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『想い出の作家たち』(読書メモ)

文藝春秋編『想い出の作家たち』文春文庫

江戸川乱歩、横溝正史、山本周五郎、井上靖など、日本を代表する13人の作家について、彼らの奥さんや娘・息子さんにインタビューした記録である。

13人の作家たちは、誰もが相当の変わり者。というか、ほとんど子供である。よくこんな人たちと一緒に暮らしていたなと感心する。

一番印象に残ったのは新田次郎(ただ、彼はかなりまともな方)。奥さんは作家の藤原てい。彼女が書いた中国からの引き上げ記録『流れる星は生きている』が百万部を超えるベストセラーになったという意味で、先に文壇にデビューしたといえる。

気象台に勤務していた新田次郎は、どうも、この奥さんに刺激を受けて小説を書き始めたようだ。内緒で書いた『強力伝』が昭和30年に直木賞を受賞する。

少し引用してみたい。

「気象庁から帰宅すると、夕飯のあと、酒好きの男が一滴も飲まないで、濃いコーヒーを一杯飲んで二階の書斎へ上がっていくんです。階段を昇りながら「戦いだから、戦いだから」と声を出して昇っていくんです。」(p.286)

「新田が本格的に小説を書きはじめた頃から、私は次第に彼の小説を読まなくなりました。新田は「おまえも読め」とよく命令しましたが、読むと「ここはこういうふうに書いた方がよかった。あそこはこうすべきだったんじゃない?」とついストレートに口を出してしまうのです。それを言うと新田はものすごく怒るんです。「何を言うか。このドン百姓!」(笑)サムライの出のあなたとちがって、私の家は百姓です、と初めから言っていたのですが、いつの頃からか、百姓の上にドンがつくようになった(笑)。」(p.287)

この他、ほぼすべての作家が魅力的な人たちだった。

本書を読むにつれ、小説というものは作家だけでなく、奥さんや子供が一緒に創っているんだな、と思った。

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