〈 第十八闋 月無缺 ( つきにかくるなし ) 藤原道長の栄華 7行詩 〉
今回も予定通り順番に、「書き下し文」と「大意」を紹介します。( 漢字のない部分をカナ表示にしています。)
〈「書き下し文」( 頼山陽 ) 〉 7行詩
月に缺 ( か )くる無く 日に缺くるあり
日光は太 ( はなは ) だ冷えて月光は熱し
枇杷第中 ( びわていちゅう ) に銀海 ( ぎんかい ) 涸 ( か ) る
金液 ( きんえき ) の丹 利 ( と ) きこと鉄のごとし
既生魄 ( きせいはく ) 蒡死魄 ( ぼうしはく )
日月並び缺けて天度 ( てんど ) 別 ( わか ) る
別に大星 ( だいせい ) の光の殊絶 ( しゅぜつ ) せる有り
〈 「大 意」( 徳岡氏 ) 〉
望月 ( もちづき )の欠けたることもなし、だが太陽には蝕がある
枇杷邸の内で 帝の瞳の銀の海は涸れ
薬と称して献じられた金液丹は、その効きめ、鍛えた鉄の凶器の切れ味そっくりだった
すでに生きながら魄 ( はく ) であった朕 ( わたし )だ。いっそ死んでハクとなろうよ。貴方はそう言って位をおりた
やがて日月いずれも衰えて、天の度 ( のり ) は別ものとなった
日でも月でもなく巨大な星の おそろしく光り輝くのが出現したのだ
いつもの通り、文字が読めても意味は理解できません。渡辺氏も読者の事情が分かっているらしく、頼山陽の詩を離れた解説をします。息子たちのためにもっと分かりやすくするため、私はさらに順番を入れ替え、前第十七闋の関連部分から紹介します。
「さて、六十五代花山 ( かざん ) 天皇を欺いて出家させ、第六十六代一條天皇を擁立した藤原兼家・道兼父子であるが、関白の地位は道隆に行って、なかなか道兼に移らず、道兼がようやくその地位を得ると七日にして死去した。」
これが前回の詩の内容で、一條天皇の母は兼家の娘詮子( あきこ ) だったというところまででした。
「次の世代の地位争いは、道兼の弟である道長と、道隆の子伊周 ( これちか ) との間に起こった、叔父・甥の競争である。」
副題にある通り今回は、藤原道長の栄華の詩です。第十八闋の最初のページに戻り、書き出しの部分を紹介します。
「藤原時代が後宮政治であることは、誰でも知っている。それが道長の時代に至って、極点に達したこともまた周知のことである。朝廷をめぐってその閨閥が、いかに濃厚に交差しているかは想像に余りある。」
入り組んだ閨閥の系図を、氏は読者のため作っていますが、大変な作業だったようです。
「この作業の方が、原稿そのものを書くよりずっと時間がかかった。道長の娘たちから生まれた男の子 ( 孫 ) たちに、それぞれ別の娘たちが嫁ぎ ( つまり叔母・甥の婚姻 ) 、さらにそこから生まれた男の子 ( ひ孫 ) たちに、別の娘や息子たちから生まれた娘たちが嫁ぐ ( この場合も叔母・甥の婚姻 ) 、ということがいくつも重なる。」
「系図には深く関係のない部分は省略したが、いかに網の目のような入り組み方であるか、一見してわかるであろう。」
氏の労作が挿入されていますので、よく分かりますが、複雑なため記憶するのが難しく、すぐ忘れそうです。どうしても見たい人には、氏の著書を図書館で借りられることをお勧めします。大事なことは、この近親婚で道長の栄華が保たれたと言う事実です。なぜこうなったのか、日本だけの特有の話なのか、次回はこの点に関する氏の解説を紹介します。