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『わたしの先生』(読書メモ)

岩波書店編集部編『わたしの先生』岩波ジュニア新書

岩波ジュニア新書が好きである。子供向けにやさしく書かれているのに質が高いからだ。本書は、各界で活躍する12人の方が、自分の先生について語ったもの。

一番印象に残ったのは、日本を代表する動物行動学者であった日高敏隆氏の話。

戦時中、体の弱かった小学3年生の日高氏は、学校の先生や両親から「体の弱いおまえなんか兵隊にはなれないから、早く死んでしまえ」と言われ続け、本当に死んでしまおうと思っていたらしい。戦時下とはいえ、自分の両親からそんなに酷いことを言われるなんて、信じられないことである。

そのころ昆虫が大好きだった日高氏は「兵隊になれなくても昆虫学者にはなれる」と父親に告白したところ「とんでもない、勘当だ」とどやしつけられ、本気で自殺を考えるようになる。

そんなとき、小学校の担任の米丸先生が自宅を訪れた。

「びっくりしている父と母の前で、いきなりぼくに「おまえは自殺することをいいと思うか、悪いと思うか?」と聞いた。虚をつかれてぼくは、思わず「悪いと思います」と言ってしまった。とたんに先生は声を荒げた。「おまえは自分が悪いと思っていることをなぜしようとするのだ!」驚いている父母に向かって先生は言った。「いきなり変なことを言って申し訳ありません。けれど敏隆君は本気で自殺を考えています。お願いですから敏隆君に昆虫学をやらせてやってください」。びっくりした父は「やらせます、やらせます」と答えた。即座に先生は「さあ、お許しがでたぞ。ちゃんと畳に両手をついて、おとうさんありがとうございます、と言いなさい」と言った。もちろんぼくはすぐそうした。」(p.131-132)

米丸先生の凄さは、まず日高氏の自殺願望を察知していたこと、そして、日高氏の関心を知っていたこと、さらに、絶妙のタイミングで家に乗りこみ両親を説得してしまったことだ。

ここまで他人のことを考えられる人というのは稀である。たぶん米丸先生は、生徒一人一人のことを親身になって考えていたのだろう。

この話ほど劇的ではなくとも、先生からの一言は私たちの進むべき道に影響を与えているのではないか。今思い返しても、自分の人生を左右した先生方のお言葉を思い出す。

先生の存在の大きさを実感した。







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