだそうとする。
番長に止められた。
「このみちの両側には番長の選考委員がひそんでいる。
素手で。あるいは得意な武器で。
通過するものをおそうことになっている。
赤いマークをつけられるように素手も武器も工夫してある。
まあ、ガントレットだ。
いまさら連絡のしようがない」
この狭窄した墓地の道を通りぬけることができるのか。
でも、そんなことでまごまごしている余裕はない。
文子のことが心配だ。
いまこうしてぼくがグズグズしている間にも、
テキニそわれるかもしれないのだ。
龍之介は歩きだした。
走っているようにみえる。
すり足で敵に切りこむときの要領で風のように動きだした。
one bite please 一噛みして。おねがい。