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『あの日にドライブ』(読書メモ)

荻原浩『あの日にドライブ』光文社文庫

「もしあのとき、違う会社に入っていたら」「もしあのとき、彼女と結婚していたら」今より良い人生を歩めたに違いない。だれしも過去の選択を振り返り、別の人生を思い描いたことがあるのではないか。

一流大学を出て、エリート街道まっしぐらだった主人公・伸朗(43歳)は、ふとした一言がきっかけで都市銀行を辞めることになる。腰かけのつもりでタクシードライバーになったものの、収入も激減し、家族からもバカにされ、タクシードライバーとしても半人前の伸朗は、妄想の世界に逃げ込む。

昔つきあっていた彼女を探したり、入社したいと思っていた出版社を訪ねたり、大学時代に住んでいたアパートに行ってみたり、伸朗は思いっきり現実逃避する。

しかし、昔の彼女は嫌なヤツであることがわかったり、昔入りたいと思っていた出版社がしょうもない会社になっていることがわかると、徐々に現実を直視するようになる伸朗。

一番良かったのは、タクシードライバーとして成長していくところ。成績のよいベテランドライバーの後をつけて勉強しているうちに、だんだんとツボがわかってくる。どうしようもないと思っていた妻や子供たちにも愛情がわいてくる。

目の前にある仕事にどのように取り組むか、目の前にいる人々とどのように向き合うかによって、人生の意味が変わってくる。そのことがよくわかる小説だった。

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