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『介護現場はなぜ辛いのか』(読書メモ)

本岡類『介護現場はなぜ辛いのか:特養老人ホームの終わらない日常』新潮社

人のために役立つ立派な仕事なのに、厳しいといわれる高齢者施設の現場。

本書は、特養老人ホームに非常勤職員として働いた著者の経験を綴ったもの。現場で働く職員さんの大変さがリアルに伝わってきた。

介護現場の問題点として、本書を読んで感じたのは次の2点。

第1に、情報共有や人材育成に費やす時間がない。本岡さんは次のように指摘する。

「かつて私は出版社に勤務していたが、プラン会議、連絡会議などについては、該当する編集部員は出張中でもない限り、全員が出席する。むろん、それらは勤務時間内に開かれる。介護施設の場合、そうはいかない。ぎりぎりの数のスタッフで切り盛りされている現場では、勤務時間内に研修を行おうとしても、割ける人数は限られている。(中略)むろん、勉強会や研修は必要だ。が、下手に開くと、職員の疲労を蓄積させ、不満を鬱積させるだけの結果におわってしまう。」(p.174)

第2に、介護に熟達したベテラン職員が改革のブレーキになってしまうことがあるという。

「私の知人で、介護の世界に八年いた笠井友恵さんは、特養ホーム時代に、こんなことがあったという。「銀行にいた人が施設長として入ってきて、普通の世界の組織ではこんなふうになっているからと、いろいろと改革をしようとしたんです。だけど、上手くいかず、その人は一年で辞めてしまった」なぜ、新しい意見や改革が受け入れられないかといえば、直接的にはベテラン職員の存在、間接的には人材不足に、その原因があるのでは、と思う。どの世界でも似たようなものだろうが、ベテランになるほど、それまでのやり方を変えたがらない」(p.217)

限定された資金→人手不足→仕事の負担増→離職率アップ→ベテラン職員への依存→組織改革の遅れ、という悪循環があるように思う。別の介護本も読んだが、上手くやっている施設もあるらしいので、まったく改革が不可能ということはないだろう。

こうした負の連鎖からどうやって抜け出すか。介護組織の経営力が問われている、と感じた。



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