ねこ庭の独り言

ちいさな猫庭で、風にそよぐ雑草の繰り言

『日本史の真髄』 - 106 ( 安倍頼良の反抗と藤原氏の戦い)

2023-05-31 20:32:22 | 徒然の記

  〈  第十九闋 赤白符 ( せきはくのふ )  奥州をめぐる武力抗争  〉

 奥州騒乱の遠因に関する渡辺氏の説明を、紹介します。

 「元来この俘囚 ( ふしゅう ) たちは、鎮守府の統治下で相当の自治権を持っていた。ところが朝廷で鎮守府将軍に任じられても、当人は赴任しないという〈遙任 ( ようにん ) 〉が多くなると、地方に独立の機運が醸成されてくるのは当然である。不在地主ならぬ不在長官、不在国司が増えたのが、藤原時代の時弊というべきものであった。」

 不在長官や不在国司の代理者が、守護・地頭だったと、中学生の頃歴史の時間で習った記憶があります。

 「公家は都の文化に憧れ、国司に任じられても草深い地方には赴任しない。しかしその利権だけは手に入れるというのであるから、虫のいい話である。そんな風潮が長く続けば、地方の俘囚も税や労力を出すのをしぶるようになる。それで陸奥や出羽の俘囚圏に独立の機運が起こったのである。」

 便利で華やかな都会暮らしを捨て、山野が広がるだけで何もない田舎を敬遠する公家の気持ちが、分からないではありません。不便なだけでなく、当時の田舎は子綺麗な都に比較すると、不潔だったのかもしれません。現在の人間は仕事となれば、生活のため不便な田舎にも転勤し、かって日本の高度成長を支えた企業戦士たちは、危険な外国ででも仕事に精を出しました。そのことを考えますと、平安貴族はわがままで、自己抑制のできなかった人々だったのかもしれません。

 「当時の陸奥や出羽は、東北地方全体にかけての広大な地域であったが、この時代に問題になったのは、陸奥では今の岩手県、出羽では今の秋田県と考えておけば良い。主な戦場は、今で言えばこの二県に限られているのだから。」

 東北には秋田と岩手だけでなく、この他に青森、山形、宮城、福島があります。名前が上がっていない他県は、さらに草深い無人の山野だったのでしょうか。そしてこの広大な東北の地で頭角を現したのは、どんな人々だったのでしょう。私の知らない実力者たちの名前を、氏が教えてくれます。

 「陸奥俘囚の酋長は安倍忠頼 ( ただより ) で、その子の忠良 ( ただよし ) は陸奥の大掾 ( だいじょう ) に任ぜられた。更にその子の頼良 ( よりよし ) は、父祖の権力を受け継いでますます強大となり、陸奥六郡 ( 伊沢、和賀、江刺、稗貫、志波、岩手 ) を全部劫略 ( ごうりゃく ) して、その豪帥 ( ごうすい ) と仰がれるようになった。」

 酋長という言葉に違和感があったはずなのに、氏はここで当然のように使っています。彼らを軽視しているからなのか、大掾 ( だいじょう ) の役職についても説明を省略しています。ウィキペディアによりますと、次のように書かれていました。

 ・とは、日本の律令制下の四等官制において、国司の第三等官(中央政府における「判官」に相当する)を指す。

 大掾、中掾、小掾の三区分がある。

 中世以後、職人・芸人に、宮中・宮家から名誉称号として授けられるようになり、江戸時代中期以後はとくに浄瑠璃太夫の称号となった。

 東北の大権力者に与える官職としては、それほど高くない職位であることが伺えます。こういうところにも、不満の種があったのではないでしょうか。

 「第十闋の「城伊澤  ( いざわにきづく ) 」にあったように、桓武天皇の御世に征夷大将軍坂上田村麻呂が伊沢に城を築いて、鎮守府を置いていたのであるが、安倍頼良は、その伊沢城より南の景勝地に衣関 ( ころもぜき・平泉のあたり ) を設けて、本拠となした。」

 朝廷の国司が長期不在になりますと、いよいよ頼良の実力行使が始まります。

 「衣関の北は津軽半島、南は白川関のほぼ中央にあたり、東北全体に睨みを効かすのに都合がよかった。そして海陸の資源も豊かだった。頼良が朝廷に年貢も収めず、労役も提供しなくなったのに、国司たちは手が出ない有様だった。」

 国際社会と同じ理屈で、何もしない朝廷は強大な武力を持つ豪族に侮られるばかりです。「憲法」に縛られた日本が何もできないため、近隣諸国にあなどられている様子と似ています。しかし当時の朝廷と藤原氏は、武力抗争を好まなかっただけで、武力を持たなかったわけでありませんから、我慢の限界を越えると武力を行使します。

 国内においてこの有様なら、まして国際社会においておやですが、今の日本の政治家やお花畑の国民にこの話が通じるのかどうか、次回は藤原氏の武力行使について氏の解説を紹介します。

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