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古い本 その157 古典的論文補遺 その8

2023年11月21日 | 化石

Iguanodonのタイプ変更
 Iguanodonに関する記事は、「古い本 その92(古典的恐竜3)1825年(2022年3月29日掲載)にある。ここで、まとめとして、この属の模式種をIguanodon angulicus Holl, 1843とした。このブログでは調査が行き届かなかった。のちにベルギーのBernissartで完全な骨格がいくつも発見されたことから、ベルギーの種類 I. bernissrtensis が模式種に変更されていた。そのことは国際動物命名委員会の次の文で公告された。
⚪︎ ICZN 2000. Opinion 1947 Iguanodon Mantell, 1825 (Reptilia, Ornithischia): Iguanodon bernissartensis Boulenger in Beneden, 1881 designated as the type species, and a lectotype designated. The Bulletin of Zoological Nomenclature, Vol.57: 61-62.(Iguanodon Mantell, 1825(爬虫類・鳥脚類)についてIguanodon bernissartensis Boulenger in Beneden, 1881を模式種に指定、及び後模式標本の指定)
 そこに以下のIguanodon bernissartensis の原記載が引用されている。
⚫︎︎ Boulenger in Beneden, 1881, Bulletin de l’Academie Royale des Sciences, des Lettres el des Beaux-Arts de Belgique. Classe des Sciences. (3)1(5): 606. =ICNZの引用のまま。このブログの引用形式に直すと次のようになる。
⚪︎ Boulenger, George Albert 1881. [in Beneden] Sur l’arc pelvian chez les Dinosaurien de Bernissart; [par G. –A. Boulenger.] Bulletin de l’Academie Royale des Sciences, des Lettres el des Beaux-Arts de Belgique. Classe des Sciences. Série 3, Tome 1, No. 5: 600-608. (Bernissart の恐竜の腰帯について)
 いろいろと、命名のルールに関わることがある。まず、この論文は、van Beneden がBoulengerの意見を紹介する、という形式をとっている。この場合の命名者は規約ではその意見を表明した人として、Boulenger になりそう。日本でも化石脊椎動物の種類で、私信で記された新種を手紙の差出人の命名としている例もある。差出人が発表に同意したのかとか、気になることも多い。第一、BenedenはBoulengerの手記を紹介しておきながら、いくつか理由を挙げて「掲載に値しない」とまで言っているのだ(それなのに紹介はしている)。上記のICZNのこれに関する論文ではBoulenger in Beneden, 1881という形で記しているが、このブログでは、Boulengerの著作として扱った。
 George Albert Boulenger (1858-1937) はベルギー生まれ、イギリスで活躍した動物学者。2,000種以上の新種(主に魚類・両生類・爬虫類)を記載したという。
 対象となった標本は1878年にベルニサールの炭鉱で発見されたもので、後で述べるように翌年から詳しい記載がされる。Boulengerの論文は骨盤に限ったものである。文中次のように記されている。「(ベルニサールの)Iguanodonではその仙椎は6個からなる。一方大英博物館のものは5個からなる。.... 個体差をも考慮して、Boulenger 氏はベルニサールの種類を未知のものと考え、Iguanodon bernissartensis という名を追加した。」なお、この論文は図版を伴わない。Owenのモノグラフを探してみると次の図がある。

589 Owen 1854. Monograph Issue 27, Tab. 3. Iguanodon 仙椎腹面

 この標本がBoulengerの比較したものかどうかは分からないが、5個の仙椎が癒合している。前後両側の状態が今ひとつ明瞭ではないが。OwenはIguanodon 属のものとしている。標本の産出地は有名なイギリス南岸のWight島で、Sauli 氏の博物館所蔵。
 ベルニサールの完全骨格の研究はDollo が行った。彼はIguanodonに関して多数の論文があるというが、一番重要なのは1882年から1883年にかけて公表した4つの論文だろう。それらが次のもの。
⚪︎ Dollo, Louis Antoine Marie 1882a. Premiére Note sur les Dinosauriens de Bernissart. Bulletin du Musée Royal d’Histoire Naturelle Bergique.Tome 1: 161-178, Planche 9.
⚪︎ Dollo, Louis Antoine Marie 1882b. Deuxiéme Note sur les Dinosauriens de Bernissart. Bulletin du Musée Royal d’Histoire Naturelle Bergique.Tome 1: 205-211, Planche 12.
⚪︎ Dollo, Louis Antoine Marie 1883a. Troisième Note sur les Dinosauriens de Bernissart. Bulletin du Musée Royal d’Histoire Naturelle Bergique. Tome 2: 85-120, Planche 3-5. 
⚪︎ Dollo, Louis Antoine Marie 1883b. Quatrième Note sur les Dinosauriens de Bernissart. Bulletin du Musée Royal d’Histoire Naturelle Bergique. Tome 2: 223-248, Planche 9. (Bernissartの恐竜に関する第1から第4のノート)
 これらにはそれぞれ図版があるが、合計で6図版と数少なく、文中図はない。文章もそれほど長くはない。いちばん有名な図が、全身の「カンガルー型」復元図である次のもの。

590 Dollo 1883a, Planche 5. Iguanodon bernissartensis. スケールは書き直した。

 他にも、頭骨のスケッチは美しい。

591  Dollo 1883b, Planche 9(一部).  上Iguanodon bernissartensis 頭骨左側面. 下 同左下顎舌側 一部を取り出して並べ直した。

 この論文には仙椎の図は含まれない。しかし、Dolloは、彼はそれまでに発表された幾つかの種類のIguanodonを3種類にまとめた。仙椎が4個の脊椎からなるIguanodon Prestwichii、 5個の仙椎を持つIguanodon Mantelli、それに6個の脊椎を持つIguanodon Bernissartensis である。つまりこの論文の分類はすぐ前の年のBoulengerの骨盤の研究にかなりの重要性を認めて頼っている。それなら、Boulengerの書いた図(Benedenにより、出版物に採用されなかった)などそこに関する図がありそうなものだ。Dolloの多くの論文のどこかに仙椎のスケッチがある可能性があるが、探せなかった。