ねこ庭の独り言

ちいさな猫庭で、風にそよぐ雑草の繰り言

『日本史の真髄』 - 94 ( 歴史を語る沢山の言葉 )

2023-05-08 12:46:00 | 徒然の記

 〈  十七闋 七日関白 ( なぬかくわんぱく )    藤原氏内部の権力闘争   8行詩  〉

 私は「十七闋」が渡部氏の著書のひとつの山場ではないかと、そんな気がしています。多くの人が、日本の過去を否定したくなるような事実を述べているのですから、勇気のいる部分です。早速「ねこ庭」のボウフラ君が、長いコメントを入れてきました。

 「時代時代の権力者にいい様に祭り上げられ、利用されて来た天皇・皇室の歴史。史実は史実、それを尊ぶと言うのならただ有り難がり、縛られるのでは無く、其処に在る「失敗」「間違った選択」から学び、先々を考え、新しい選択をする事こそが肝要であろう。」

 共産党親派のボウフラ君らしい読み方ですが、全くの間違いではありません。「過去の失敗」や「間違った選択」から、新しい日本の生き方を見つけ出すことは大切です。ボウフラ君と共産党の単純さは、日本の「過去の失敗」や「間違った選択」という思考を、「東京裁判史観」を根拠に作っているところです。ソ連を含む戦勝国同様に、日本を憎み蔑視する考えに立ち、日本の再建を未来永劫できないようにすることが正義だという、敵対思考を高く評価しています。

 自分の国を愛さない人間は、過去でも現在でも未来でも、世界では少数者でしかないという事実を知らないこと。共産党と親派のボウフラ君に欠けている常識がこれです。だから彼らの意見は、次のように単純です。

 「たかだか70数年、されど70数年。此処で断たれてしまえば、それこそ「たかだか70数年」だが、続けて行けば100年、200年と続く新しい日本の歴史と成る。先人の選択した新しい日本、それを貫いた70数年。その新しい日本を破壊し、破滅への道を逆走させようと暗躍する「怨日」「壞日」の思惑に乗る事が如何に愚かであるか。」

 「新しい日本に生き、そこで育った人間がその新しい「日本」を憎み、否定する事こそが「反日」だと、何故気付かないか。日本を破滅へと導きたい連中が言葉巧みに仕立て上げた「似非保守」の魔力に、その誘惑に容易に乗ってしまう愚かさに何故気付けないか。」

 したがって彼らは、亡国の「日本国憲法」制定以後の日本を高く評価し、理想化して語ります。この熱意と真摯さには、頼山陽が醍醐天皇の御親政を理想化して語る姿に似た強引さがありますから、笑ったりはしません。一つの思想を信じるということは、多少の欠陥があっても貫き通して信じるということですから、立派な態度でもあります。

 「その誘惑に容易に乗ってしまう愚かさに何故気付けないか。」

 ボウフラ君は「ねこ庭」で叫びますが、単純な事実が見えていません。これが現在の共産党勢力の退潮と朝日新聞の経営悪化につながっているという、事実が見えていません。

 「ボウフラ君と共産党の意見の根っこに、国への愛国心があるのか ?

  どんな最もらしい意見を述べても、自分の国を愛せない人間の言葉を本気にする国民はいないということ。日本だけでなく世界の常識ですから、彼らの主張は「根なしの浮き草」の空論として相手にされません。

 渡部氏は、ボウフラ君のような人間がいることを知っていますから、盲目的に頼山陽を賞めていません。

 「頼山陽は歴史を物語と見ていたから、今の歴史家なら史的な意味がないとして一顧も与えないようなエピソードを、しばしば『日本学府』に取り上げている。」

 氏は読者に対し、頼山陽の詩が絶対でないことを説明し、ボウフラ君のように強要していません。

 「〈七日関白〉の話は、藤原氏の閨閥と皇位の話であり、今から見れば泰平の些事にすぎない。しかしよく考えてみれば、いかにも藤原氏の時代らしい話である。」

 ですから本の読者は、私を含め、氏の言葉にたぶらかされているのでなく、自分で判断しながら読んでいるわけです。

 「たかだか70数年、生きただけの老害が語る〈日本の本質〉」

 ボウフラ君が私に呼びかける言葉ですが、笑ってしまいます。こんな悪態をつかなければ耳を傾ける気になるのですが、相手を挑発し、不愉快にさせることだけが議論だと思っている政党の親派らしい態度です。国会の質疑を見てください。彼らは日本のために何かをしようとしているのでなく、自由民主党を攻撃し批判し、挑発して失言を誘うだけのゲームをしています。

 歴史のつながりを教えてくれる近衛公の言葉、頼山陽の言葉、渡部氏の言葉、そしてこのボウフラ君の言葉と、今回は沢山の貴重な言葉が出てきますので、一つの山場の印ではないでしょうか。

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『日本史の真髄』 - 93 ( 藤原氏の権力闘争 )

2023-05-08 10:41:47 | 徒然の記

 今回は予定通り、順番に「書き下し文」と「大意」を紹介します。

 〈「書き下し文」( 頼山陽 ) 〉 8行詩

   宮門月明 ( あき ) らかにして宮漏 (  きゅうろう) 遅し

      天子出 ( い ) でむと欲 (  ほっ) して猶 ( なお ) 遅疑 ( ちぎ ) す 

   微雲 ( びうん ) 月を蔽 ( おほ )ひて君速 (  すみやか) に出 ( い ) ず

   太史 ( たいし ) 門前も君を促 ( うなが ) して馳 ( は ) す

   君は先ず髪 ( はつ ) を薙 ( そ ) ぎ、臣は父に辞す

   父は掌 (  しょう ) を撫 ( ぶ ) し、子は立ちて舞う

   表姪 ( ひょうてつ ) は帝となり、爺は國に當 ( あた )る

   吾は博 ( はく ) す 七日 ( しちじつ ) の関白 ( くわんぱく ) 職

 〈 「大 意」( 徳岡氏 )  〉

   王宮の門に月は明るく宮中の漏刻 ( とけい ) はゆるやかに時をきざむ

   天子は王宮を出離と決意しつつも、月光のあまりの明るさになおもためらう

   ふと、薄雲が月をおおい、これを好機と帝はすばやく王宮を出られる

   太史の門前は、帝をせき立てて駆けぬけた

   帝が髪をおろされたものを、臣たる者は父に挨拶しに帰ってそれっきり

   やったやった、と父はもみ手して喜び、子は立って舞う有様

   甥は帝となり父親は国政を掌握した

   おれも七日関白 ( なぬかかんぱく ) という職を、みごと手に入れた

 続いて、渡部氏の解説を紹介します。

 「当時の皇統図と藤原氏系図を並べてみると、これすべて近親関係者である。たとえば花山 ( かざん) 天皇の女御 ( にょうご ) よし子は、自分の母の従妹である。別の女御 ( にょうご ) まさ子は、遠縁の娘である。」

 「どこを見ても藤原氏だけなのであるが、その網の目のような関係の中で、藤原氏同士の権力闘争、宮廷闘争が行われ、天皇も巻き添えを食ったというのが、今回の闕 ( けつ ) の主題になっている。」

 天皇を取り巻く複数の藤原氏が、それぞれの近親の娘を女御として天皇の側におき、どの女性から子供が産まれても男子なら天皇になるということになります。自分の系統の女性が天皇を産めば、その藤原氏は外祖父として権勢が奮えるのですから、同族間でも争いが生じます。

 「第六十五代花山天皇は、第六十三代冷泉 ( れいぜい ) 天皇の長子だった。母は女御であった藤原懷 ( かね ) 子であり、生まれた場所は母の父、つまり外祖父である大納言藤原伊尹 ( これただ ) の邸である。」

 当時の天皇は外祖父の屋敷で生まれたり、そこで育てられるという例が少なくなく、花山天皇の父である冷泉天皇も、外祖父藤原師輔 ( もろすけ ) の屋敷で成長されたそうです。詩に詠われている政争は、師輔の子である伊尹 ( これただ ) 、兼通 ( かねみち ) 、兼家 ( かねいえ ) の三兄弟を中心に展開しています。三人の兄弟の立場を、次のようにまとめてみました。

 長男伊尹  

   ・娘の懷 ( かね ) 子が冷泉帝の女御となり、男子を産み、後の花山天皇

   ・氏 ( うじ ) の長者として摂政・太政大臣となり、村上天皇が和歌所を設立された時の別当 ( べっとう・長官 ) 

   ・冷泉天皇の外祖父として権勢を持ち、豪奢を好み、死後「謙徳公」の諡 ( おくりな ) をあたえられた

 次男兼通

   ・摂政・関白の地位を狙っていたが、弟の兼家が自分を押しのけてその職につくのではないかと、おそれていた

   ・村上天皇の時、中宮であった安子に頼み、自筆の文書を書いてもらっていた

   ・将来摂関の空きができたら、必ず兄弟の年齢の順序にしなさい、と書かれていた

   ・兼通はこの文書を肌身離さずに持っていた

   ・安子は兼通の妹であり、冷泉天皇と円融 ( えんゆう ) 天皇の御生母である

 三男兼家

   ・彼も当然野心家だった

   ・娘の超子 ( とおこ ) を冷泉帝の女御にしていたが、次女の詮子 ( あきこ ) を円融帝の女御にしようとしていた

   ・兼家と兼通の邸は隣接していて、訪ねる人があると兼通が公の場で罵るため、人々は夜分にこっそり訪れていた

 この三兄弟が具体的にどのように争っていたのか、これが今回の8行詩だそうです。興味深い話ではありませんが、過去を知る貴重な事実ですから知っておきたいと思います。

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