ベリー
秋の野山を歩くとガマズミ、ムラサキシキブ、アオハダなどが実をつけているのに出会う（図１）。これらの果実は大きさが概ね直径５㍉㍍から１㌢㍍であり、緑の中にあると目立つ、赤や紫といった色であることで共通している。この程度の大きさがスズメからヒヨドリくらいの鳥がひと飲みするのにちょうどよいのである(Wheelwright, 1985, 中西, 1994, 1999)。また色覚がよく発達した鳥にとって、緑色の葉の中にある赤系統の色はよく目立つに違いない（なかにはネズミモチなどのようにほとんど黒い果実もあり、われわれ人には目立たないように思えるが、鳥の目には目立つらしい[Willson and Thompson, 1982]）。ほかの植物が枯れた冬に緑色の葉の脇についているマンリョウ、サルトリイバラ、ヤブコウジなどの赤い果実はまことに目に鮮やかである（図１）。まったく系統の違う植物にこのような共通の性質があるということは、「私はおいしいよ」というメッセージを発していると理解するのが自然であろう。興味深いことに、外見に共通性が大きくても、中に含まれる種子は大きさも形も大きく違うことがよくある。このことも、もともと違う果実が、食べてもらうという共通の目的をもっていたために変化したことを強く示唆する。その相手は鳥であり、実際、秋から冬には鳥たちはこれらの果実を食べ、飛んでいって糞を排泄して、種子を運ぶ。もしこのことがうまくゆかなければ、植物による投資、つまりおいしい果実や目立つ果皮を作ることはむだになって、そのような形質は消滅するに違いない。
ガマズミなどに代表される「ベリー」は甘く、多汁質なことが特徴である。これを典型として、さまざまな変異がある。たとえばゴンズイの種子は黒く、これを支える果実は袋状なので「袋果」と呼ばれるが、これも赤くてたいへん目立つ構造になっている（図２）。この袋果は、色は目立つが果肉はなく、仮に鳥が食べても栄養はありそうもない。またミズキやクマノミズキは、果実は黒っぽい紫で人の目にはさほど目立たないが、これを支える果柄が赤色でしかもかなり大きいのでよく目立つ（図３）。食べられなくても、「ここにおいしい果実があるよ」という「広告」をするほうが鳥を誘引できるのである。同じようにクサギなども青黒い果実を赤い萼が支えており、どぎついほどの色の組み合わせである。このようなツートンカラーは確かによく目立つ。ツルウメモドキやマユミなどの果実は果肉と呼べるものはなく、黄色く硬いもので鳥は食べないが、その内側にまっ赤な仮種皮があって鳥にとってはこれが「果実」に見える（図３）。これらの鮮やかな色合いは人の目にも印象的なので、生け花によく使われる。
鳥に食べられる果実にはこのほかにもさまざまなタイプがあるが、これまでの説明でも、いかに鳥に色彩的広告を出しているかは理解されたであろう。
鳥に食べられることにメリットがあるとしても、砂嚢でつぶされたり、消化液に曝されたりすることは、種子にとって危険だと思われる。実際、鳥の体内に入ってから死亡する種子もあるが、興味深いことは、かなりのベリーの種子は消化を受けても死亡しないということである。それどころか消化を受けるほうがむしろ発芽率が高くなるものさえある。発芽生理はきわめて複雑な過程だが、種子の一部が傷ついたり、化学処理を受けることで発芽が促進されるということがあるらしい。
「不思議の国のアリス」の童話にでてくるドードーという鳥は人に獲られて絶滅してしまったが、このドードーが食べなければ発芽できないカリバリア（アカテツ科）という植物がある。カリバリアはドードーがいなくなった今、果実を着けても種子が発芽できないために、絶滅の危機にさらされているという。こうなると、鳥に食べられても大丈夫どころか、鳥に食べてもらわなければならないという、「抜き差しならぬ関係」ということになる。
哺乳類もベリーを食べるが、なんといっても鳥は「飛ぶ動物」である。一瞬で長距離を移動するから、種子は遠くに運ばれる。じつは鳥は体を軽くするために、食べたものを素早く通過させるので、当初研究者たちが予測していたほど遠くには運ばれないことがわかったが、それでもなお鳥の「高飛び」は種子散布に有効である。
ガマズミ 2005.9.26 宮城県金華山
アオハダ 2005.9.26 宮城県金華山
ムラサキシキブ 2006.11.28 東京都小平市
マンリョウ 2006.2.27 東京都三宅島
秋の野山を歩くとガマズミ、ムラサキシキブ、アオハダなどが実をつけているのに出会う（図１）。これらの果実は大きさが概ね直径５㍉㍍から１㌢㍍であり、緑の中にあると目立つ、赤や紫といった色であることで共通している。この程度の大きさがスズメからヒヨドリくらいの鳥がひと飲みするのにちょうどよいのである(Wheelwright, 1985, 中西, 1994, 1999)。また色覚がよく発達した鳥にとって、緑色の葉の中にある赤系統の色はよく目立つに違いない（なかにはネズミモチなどのようにほとんど黒い果実もあり、われわれ人には目立たないように思えるが、鳥の目には目立つらしい[Willson and Thompson, 1982]）。ほかの植物が枯れた冬に緑色の葉の脇についているマンリョウ、サルトリイバラ、ヤブコウジなどの赤い果実はまことに目に鮮やかである（図１）。まったく系統の違う植物にこのような共通の性質があるということは、「私はおいしいよ」というメッセージを発していると理解するのが自然であろう。興味深いことに、外見に共通性が大きくても、中に含まれる種子は大きさも形も大きく違うことがよくある。このことも、もともと違う果実が、食べてもらうという共通の目的をもっていたために変化したことを強く示唆する。その相手は鳥であり、実際、秋から冬には鳥たちはこれらの果実を食べ、飛んでいって糞を排泄して、種子を運ぶ。もしこのことがうまくゆかなければ、植物による投資、つまりおいしい果実や目立つ果皮を作ることはむだになって、そのような形質は消滅するに違いない。
ガマズミなどに代表される「ベリー」は甘く、多汁質なことが特徴である。これを典型として、さまざまな変異がある。たとえばゴンズイの種子は黒く、これを支える果実は袋状なので「袋果」と呼ばれるが、これも赤くてたいへん目立つ構造になっている（図２）。この袋果は、色は目立つが果肉はなく、仮に鳥が食べても栄養はありそうもない。またミズキやクマノミズキは、果実は黒っぽい紫で人の目にはさほど目立たないが、これを支える果柄が赤色でしかもかなり大きいのでよく目立つ（図３）。食べられなくても、「ここにおいしい果実があるよ」という「広告」をするほうが鳥を誘引できるのである。同じようにクサギなども青黒い果実を赤い萼が支えており、どぎついほどの色の組み合わせである。このようなツートンカラーは確かによく目立つ。ツルウメモドキやマユミなどの果実は果肉と呼べるものはなく、黄色く硬いもので鳥は食べないが、その内側にまっ赤な仮種皮があって鳥にとってはこれが「果実」に見える（図３）。これらの鮮やかな色合いは人の目にも印象的なので、生け花によく使われる。
鳥に食べられる果実にはこのほかにもさまざまなタイプがあるが、これまでの説明でも、いかに鳥に色彩的広告を出しているかは理解されたであろう。
鳥に食べられることにメリットがあるとしても、砂嚢でつぶされたり、消化液に曝されたりすることは、種子にとって危険だと思われる。実際、鳥の体内に入ってから死亡する種子もあるが、興味深いことは、かなりのベリーの種子は消化を受けても死亡しないということである。それどころか消化を受けるほうがむしろ発芽率が高くなるものさえある。発芽生理はきわめて複雑な過程だが、種子の一部が傷ついたり、化学処理を受けることで発芽が促進されるということがあるらしい。
「不思議の国のアリス」の童話にでてくるドードーという鳥は人に獲られて絶滅してしまったが、このドードーが食べなければ発芽できないカリバリア（アカテツ科）という植物がある。カリバリアはドードーがいなくなった今、果実を着けても種子が発芽できないために、絶滅の危機にさらされているという。こうなると、鳥に食べられても大丈夫どころか、鳥に食べてもらわなければならないという、「抜き差しならぬ関係」ということになる。
哺乳類もベリーを食べるが、なんといっても鳥は「飛ぶ動物」である。一瞬で長距離を移動するから、種子は遠くに運ばれる。じつは鳥は体を軽くするために、食べたものを素早く通過させるので、当初研究者たちが予測していたほど遠くには運ばれないことがわかったが、それでもなお鳥の「高飛び」は種子散布に有効である。
ガマズミ 2005.9.26 宮城県金華山
アオハダ 2005.9.26 宮城県金華山
ムラサキシキブ 2006.11.28 東京都小平市
マンリョウ 2006.2.27 東京都三宅島
