のらやま生活向上委員会 suginofarm

自然と時間を、都市と生命を、地域と環境を、家族と生きがいを分かち合うために、農業を楽しめる農家になりたいと考えています

ドリフトマニュアル

2006年02月14日 | 農のあれこれ
農協へノコギリ替え刃を買いに行きましたら、カウンターに『ドリフト対策マニュアル』(社団法人 日本植物防疫協会)というなんとなく硬めの冊子がありました。隣には全農が出した「農薬散布に気をつけましょう」というパンフレットもありました(トンボの写真のあるもの)。

ドリフトっていうと車の運転技術の「ドリフト走行」ぐらいしかなじみがなかったのですが、この問題、もしかしたら農業現場における今年最大の課題かもしれません。ドリフトdriftを英和辞典で引くと「漂う、漂流する」とあります。農業現場で問題にするのは農薬が漂うこと。目的園地外へ飛散すること。これまでも周辺の住宅や走行している車に飛散したと問題になったことはあります。水田の空中散布などは常に抱えてきた問題です。

ではなぜ今年、大騒ぎをしているかというと、今年の5月29日より食品衛生法が改正され、残留農薬が一定基準以上であった場合に食品の販売等が禁止されるようになります。えっ?!これまで基準ってなかったの?って驚かれる方もいらっしゃるかもしれませんが、もちろんありました。ただし、作物ごとに指定された化学成分の基準値があっただけで、もし指定以外の化学成分が残留していたとしても無視されてきました。それが、残留基準値が設定されていない農薬等が一定量以上含まれる場合も規制の対象となります。この一定量とは「人の健康を損なうおそれのない量として厚生労働大臣が定める量」として、一律0.01ppmとされています。これを残留農薬のポジティブリスト制度と呼んでいます。

具体的な例で説明しますと、これまでは野菜には野菜の残留農薬基準、米には米の残留農薬基準がありました。もし、野菜には使わない米の農薬が野菜に残留していても問題とはなりませんでした。米用の農薬を野菜に使うということは想定していないわけです。ところが現実には、たとえば水田農薬の空中散布により水田に囲まれた畑などには米用の農薬が飛散しています。これからは野菜に米用の農薬でも0.01ppm以上残留していたら問題にしましょうということです。

これからは自分の畑でどう農薬を使うかを心配するだけでなく、隣の畑でどういうふうに農薬を使うのかまで心配しなければならなくなります。これまでは農家と非農家の間で農薬の飛散問題があったのですが、これからは農家間でも問題になります。販売禁止や残留農薬のイメージダウンにより直接的に被害が発生するためにこれまで以上に厳しい状況になることも想定されます。

特に果樹農家はステレオスプレーヤという強制的に風を送るファンを使った散布機を使いますので、被害者よりも加害者になる可能性があります。先日、県の果樹連でもこの問題に関する会合が開かれたようです。風のない時を選んで散布するとか、適切なノズルを選ぶとか、遮蔽ネットを設置するとか、いろいろと対策は考えられるのですが、自分だけの注意では防げない部分もあるのも確か。周辺農家と意思疎通を一層密にするのが一番なのかもしれません。

これからはナシは山林の間か住宅地の中でしか作れなくなるかも。それにしても「ドリフト」だとか「ポジティブリスト」とか、まず意味を理解しなければならないことが多い課題です。