戦わなくてすむなら、争いは避けたい。
これからまだ犠牲者をだすことには、耐えられない。
わたしの願いは水泡にきした。
執事の門倉が連れ去られた。
人狼からなにか連絡があるだろう。
「落ち着くんだ、美智子。こんなときこそ冷静になるんだ」
「なにいってるの。これは戦争なのよ。もう宣戦布告なしの戦いがはじまっているのよ。わたしたちは戦うように運命がきめられているの」
あまりにも、使い古されたことばで戦いがはじまろうとしている。
戦う運命。
そんな運命があるのか?
なんとかならないのか。
「もう食べられてしまったよ」
門倉の女房の椿がぼそっとつぶやく。
「そんなことない。奪還する」
もう戦いを思いとどまらせることはできないようだ。
椿が放心したようにふらふらと門に近寄る。
長屋門を開け放った。
驚いたことに、外も霧だった。
朝から深い霧。
この濃霧に踏み込むということは、人狼のしかけた罠にむかって進むということになる。
人狼がどうわたしたちに対処しようとしているのか。
わからない。
進むのみだ。
門の外。
街までは人外の修羅場。
「ここに待っていて。助けてくる。かならず助けてくるから」
と、祥代が悲嘆にくれる椿を励ます。
夜明けが訪れていた。
道場には朝日がさしていたのに。
この霧はこの辺りだけなのか。
街が動きだしている時間帯なのに濃い霧の中で静まりかえっている。
なにか音がする。
そうだ咀嚼音だ。
グシャクシャ、クシャグシャと肉を噛む音がする。
気のせいか生臭い臭までしてくる。
「霧の中にあいつらがいる。門倉さんが食われている」
女たちがさわぎだした。
「瀬尾、尾崎、レイコもさわぐな」
わたしは守る男になっていた。
だいぶ明るくなってきた。
霧が渦巻いて流れていく。
男として、たとえ婿の立場でも一族を守る男として行動するときがきたのだ。
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わたしの願いは水泡にきした。
執事の門倉が連れ去られた。
人狼からなにか連絡があるだろう。
「落ち着くんだ、美智子。こんなときこそ冷静になるんだ」
「なにいってるの。これは戦争なのよ。もう宣戦布告なしの戦いがはじまっているのよ。わたしたちは戦うように運命がきめられているの」
あまりにも、使い古されたことばで戦いがはじまろうとしている。
戦う運命。
そんな運命があるのか?
なんとかならないのか。
「もう食べられてしまったよ」
門倉の女房の椿がぼそっとつぶやく。
「そんなことない。奪還する」
もう戦いを思いとどまらせることはできないようだ。
椿が放心したようにふらふらと門に近寄る。
長屋門を開け放った。
驚いたことに、外も霧だった。
朝から深い霧。
この濃霧に踏み込むということは、人狼のしかけた罠にむかって進むということになる。
人狼がどうわたしたちに対処しようとしているのか。
わからない。
進むのみだ。
門の外。
街までは人外の修羅場。
「ここに待っていて。助けてくる。かならず助けてくるから」
と、祥代が悲嘆にくれる椿を励ます。
夜明けが訪れていた。
道場には朝日がさしていたのに。
この霧はこの辺りだけなのか。
街が動きだしている時間帯なのに濃い霧の中で静まりかえっている。
なにか音がする。
そうだ咀嚼音だ。
グシャクシャ、クシャグシャと肉を噛む音がする。
気のせいか生臭い臭までしてくる。
「霧の中にあいつらがいる。門倉さんが食われている」
女たちがさわぎだした。
「瀬尾、尾崎、レイコもさわぐな」
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だいぶ明るくなってきた。
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男として、たとえ婿の立場でも一族を守る男として行動するときがきたのだ。
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